99 悪魔の決断
「…………は? 何言ってんだお前」
イグニスが信じられないと言った様子で目を見開く。
だが、リリスはもう決意を固めていた。
「いいから、私の魂を食べて。そして必ず、あの天使を打ち滅ぼしなさい。これは命令よ」
気を付けていたけど、少しだけ声が震えてしまった。
「リリス、駄目だ!」
背後からはオズフリートの必死な声が聞こえる。
先ほどの負傷が響いてるのか、彼はすぐにはこちらに駆け付けられない。
だったら……邪魔をされてしまう前にすべてを終わらせてしまわなければ。
『おやおや……自ら魂を捧げるとは、随分と殊勝な心掛けですね。まったくもって理解不能です』
レミリエルが嘲笑う。
リリスは顔を上げ、憎たらしいほど美しい白銀の竜を睨みつける。
「人間の憎悪を甘く見ない方がいいわ。私をさっさと葬れなかったのがあなたの運の尽きね」
負けたくない。こんなところで、また惨めに終わりたくはない。
もう一度無惨に散りゆく命なら、せめて有効活用したかった。
「……お前、悪魔に魂を喰われるってどういうことかわかってんのか」
どこか無機質な声で、イグニスがそう問いかける。
だが、リリスの心は決まっていた。
「正確にはわからない。でも、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」
一刻の猶予もない。少しでもレミリエルの気が変われば、リリスもイグニスも容易く消されてしまうのだ。
「私は復讐を果たす! あなたは私の魂を食べる! 順番が逆になるだけじゃない!!」
ここでレミリエルを仕留められるのならなんだっていい。
奴を野放しにしておけば、またアンネが操られるかもしれない。オズフリートや他の皆だって無事でいられる保証はない。
……そんなのは嫌だ。絶対に、嫌だった。
「……本当に、いいのか」
ゆっくりと体を起こしたイグニスが、そう呟いた。
彼の血のように真っ赤な瞳が、じっとリリスを見つめている。
「……二言はないわ。ただし、絶対にあいつを仕留めなさい」
その言葉に応えるように、イグニスの顔がゆっくりと近づいてくる。
……いったいどうやって、魂を喰らうつもりなのだろうか。
鼻先が触れ合うほどの距離になると、どうしても緊張と恐怖が押し寄せて、リリスはぎゅっと目を瞑ってしまう。
すると、次の瞬間――
「いったぁぁぁぁい!!」
ごつん、と勢いよく頭突きされ、リリスはぶつけた額を抑えて悲鳴を上げた。
涙目になりながら目を開けると、イグニスは何故か怒ったような顔をしていた。
「バーカ、俺にだって好みがあるんだよ! お前みたいなクソガキ喰ったら腹壊すわ!」
「なんですってぇぇぇ!!?」
「……そういうことは、もっと俺好みの大人の女になってから言え」
憤慨するリリスを見てにやりと笑うと、イグニスはふらりと立ち上がる。
「そんなに心配しなくても、あのクソ天使を葬る方法くらいいくらでもあるっつーの」
「本当に!?」
「そうそう。だから足手まといにならないように王子の結界の中に戻ってな」
くしゃりと頭を撫でられ、リリスは少し気恥しく思いながらも頷いた。
後ずさるようにして結界に近づくと、オズフリートに強く抱きしめられた。
「リリス……。もう、どこにも行かないでくれ……!」
強く懇願され、リリスはきゅっと唇を噛んだ。
胸の奥から、熱いものがあふれ出してくる。
だが、今は感情に流されている暇はない。
そっとオズフリートの手に手を重ね、リリスは顔を上げイグニスとレミリエルを見据えた、
プロローグも含めて100話到達です。
そして……ここでお知らせです!
なんと、本作の【コミカライズ】が決定しました!
リリスの復讐劇、漫画になる予定です! 保育園開園です!
これもすべて応援してくださる皆さまのおかげです。
本当にありがとうございます!
開始時期などの情報は、また決まりましたら随時お知らせいたします。
連載の方もいよいよクライマックス(と言い続けてから長い)です。
是非これからも「破滅エンドから逆行したら~」をよろしくお願いします!