番外編 あなたへ贈る詩(1)
本編56話と57話の間のお話です
「う~ん……」
現在、午後3時半。フローゼス公爵邸のリリスお嬢様の部屋では、のんびりした時間が流れているはずなのだが……。
しっかりイグニスの用意したデザートを完食したリリスお嬢様は、何やら唸り声をあげていた。
「いかがなさいましたか、お嬢様。腹痛ですか? さっきのデザート食べ過ぎてましたもんね」
「そんなんじゃないわよ、失礼ね!」
キャンキャンと威嚇するように喚くリリスに、イグニスは首をかしげる。
「じゃあ何をそんなに悩んでるんだよ」
「……もうすぐ、オズ様の誕生日なのよ」
「あぁ、なるほど……」
もうすぐリリスの婚約者……で仇でもあるオズフリートが13歳の誕生日を迎える。
どうやらリリスは、彼に何を贈るべきか考えあぐねているらしい。
「お前のことだから藁人形でも準備してるかと思ってたよ」
「甘いわね。私がそんなに殺意バレバレの真似をするとでも? そんなことをすれば逆にオズ様に殺されるじゃない!」
本気でオズフリートが自分を殺そうとしていると信じ込んでいるリリスは、真剣に頭を悩ませているようだ。
実際のオズフリートは秘密裏にリリスを守ろうとしているのだが……まったく当のリリスには通じてないようだ。
あの王子も哀れだな……と、イグニスはらしくもなく同情してしまった。
「適当にその辺のメイドに頼めよ。すぐにやってくれるだろ」
「あなた、私にそんな手を抜いた真似をしろというの? 私はフローゼス公爵家の娘にしてオズ様の婚約者であるリリス・フローゼスなのよ? 下手な物を贈れば、私の名声に傷がつくじゃない!」
「お前でも名声とか気にするのか……。確実にお前が自分で選ぶよりはましだと思うけどな……」
リリスのセンスはなんというか……常人には理解しがたいものなのである。
彼女が自信をもって選んだプレゼントの方が、無難な物よりもよほど評判を落としそうなものだ。
「それに、誰かとかぶったりしたら恥ずかしいじゃない。『フローゼス公爵令嬢は婚約者の欲している物もご存じないのかしら』ってクスクス笑われるのよ!」
「じゃあ王子に何が欲しいか直接聞けよ」
「どうせオズ様のことだから、『君のくれる物なら何でも嬉しいよ』とか役に立たないことしか言わないに決まってるわ!」
容易に想像できる台詞に、イグニスは苦笑した。
まぁ、王子の回答に嘘はないのだろう。
イグニスには理解しがたいが……オズフリートはリリスに心底惚れている。
それこそリリスがくれるものなら、糸くず一本でもその辺に落ちている石でも喜ぶことだろう。
「何かないかしら、私にしかなくて、唯一無二のもの……」
いっそ「プレゼントは私♡」にしたらどうだ……と言おうとして、直前でイグニスは口をつぐんだ。
激怒したリリスが尻を蹴飛ばしたりイグニスの食事に激辛スパイスを仕込むという地味な報復に出るのが、容易に想像できるのである。
「私にしかできない……そうだわ!」
等々に、リリスは嬉しそうな声を上げた。
こういう時は、たいていよくない結果になるものだ。
「私の天才的なセンスを活かして、誕生パーティーの場でオズ様へ詩を朗読するの! これしかないわ!!」
その場の惨状を想像して、イグニスは盛大に表情をひきつらせた。
番外編の更新です!
(1)とある通り続きますので、ぼちぼち更新していきたいと思います。
そして…お待たせいたしました!
本作のコミカライズ配信日の決定です!
2021年8月29日より、双葉社の漫画アプリ「マンガがうがう」にて連載開始予定です!
作画を担当してくださるのはひのすばる先生です。
公式ページもオープンしており、キービジュアルの一部が見られます。
リリス、イグニス、オズ様がばっちり見られますのでどうぞ!
↓↓↓
https://gaugau.futabanet.jp/list/work/60e695657765616654000000
リリスちゃんかわいい!
イグニスイケメン!
オズ様は純粋無垢なショタに擬態してんじゃねぇ!(超好み)
…という感じですね!
中身の方も先にちらっと拝見させていただいたのですが、リリスのアクの強さはそのままに暴れまくってるのでご安心ください。
Twitterも開設しまして、今後小説やコミカライズの更新をお知らせしていきたいと思います。
→( @yuzu_lemolemon )
原作、コミカライズ共々よろしくお願いいたします!
新作も始めました!
異種族後宮ファンタジーラブコメです!
『冷血竜皇陛下の「運命の番」らしいですが、後宮に引きこもろうと思います~幼竜を愛でるのに忙しいので皇后争いはご勝手にどうぞ~』
( https://ncode.syosetu.com/n1101hc/ )
おうち時間のお供にどうぞ!