人生おじさんと名もなき植物
町のはずれに今にも壊れそうなボロボロの塾があり、子供たちに算数と国語と一生懸命に生きることの大切さを教えているおじさんがいました。おじさんはすぐに「人生とは…」と言って話をはじめるので、子供たちから人生おじさんと呼ばれていました。
そんなおじさんの日課は、朝ごはんを食べる前にゆったりと町の中を見回りながら散歩することです。晴れたある日、車が通る道の端に茎が曲がり今にも枯れそうな、葉っぱを2枚つけた植物を見つけました。「人生とは…こりゃいかん」と言って、その草の根元を優しく掘り、慌てて塾まで持って帰りました。
塾に帰ると塾の裏手の柔らかい土の場所に穴を掘り、その植物を植えて、水をあげ、「人生とは…頑張って生きるんたぞ」と声をかけました。
散歩の前に必ず植物にお水をやり、「人生とは…おはよう」と声をかけるのが、おじさんの日課に追加されました。その植物もおじさんが来ると嬉しそうに風に揺れていました。
おじさんが一生懸命にお世話したかいもあり、茎はまっすぐに伸びはじめ、葉っぱも4枚になり、8枚になり横にもつるが伸び、大きく育っていきました。
それからしばらくして雨が降る日に、大きい台風が夜に近づいてくるのをおじさんはニュースで知り、慌てて、塾の壊れそうな場所に板を打ち補強し、窓にはシートを張り、屋根まで伸びた植物には添え木をしてあげて「人生とは…頑張るんだぞ」と言い、あとは無事にやり過ごせるように祈りました。おじさんはその晩は知り合いの家にお世話になりました。
次の日は台風が去り、晴天になりました。おじさんは朝起きると急いで塾を見に走り出しました。塾は遠くから見ると壊れずに建っていました。
近くに寄り、よく見ると植物の緑のつるが、塾の建物を優しく包むように四方八方に伸びていました。添え木は飛ばされて無くなっており、土から根っ子が出てしまい、茎が完全に折れてしまっていました。おじさんは「人生とは…人生とは…」とつぶやき、涙が溢れ出しました。
それから何日か経ち、おじさんは今日も算数と国語と一生懸命に生きることの大切さを子供たちに教えています。
次の日の朝、おじさんがいつものように塾の裏手に行くとあの植物あった場所に葉っぱを2枚つけた若葉を発見しました。おじさんは思わず「人生とは…人生とは…とは」と叫び、嬉し涙を流しました。
その後、おじさんは子供たちをその植物の前に連れて行き、一生懸命に生きる大切さを話すようになりました。おじさんはその植物に永遠と名付けて一生大切に育てたそうです。