22 闇堕ち令嬢、姉妹の契りを交わす
リリスは、自分の頑なな態度が多くの敵を作り出していることはよく知っている。
一周目の人生では、そのせいで破滅の運命を迎えたのだ。
それでも、リリスは自分のこの生き方を変えるつもりは無かった。
どれだけ多くの敵が立ちはだかろうとも構わない。迎え撃って返り討ちにしてやるまでだ。
――そう、思ってたのに……。
味方は誰もいない。周囲の誰もが敵だ。
イグニスだって、今は契約上の協力関係にあるにすぎない。
だから、一人でいいと思っていたのに……。
「こんな風に、お友達ができるのなんて、初めてで……」
照れたようにはにかむレイチェルを見ていると、何故だか心が揺らいでしまう。
いや、待て。今、レイチェルはなんと言った……?
「お、友達……?」
「あっ、はい。こうやってお家を行き来できるような、お友達、が……」
恥ずかしそうにそう口にしたレイチェルの表情が、リリスの顔を見た途端みるみる強張っていく。
「ごっ、ごめんなさい……! 私ごときがリリス様のお友達なんて、厚かましいですよね……!」
涙目で慌てたように謝罪するレイチェルを見て、リリスははっと我に返った。
「ちっ、違うのよ、その……」
――だって、レイチェルみたいな素直な子に「お友達」なんて言われるの、初めてなんだもの……!
一周目の人生にも、「お友達」らしき者たちはいた。
いや……結局彼女たちは、リリスに取り入ろうとする「取り巻き」でしかなかった。
リリスの形勢が悪くなれば、簡単に裏切る程度の関係でしかなかったのだ。
――でも、レイチェルは違うのかもしれない。
ここ最近の、レイチェルと共に過ごした記憶が蘇る。こんな風に心の底から笑い合える相手は、一周目の人生にはいなかった。
もしかして、彼女なら……。
知らず知らずのうちに、リリスはレイチェルの手をそっと握っていた。
「……レイチェルは、私を裏切らない…………?」
おそるおそるそう問いかけると、レイチェルは驚いたように目を丸くした後……大きく頷いた。
「……はい。リリス様が望むのなら、ずっとこうして一緒にいさせてください」
震えるリリスの手を、レイチェルがそっと握り返してくれた。
――これが、お友達なの……? でも、もっと強固な証が欲しい。友達よりも、もっと強い――。
「ぬるい。生ぬるいわ」
「えっ、リリス様……?」
「お友達程度じゃ生ぬるいのよ。信用できないわ」
「そ、そんなぁ……」
「だから」
ぐっと力を込めて、リリスは両手でレイチェルの白魚のような手を握りしめた。
「姉妹の契りを結ぶわよ!」
「そ、それって……任侠物でよくある……?」
「そうよ、いいわね?」
「はいっ!」
レイチェルは突然の申し出に戸惑っていたようだが、はっきりと頷いてくれた。
その反応に、リリスはにやりと笑う。
――そうよ! 姉妹の契りを結んでしまえば、レイチェルは絶対に私を裏切らないわ! 私ってば冴えてる! 天才!!
「イグニス、私とレイチェルは姉妹の契りを結ぶことにしたわ! シャンパンを持ってきなさい!!」
「可愛い姫からシャンパンいただきました~」
いそいそとシャンパンタワーを作り始めたイグニスを尻目に、リリスはレイチェルにグラスを手渡す。
「いいこと、レイチェル。姉妹の契りは絶対に破られない神聖な契りなのよ。あなたは私を裏切らないし、私もあなたを裏切らない。あなたの危機には必ず私が駆け付けるし、私の危機には――」
「必ず、私が駆け付けます」
そうして、二人は盃を交わした。
友情よりも深く強固な、姉妹の契りがここに誓われたのである。
「我ら生まれた日は違えども!」
「違えどもー」
「死すときは同じ時を願わん!」
「願わんー」
「「あはははは!!」」
そうして慣れないアルコールを摂取した二人の少女は、散々酔っぱらって醜態を晒した挙句にダウンしたのだった。