沈む太陽と浮く幽霊
水族館の出口付近で、語はペロリと手持ちのアイスクリームを舐めた。外が曇りでなければ、付け加えて今が秋頃でなければ随分と味わいも変わっていただろうが、語は普段通り何も言わない。
『美味しい?』
「まあ」
『僕も食べたいなぁ……』
はしゃぐ新田が一歩先に水族館を抜け出た時、目の前にアイスクリーム屋が軒を連ねているのを発見した。白いテーブルと椅子が並ぶ店前には残念ながら誰も居らず、アルバイトらしき男が欠伸を掻きながらメニュー看板の下に肘をついていた。
遅れて水族館から出てきた語にアイスクリームの話を振ろうとすれば、珍しく驚いた顔で語が屋台を見つめている。これは買うしかないな、と新田は語にアイスクリームを進めたのだ。
『まあ、君がアイスを食べるのを見て満足することにするよ』
「……あんまりじろじろ見ないで」
『あぁ、ごめん……』
食べられないなりに見て楽しもうと意気込んだ新田だったが、嫌そうな顔をした語に拒絶を口にされた。申し訳なさそうに一歩引く新田に、語はもう一口アイスを舐めて言った。
「……食べ物、食べれないの?」
『うん。そもそも何にも触れないから』
「私の他に見える人は居なかった?」
『一人も居なかったね。他の幽霊に出会えたりしないかなぁって思ってるけど、多分無理かな』
そう、と語は話を切った。そして僅かに溶けたアイスの表面をもう一度舐める。四十日、たった一人で誰にも気づいて貰えずに彷徨よっていたのかな、と語は考えた。そう考えると、いままでの新田の行動に辻褄が合うような気がする。
語がちらりと見た新田は、暇そうに指を組んで空を見ていた。つられて語も空を見上げると、僅かにだけ太陽の光が照っている。南中を迎えた太陽が傾いて、雲の隙間から光を漏らしているのだ。
それを語がぼーっと見ていると、新田がにこりと笑いながら彼女のアイスクリームを指差した。
『溶けちゃうよ?』
「あ……」
慌てて語はアイスクリームに噛みついた。が、その冷たさが逆に語を返り討ちにしたようで、冷たい、と前歯を上げて眉を下げていた。その様子にくすりと笑った新田は、同時に何かを思い付いたように口を開く。
『あー……そういえば、晩御飯はどうするの?』
お昼をまず食べたかが気になるけど、と新田が続けると、語は罰が悪そうに視線を反らしてコーンを齧った。
『……うん、なんとなく察したよ』
「別に……いいかなって」
『僕が居るからには、そうはさせないよ。健全な精神を持つには、それなりのカロリーが要るって分かってるし』
「……それってつまり」
嫌な予感を掻き分けて語が聞くと、新田は勿論、と言った。
『さぁ、次の目的地はスーパーだよ。買い出しに行こう』
料理のお手並み拝見だね、と笑う新田に、語は深いため息を吐いた。
それから、殆ど外に出ない語に変わって、新田が語を道案内した。その間も、語は随分陰鬱な気持ちだった。料理が嫌いだとか、特別恨んでいるという訳ではない。単に面倒なのが一つと……新田に見守られながら慣れない料理をするのが嫌なのだ。思春期特有の恥ずかしさは、最早死の一手前まで行った少女であろうと平等に抱え込む。
その感情に揉まれながら、そういえば、と語は思った。目の前の新田は、語の目からは十分大人に見えたが、どれくらいの年齢なのだろう。口調や表情は子供らしいが、時折見せる慧眼や言葉尻には年季を感じさせる。
降って沸いた疑問を、語はそのまま口に出してみた。
「……幾つ?」
『え? あー……うん、19歳だよ』
「……どうしたの?」
『いや、昔のこと思い出してさ』
そこで漸く語はしまった、と思った。新田も、そんな気は全く見せないが自殺しているのだ。自分ならば随分と不愉快を被っただろう。そんな語の心情を見抜いたらしい新田が、気遣いはいらないよ、と言った。
