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人工ダイアモンドを知っているか?
名前のままなので、初耳なら察してくれたまえ。
かつては錬金術と呼ばれていた科学が実らせた果実だ。
その種子が何かわかるかね?
『炭素』だ。
我が国には、『花咲か爺』という民話がある。
キミも一度は聞いたことがあるだろう?
話の面白い部分は割愛しよう。詳しくは現代文か古文の授業で習いなさい。
重要なのは、爺さんが灰を撒くことによって花が咲き、富を得るというところだ。
ある児童書では、愛犬の遺体を灰にして撒くことで前述の奇跡を起こす。
人工ダイアモンドでも同じことが可能だ。
もちろん、花を咲かせることも可能だ。
魔術などではない。生物は有機物の塊だ。植物にとっては貴重な栄養だろう。
詳しくは生物の授業で習いたまえ。
私の言いたいことは、生物の亡骸から人工のダイアモンドが作れるということだ。
どうしたね? そのような怪訝な顔をして。
はは、そうか。多感なことは良いことだ。しかし、フィクションの読みすぎだ。
いやなに、フィクションを例に出した私が言うのもおかしな話か。
ずばり、墓荒らしを想像しただろう?
私はサイコパスではないよ。ただの化学教師だ。
サディストではなく、ロマンティストだ。……笑いたまえよ。
君は、化石が宝石だと知っているかい?
化石マニアである私の価値観を語っている訳ではない。
化石とは、立派な宝石なのだ。
そして、それは生命の暦でもある。
太古に生きていた彼らの骨は、宝石となって輝きを放っている。
見る者は皆、その生命の力強い輝きに魅了されるのだ。
愛する者の亡骸を糧にして作った人工ダイアモンドを想像してほしい。
人工ダイアモンドの輝きは、その者の歩んできた生の輝きだ。
すなわち、人生の結晶なのだ。
どうだ素晴らしいだろう?
死後は美しい宝石として生まれ変わるのだ。
そうは思わないか? 克己クン。
長い長い話を終えて、初老の男は短くなったチョークをゴミ箱に投げた。
カランという音が部屋に響き、授業の終わりを告げる。
放課後にマンツーマンで行われる秘密の授業では、コレがチャイム代わりだ。
初老の男は、目の前の机の上に置かれた灰皿に視線を移した。
灰皿に身体を預けてくつろいでいたタバコを手に取り、彼は首をかしげる。
「克己クン?」