さあ、時間稼ぎを始めよう!!
適当に思いついた物を書いただけですので続きはありません。
ようやく掴んだ私にとっての幸せを壊した目の前の存在を許すわけにはいかない。
私の呼びかけに答えてくれたかつての友を隣に侍らせ、私は不敵に笑う。
「さあ、時間稼ぎを始めようか!!」
それは所謂『ラノベ的展開』の『テンプレ』という事柄だった。
地球の日本にある、とある地方都市の公立の特筆すべき事がない高等学校の、とある教室の床に魔法陣が浮かび上がり、その教室にいた生徒達を白い光が飲み込んで姿を消した。
気が付けば見知らぬ所に生徒達は放り出されていた。
黒の半透明の床に同じく半透明のドーム型の壁に囲まれた異質な空間。
壁には見た事の無い文字が、電光掲示板の様に流れては消えている。
異質な空間に女子達は不安げに肩を寄せ合い、男子達は怪訝そうに周囲を見回している。
そんな中、私はその空間の隅に座り込み頭を抱えていた。
頭の中で「何故?」「どうして?」と疑問が溢れては消えていく。
この空間は、私達がいた世界と下位世界の狭間にあたる空間で通称『神の領域』と呼ばれる場所だと、私は「知っていた」
生徒達の混乱が徐々に広がりパニック直前のタイミングで光が空間を照らしだした。
私はその光に嫌悪感を覚え視線をドームの外側に向けると、下位世界の文字の羅列が流れているのが見える。
ドームの壁面に流れている文字は下位世界での「スキル」と呼ばれる技能であったり「称号」と呼ばれる個人の行いによって手に入れる事が出来るものだった。
それらを何となしに眺めていると光が治まり涼やかな女性の声がドームに反響しながら響いた。
これもお約束のテンプレで…
曰く『私は女神である』
曰く『貴方方は勇者として私達の世界に召還された』
曰く『元の世界には戻れない』
曰く『貴方方には「スキル」を授けるのでどうか世界を助けて欲しい』
エトセトラ…エトセトラ…
私は深く溜息を吐いた。
自称『女神』は嘘を吐いている。
「分かりました! 私達が勇者だと言うのなら助けましょう!!」
そう高らかに宣言したのは、このクラスで一番モテる男子生徒だ。
いつも周囲に女子を侍らせている文武両道のイケメン男子。
名前は…忘れた。興味無いし。
そいつが高らかに宣言すると周囲にいた女子生徒が黄色い悲鳴を上げる。
「キャーッ! カッコイイ!!」だの「流石●●君!!」とか耳が痛い。
声、高音過ぎじゃない?鼓膜破れるわ。
私はチラリと冷めた目で彼らを一瞥しドーム壁面の称号達に目を走らせる。
その間に、あれよあれよと話が進んだらしく生徒一人につき「スキル」を3つ付与するという条件で契約が結ばれたらしい。
私は興味無いが。
すると男子生徒の一人が「しょ、称号とかは無いの?」と自称女神に問うと女神はニコリと笑みを浮かべて言った。
『勿論ありますよ。ですが称号は個人の行いに対して付くものですので例え女神の私であっても好きに付けることは出来ないのです…申し訳ありません』
私はその説明に、そうそうと頷く。
そして一人ひとりにスキルが付与され始めた。
付与された人からドームの外へと続く扉を潜るように言われ次々にその扉を潜っていくが…あいつら考えなしにも程があるだろう。
私は『我関せず』を貫き通しドーム壁面に流れている「称号」達を眺めていると、かつて持っていた称号を見つけた。
「『剣聖』か、懐かしいな…初めての称号は確かこれだったな…」
剣技のスキルを持って生まれた人生の時に磨き上げた剣技。
そのスキルを昇華させたときに授かった称号だ。
ある国の騎士団長まで登り詰めた人生だった。
隣国の侵略によって国は滅んだが、王族の方達を逃がす事には成功したのだから良しとしよう。
「『魔導師』か、これも懐かしいな…」
騎士団長としての生を全うし、次に生まれたときに持っていたスキルが「魔術」だったので、これまたスキルを昇華した際に得た称号だ。