『一回死んじゃうと、もうそんなに気にならないんだよね。時間が経ったら頭も冷めてくるし』
「……」
『あ、そろそろ着くよ』
からっと笑った新田が薄い指先でスーパーを指差した。流石に平日の水族館よりは人口密度が高く、幾ばくかの主婦や大人が出入り口を移動している。さあさあ、と新田は語に声をかけて、スーパーの中に入った。
「……何作るの?」
不馴れな手つきで籠とカートを手にした語は、周りに遠慮しない声で聞いた。その様子に勿論周囲からの奇異が集まるが、本人の宣言通り語は一切気にしていない。その様子に若干の申し訳なさを感じながら、新田は唸りを上げた。
『うーん……無難にカレーライスとかでどうかな?』
「無理」
『苦手?』
「……食べれないわけじゃない」
『あー……』
その一言で目敏く理由を察知した新田は苦笑いを浮かべた。が、その瞳には燦々と輝くやる気に満ちている。
『まあ、僕が隣で指示を出すからさ、大丈夫だよ』
「料理するのは私だけど……」
口ではこう文句を言っているが、語の体は野菜コーナーに向かっている。どうやら渋々意見を飲むようだ。それを理解した新田は、いえーい、と他人任せな歓声を上げた。
野菜コーナーにたどり着くと、新田はふわりと語の側を離れ、人参やじゃがいもの選別を始めた。
その瞳には確かな観察眼があり、野菜を見分ける識別知識を持っているようだった。意外だと思いながら、語は新田の選ぶ野菜をおずおずと籠に入れた。
続く肉系の材料も、値段や産地、鮮度と照らし合わせた判断を新田は行った。
「……農業系だった?」
『ん?いや、別に?テレビで良くやってるんだよ。あと、たまに本屋で立ち読みしてる人の後ろから覗いてる』
「……」
『しょうがなくない?僕一人じゃ本なんて持てないんだから』
立ち読み中に後ろから幽霊に覗き込まれている、という状況は中々にホラーだろう。それを想像して微妙な表情をした語に、新田は慌てて弁明をした。
『辛さはどうする?』
「……甘いの」
『了解……これなんかどうだろう』
「じゃ、これでいい」
材料を集めた二人はレジで会計を済ませて、早めの帰路に着いた。料理初心者らしい語が料理すると時間がかかるだろう、という新田の考えだった。両手で袋を持った語が、しゃばしゃばと袋を鳴らしながら歩いている。
白く細い両腕は、見るだけで彼女の腕が力仕事に向いていないのが分かる。
『ごめんね。僕が持てたら良かったんだけど』
「別に」
拒絶や嫌悪ではなく、語なりのあっさりとした返事に、新田はどこか申し訳なさそうな顔をした。が、すぐにその表情は立ち戻り、これからの料理に向けてやる気を燃やし始めた。
その様子を横目で見ていた語は、雑草みたいだな、と失礼な考えをこっそり浮かべていた。
家に帰ると、やはり狭さが目につく。どう考えても自分の子供を五畳間に放り出す親が居ていい訳がない、と新田は思うが、それらについて触れるにはまだ語との関係が薄すぎる。言葉の倉庫にそれらの感情をしまいこんで、さてさて、と新田は笑った。
『さあ、まずは材料を並べよう』
材料を並べ、野菜を洗い、調理器具を整える。狭いこの家にも包丁とまな板はしっかりとあった。どうにも使われた形跡は殆どないが。と、ここで新田はとあることに気がついた。
『あ』
「なに?」
『ガス使える?』
「うん。水道代とガス代は払ってる。……払ってないのは電気代だけ」
どうして、とは聞かなかった。それと同時に、彼女がずっと貯めていた、と言っていた二万百十五円がどこから来たのかを、新田は漸く悟った。
この部屋にはテレビがない。そもそも家電と言えるものがない。見た限りスマホなんて便利なものを持っているわけもない。
