目覚め
「終わらせて」
その言葉が脳内で孤独に木霊する。
鋭い何かが頬に刺さり激痛を覚える。
それが次第に冷たさである事がわかると全身にそれが広がる。寒い。
その一心で目を開くと暗黒の世界とは一転、白銀の世界へと変貌する。
空を向けば暗黒から無数の玉雪が地面へ前進している。
少年が眠っていた大地には白一色の雪景色。
その中で唯一違うものといえば少年が倒れていた跡だ。
雪で埋もれていた緑色の大地が顔を出す。少年は思わず口から言葉が漏れる。
「ここは?」
雪に問いかけてももちろん返答なんか返ってこない。
その上にもう一つ大問題とも言える事がある。
少年は記憶をなくしていた。
脳にあるのは大量の疑問符といわゆる言語のみだ。
少年は困惑する、現在の状況も自分の存在にすら整理がつかない上に凍てつく空気は
少年の体力を蝕んでいく。しかし少年は防寒服のような暖かい軍服を着ている。それを見た少年は
(俺は軍人なのか?にしてもこの年齢で軍人はありえない)
しかしこの状況のまま考え事をするのは危険だ、と危惧の念を抱く。
防寒服を着てこの寒さはどう考えても人間に適する温度などではない
手足の感覚が徐々に薄くなることを少年は感じ取る。
少年は不安と疑問符を背負い生命を守る行動を実行し
始めた。
が後ろを振りかえると実行が無駄であることと同時に安堵の感情が冷えた体に澄み渡る。
振り返った先には暖かいオレンジ色を蒸気のように放っている街が冷夜の中にポツンと立っていた。
少年は助けを求めるためにその町へと歩き出す。
極寒の中身体中の感覚はすでに死んでいる。
雪は膝丈まで埋もれるほどの深さで一歩一歩に疲労が足を襲う。
それほどでもない距離を5分ほど歩くと目の前に自分の4倍ほどの石造りの門がある。
雪で視界が不明瞭だったが金属製の看板で<王都ラートムス>
と記されている。
ラートムスは全体を石壁で覆われいる円形の街のようだ。
門は空いており街の中に入る。
心なしかあったかい空気が体を包む。
それが安堵の暖かさなのか、
気温の暖かさなのかは分からなかった。
体の芯まで冷えきり、体が大きく悲鳴をあげる。
そんな中門のすぐそばに煉瓦造りの家がある。
少年は無意識にそちらに歩き出す。
木製の扉の前に立つと、
少年は最後の力を振り絞り大きく二回扉を叩きその場に崩れ落ちる。
少年の最後に見た景色は扉から暖かい光が漏れ出す光景だった。
ふと気がつけば体がポカポカする。
暖かい。死んだのか?
しかし無情にみ目蓋は開かれる。
小さな窓から暖かい太陽光が暗がりの部屋に流れ込む。
光によって宙を舞うハウスダストは姿を露わにする。
部屋に中は煉瓦模様の壁と石でできた灰色の天井、そして床には赤色のカーペットが敷かれている。
部屋はさほど広くなく3畳ほどの部屋だ。
ベッドの横には長い木製の机があった。
重い体を起こし机に足を向かわせる。
机にはディジタル表示の時計があり、<2401 6 18>と記されている。
机上は散らかっておりペンやノートが散乱している。
机の正面の壁には大きな大陸の地図が貼られており、
左上には<ジャネルダ>と記されている。
少し形の崩れた正方形の右上には現在地を示す赤い点がポツリと置いてあり、
国の名前は<ルドフェイル>だった。
すると廊下からコッコッコっと誰かがこちら側に近づいてくる。次第にそれはドアの前で静止した。
心なしか恐怖に感情が浮かび上がる。
ドアはゆっくりと古びた音を立てて開く。
そこにいたのはそこそこに老いている老人だった。