研究に没頭して、下位世界と上位世界について知ったのが、この時だったな。
そして研究に没頭しすぎて寝食を疎かにして死んだ。不健康な人生だった。
「ははっ、お前も称号だったか「農民」」
不養生が原因で死んだ次は貧しい農村に生まれ、太陽が昇ったら起き出して、太陽が沈んだら眠るという生活スタイルだったな。
結局この時はスキルを一つも持たずに生まれ、農民として一生を終えた。
その他にも「魔法使い」「名君」「心通わす者」「猟師」「鍛冶師」「商人」などかつて自分が持っていた称号が目の前に羅列されていた。
「…魂のレベルを上げる事で上位世界へ転生出来ると知ってから、頑張ったよね」
地球のある世界は、私が昔いた世界より上位に当たる。
上位世界に行けば行くほど魂としての生命のあり方が変わって来るらしい。
最上位世界はどんな世界かは知らないが「人間」である以上、行ける世界ではないらしい。
『さあ、貴女で最後ですよ』
ドーム内に反響した声に嫌々振り返ると女神がニコニコと笑みを浮かべて私を見下ろしていた。
扉の向こうに私以外の全員が行っている事に呆れながら私は言った。
「私は行かない」
『…どういうことでしょう? 貴女はもう元の世界には帰れませんと言ったはずですが…』
「それ、嘘じゃん」
『何を言っているのか…さあ、急いで時間がありません』
「早くしないと『地球の神』が来るから、でしょう?」
『っ!?』
私の言葉に自称女神が目を剥く。
そして私の言葉が聞こえたであろうクラスの人たちにざわめきが走る。
「どういうことだ!?」
扉の向こうでイケメンが声を上げるので私は教えてやった。
「此処は地球と下位世界を繋いでいる『狭間』だ」
「狭間…?」
「そう、そして私達の世界の神は自分の世界の人間をよその世界へやるつもりなど毛頭無い…私から細い糸が繋がっているのが見える?」
私が両手を広げて示すとクラスの人たちは初めて認識したような声を上げる。
「何だそれ、俺らには無いぞ?」
「当たり前だ、お前達は既に地球の神との繋がりを切られている」
『ハァッ!?』
「何だ、その説明をしないで連れて行こうとしたのか? それでよく『女神』なんて自称できたな?」
私の言葉に先程まで浮かべていた笑みを消し、自称女神は低い声で言った。
『…お前は誰だ、何故世界の関係を知る?』
「私は元々下位世界の出身だ。魂のレベルを上げて上位世界へ転生したな」
『何…? そんな、魂のレベルを上げるだなんて…そんなの無理に決まって…』
そこでそいつは気付いたらしい、私の後ろの壁面に羅列されている称号の数々に。
称号達は私の周囲に集まり、それぞれの持つスキルを私へと『返還』していく。
『な、何で…その称号達は…そんな、まさか…』
「そのまさかだよ。来てくれ『炎帝』」
私の呼びかけに『心通わす者』のスキルが発動し、かつての私と契約していた一体の獣を呼び出した。
私の影から現れた獣は私を見下ろし僅かに目を細めると牙の並んだ口を開いた。
『久しいな、主殿。見ないうちに随分と可愛らしくおなりだ』
「久しぶり炎帝。そりゃあ今は可愛い女の子だからね」
『成程。無事転生出来たということですな』
「そういうこと」
私は燃え盛る鬣に触れ、カリカリと爪を立てて撫でると炎帝は目を細めてグルグルと喉を鳴らせた。
『炎帝ですって…!?』
『気安く我の名を呼ぶな、噛み殺すぞ』
グルルルッと威嚇する炎帝を宥めると私は自称女神を見上げる。
地球の神は目の前の存在より格上の神だ。
その神がこんな大人数を拉致しようとする動きに気付かないはずが無い。
私のすべき事は、地球の神が来るまでの時間稼ぎ。
自称女神の顔色の悪さに不敵な笑みを浮かべて宣言する。
「さあ、時間稼ぎを始めようか!!」
続きはありませんよ?
無いったら、無いのです。
炎帝くんが燃やしました。