少なめに材料を買ったのは正解だったかもしれないな、と新田は思った。胸中に雪崩れ込んだ泥のような感情を見せず、上澄みの笑顔で新田は料理の続きを指示した。
『じゃがいもの芽はちゃんと取るんだよ』
「どうやって?」
『包丁の角を使って……あぁ、そっちは先っぽ。四角い方だよ』
「……難しい」
『結構力とコツが要るからね……お』
「できた。……けど、結構無駄が多い」
『十分だよ。次は――』
手を出せないなりに新田は懇切丁寧な動きを語に教えてみせ、語は不器用ながらもどうにかそれらを形にしようと手を動かしていた。狭い台所に一人ともう一人が並んで、料理を作る。
『猫の手、猫の手……オッケー!』
「……ちょっとうるさい」
『ごめんごめん……つい力が。次はそれを縦に切った後に断面を下にして、もう一回縦に切る』
「無理」
『いけるって。実演してあげるから見ててよ』
体が透けているという欠点を逆手に、新田は包丁の通るべきルートに伸ばした指を貫通させ、こんな感じ、と教えた。
『次は塩をちょっと入れて』
「ちょっとってどのくらい?」
『一つまみくらい』
「ひとつまみ……」
『あ、手掴みじゃなくて指ひとつまみだからね?』
「……知ってる」
開いた手のひらを握り直しながら、語は言った。
そんな調子で二人は台所に立ち、玄関口の窓から差し込む光が茜色になり始めた時、遂に料理が完成した。目の前で湯気を上げながら芳ばしい香りを上げているのは、正真正銘カレーライスだ。
「できた」
『おおぉぉ、完成!』
「……」
いつもならうるさい、と一蹴されるところだったが、当の語は口を開かなかった。珍しくそわそわした様子でスーパーで買った白米をパックから開けている。そして四角く固まったそれを柄の無い皿に移して、語は慎重に湯気を吐くルーをその上に流し込んだ。
『くぅぅ……美味しそうだなぁ』
「……」
一瞬、語は新田に申し訳なさそうな顔をしたが、どうしようもない。語は内心で小さくありがとうとだけ言って、皿をテーブルに持っていった。ふわり、と重さを全く感じさせない動きで新田がその後を追う。
ついでに今が何時ごろか確認しようとしたが、この家には時計が無かった。つくづく不便である。そうこうしている間に語は準備を終え、食事と相対していた。細い指先が握るスプーンが軽く震え、ゆっくりと皿に近づいていく……というところで、新田があれ、と声を上げた。
『いただきますした?』
「……する必要ある?」
『ある』
新田はこくりと頷いた。語はなんだか納得できなかったが、それについていくらか不満を漏らそうものなら、新田がお説教を始めること位は分かるので、渋々両手を合わせた。
「……いただきます」
食べれないなりに語を見て味を楽しむことにしよう、と算段をつけていた新田は、そういえば嫌と言われたなぁ、とアイスクリームでの一件を思い出した。流石に同じ失敗を犯すつもりはない。いままで余るほどの暇を過ごしてきた経験を生かして、新田は視線を彷徨よわせながら指先を絡めていた。
それを不思議そうに一瞥して、語ははむ、と料理を一口頬張った。
「熱……」
『んふふ、そりゃあカレーだもん』
「……忘れてた」
『あー……』
踏んだところ全部地雷じゃないか、と新田は胸中で絶句した。一方の語は無自覚にそれを口にしているようだから、たちが悪い。わざとらしく咳払いをして、新田は話の方向性を修正した。
『味はどう?』
「……熱くてよく分からなかった」
『はは……確かに熱すぎるとそれしか感じられないよね』
苦笑いで指先を絡めた新田の前で、もう一口料理を頬張った語はそれを軽く咀嚼して呑み込むと、でも、と口にした。ほんの少し言葉始めが揺れた、小さな声だった。思わずそらしていた視線を通わせた新田は、はっ、と息を飲む。
「でも……うん。多分――美味しい、かも」
透明な視線の先で、語は小さく笑っていた。はにかみとか、微笑と形容されるほどの……もしかしたら、表情筋がかすかす緩んだだけかもしれない位の笑みだ。けれど、新田の瞳にはそれが確かな笑顔に思えた。
ただ、料理の美味しさに小さく笑っただけの語に、新田はあっけに取られたのだ。そのまま瞬きを幾らかした新田は、思い出したように相槌を打った。
『……そっか。うん』
「……ん?」
違和感に新田を見る語の顔に、既に笑みはない。けれど、新田の脳裏には先程の一瞬が確かに焼き付いていた。あまりにも唐突な一齣を漸く飲み込んだ新田は、語に気付かれない程小さく笑って、こう呟いた。
『……なんだよ。笑ってくれるなら、先に言ってくれよ』
危うく見逃す所だったじゃないか。横目で眺めた語は、相変わらずの無表情で料理を口に掻き込んでいる。どうやら自分の料理がお気に召したようだ。ふぅ、と一息ついて新田は苦笑いをした。
『もうちょっと綺麗に食べようか』
「……別に、あなたが消えたら私も消えるつもりだし」
『……あと九日で直すのも馬鹿馬鹿しいって?』
語はこくりと頷いた。新田から見て、というより大多数から見て語の食事の作法は良いと言えるものでは無かった。見れば口の広い皿からボロボロと茶色い米粒やルーが水玉を作っている。
子供にご飯の食べ方を教えるのも、親の役目の筈なんだけどなぁ、と新田はまだ見ぬ語の扶養者に愚痴を言って、語に向き直った。
『まあ、僕が居る間位はちゃんと食べてよ。ほら、その食べ方だと美味しいカレーが飛び散って勿体ないだろう?』
「……まあ」
余程料理が気に入ったようで、語は素直に理解を示した。続いて新田の指示に従って、ゆっくりと食事を再開する。その様子は先ほどに比べれば遥かにマシで、納得したように新田は頷いた。
「……ご馳走さまでした」
食べ始めてから三十分位だろうか。語の目の前の皿は空っぽになっていた。それを満足そうに見つめた新田は、笑顔で頷く。
『さて、後片付けしようか』
「……うん」
久しぶりに皿を洗うことになった語は、目の前の皿を持ち上げて、台所へと運んだ。どんな洗剤を使っているのかなぁ、と気になった新田が語の背中越しに流しを覗くと、そもそも洗剤やスポンジが無かった。語は無言で皿に水を流し込むと、素手でその汚れを取って戸棚に戻した。
相変わらず無い物尽くしだなぁ、と新田は辟易した。食事を終えた語はふわりとした足取りでテーブルの前に戻り、そこからちらりと新田を覗いた。
『えーっと……ご飯が終わったら、いつもは何してる?』
「……何も。お風呂に入って寝る」
『随分健康的だね……』
今の時刻は新田の体感で七時前といったところ。早く寝るにしても早すぎるだろう。だが、時間を潰すものなどここにはない。どうしたものか、と新田が思っていると、おもむろに語が口を開いた。
「……でも、今日はお風呂には入らない」
『え?……あ、いや、覗かないよ?』
「……確証はない」
うわぁ、随分信頼されてないな、と新田は思った。がしかし、その妙に鋭い観察眼は確かにその言葉の裏を捉えている。語は何か、別の意思をもって風呂に入ることを拒否している。黒い瞳が一瞬だけ怖気を含んで揺れたのを、新田は見たのだ。
その理由の検討が……正直言って、新田にはついていた。語の内腿に付いていた幾つかの傷。それらを見られたくないからなのだろう。ならば、深くは追及しない。新田はあはは、と笑って話を流した。
『さて、と……』
「……」
となれば、次に帰ってくるのは最初の問題だ。この空き時間をどう利用するか。一番は会話で距離を縮めることだが、あいにく共通の話題が自殺位しかない。それは語も分かっているのか、ちらりと新田を一瞥しては、視線を床に戻している。
そんな空気を脱するために、地雷を踏まないことを祈りながら新田は口を開いた。
『……好きな食べ物とか、ある?』
語は無言で少し考えて、答えた。
「甘いもの……とか」
『成る程……パフェとか好きそう』
「パフェ……?」
『えーと、もしかして知らなかったりする?』
語はこくりと頷いた。これは、明日の予定が一つ埋まったな、と新田は戦略的勝利を噛み締めた。が、ここで思わぬ攻撃が翻ってくる。語が新田に話し掛けてきたのだ。
「……好きな天気は?」
『天気?天気……』
随分意外な所を突かれたので、新田は口ごもった。語も内心、変な質問をしたと思ったが、これくらいしか話題が無かったのだ。新田が語への会話に苦心しているのと同じように、語も新田への会話に苦心している。常に明るいからこそ、どこに地雷が埋まっているかが全く分からないのだ。
新田は幾らか唸った後に、こう口を開いた。
『まあ、全部好きかな。あ、でも……雨だけはちょっと苦手かも』
「雨……」
私が好きなの、雨なんだけど、と語は内心思った。雨が降ると周りが静かになる。低気圧でうるさい奴も黙ってくれるからだ。加えて、雨音も心地いい。途切れなく続くあの深いざわめきが、どこか安心するのだ。
そんな語の胸中を知らず、新田は語からの質問に気分を良くして、自分が幽霊になってから手に入れた知識を語に教え始めた。
逆さまに掛かる虹や、深海に生息する生き物の話。空に向かって昇る雷や海外の悪魔払いと呼ばれる人達について。バナナは分類上野菜という話や、ガラスは固体ではないという話。
最初は豆知識というか、会話の種程度にしか思っていなかった新田だったが、意外にも語の食い付きが良く、僅かではあるが毎度驚いた顔と興味を向けてくれる。結局話の種どころか話の根になってしまい、随分と長い間新田は知識の含蓄を放出した。
気がつけば外は暗くなっており、語もかなり眠そうな顔をしていた。幽霊である新田には眠気も疲れも無いので、まだまだ元気だが、語の瞼が降りかかっているのを見るに、ここで話は終わりにしたほうが良いだろう。
『君……眠そうだし、えーと、布団とか敷かないの?』
「……敷く」
眠そうにそう一言を添えた語はふらりと立ち上がって、小さな押し入れから敷き布団を引き出す。いつもは風呂に入って寝ていた、ということから、この時間まで起きていることが少ないのだろう。眠気に瞼を軽く擦りながら、語は寝床を準備した。
と、ここで歯磨きを思い出した新田が声を上げた。
『あ、歯磨きは?』
「……ん、明日」
『いや、寝る前にやらないと……あれ?』
「……」
『あのー……』
細々と注意を垂れ流す新田の前で、語は眠ってしまった。幾ら声をかけても起きる様子がない。幽霊である新田には揺すって起こす等のリアクションも取れないので、語を起こす手段に乏しい。唯一耳元で叫ぶなりすれば起こせるという考えはあるが、そこまでして起こすのも気が引けた。
結局新田は、目の前で眠ってくれるほど気を許してくれている、という好意的な解釈をして、はあ、とため息をついた。
『……取り敢えず1日……』
語に出会ってからずっと張ってきた緊張を緩めると、新田は軽く目をつむった。暗い部屋の中、眠る少女の傍らに立ち尽くす様はどう見ても悪霊の類いだが、残念ながら語以外に新田を見つけた人間は居ない。
新田は無いはずの疲れを少しの時間で消し去ると、続いていつもの陽気な笑顔を浮かべた。
『さて……明日はどうしようかな』
ふわりと部屋から抜け出して、夜の町へと新田は向かう。情報収集だ。揺らめく足元に反比例して、新田の足取りは随分と確かな物に思えた。