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降臨する勇者

「剣を持って行ってくれ!」

剣から声が聞こえる。これまでになく大きく、訴えかける様な叫びであった。


 哀願する、すがるような叫びの様に、剣の精霊はやっと回復したばかりの大翔に語りかけた。


 この出来事にはさすがに皆おどろいた。

大翔や一馬にしか声は聞こえていなかったのだから無理はない。


「だ、誰の声なんだ一体!」

スターマークは少々疑念もある聞き方をした。

勿論正しい人であると予測はつくのだが。

剣から声が聞こえる不測事態にどうしても疑心は消せなかった。


 いや、マークだけでない。

その場にいたほとんどが「誰なのか」「鵜呑みにしていいのか」と思わずにいられなかった。

そもそも「何故剣の中にいるのか」と言う部分が大疑問だ。


 声の主に対し言いようない不安感を皆感じてしまっている。

誰も動く事が出来ない。


 皆が緊張と「何かしなければいけないのか」とふんびりがつかない気持ちの中騒然と剣を見つめる。

「この剣一体……」


 しかし声は続いた。

「た、たのむ」

と言う声は流れ続けた。


 しかし、皆が動けない中大翔だけは違った。

「持って行ってどうすれば?」

と答えて見せた。


 大翔は声に真摯に耳を傾け、また聞き返して見せた。

信じているからこそだった。

彼の心に不信感はほぼなかった。


「大翔君、信じるのか?」

スターマークも疑念に感じた。


 一方

「信じてくれるのか、大翔君」

と、精霊はやっと信じてくれる人に会えたような声を疲れた中安堵するような声を出した。


 こくりと大翔はうなずいた。

この剣の声に賭けてみよう、あるいはもっと素直な信じる心が大翔の偽らざる本心かもしれなかった。


 そして、信頼しているからこそ聞き返した。

「持って行ってどうすればいいんですか」

ある意味問いかけは信用を確かめるため使われるが。


「その時必要な事は私がする。ある事が起きる。だから頼む、今は私の頼みを聞いてくれ」

と勇気づけようと、信じろと言うような答えだった印象だ。


 しかし、ここでキッドは意見を言った。

「精霊さん、今は大翔は普通の小学生に戻ったんです。あんな渦中に飛び込んだら死んでしまいますよ」


 精霊はその事をすでに理解しているように答えた。

「私に任せてくれ」

安心させるためと懇願の両方の気持ちがこもっていた。


「しかし」

キッドは反対した。


「頼む、本当に勇気のある大翔君にしか頼めない、出来ない事なんだ」

精霊は強く言った。

怖いぐらいに信頼がこもっている。

ある種の迫力を感じる。


 この言葉に大翔の何かが動いた。


 ばっと大翔は雄々しく何かを決意した心持で剣を構え立った。


 剣からやっと安堵と喜びの声が聞こえた。

「信じてくれたんだね、大翔君」

大翔に信じてもらえ本当に嬉しいらしい。


「はい、信じます」

その答え方はとても素直だった。

大翔にしか出来ないかもしれない。

彼だからこそこんな真っ直ぐな言い方が出来るのかもしれない。


「じゃあ、スパルダスが戦ってるぎりぎりまで近づいてほしい。無茶かもしれないが」


「えっ!?」

大翔は戸惑った。


 大翔だけでなくカノンも言った。

「それは」


「大丈夫、この剣が必ず大翔君を守る」

その言い方は強く相手を力づけようとする気持ちと覚悟が感じられた。

一切心配はない、疑念を感じるな、私を信じて全てを賭けろと言う力のこもった言い方だった。


 必ず剣の所持者を守ると言う覚悟が。


「よし!」

キッドが不意に言った。そしてすっと立った。

「僕が大翔のガードに着く!」


 皆さすがに驚いた。

キッドは

「彼の信じる事なら僕も信じるさ、僕達魔法使いを最初に信じてくれた人だからね」


 この言い方は大翔にとってうれしかった。

自分だからこそ信じてくれる、と言う言い方。

「キッド君ありがとう、じゃあスパルダスに近づこう」

と精霊は答えた。


 そして2人はスパルダスに向け駆け出した。


 ところがその時である。

激闘の流れ弾が大翔に向けて飛んできた。

がキッドはこれをとっさに光弾を出して相殺させることによって防いだ。


 大翔はその様子を見て心配した。

「キッド君、無茶しないでくれ」

キッドは少し怖かったのかはあはあ荒い息をしていたがこう答えた。


「僕も人間界に魔法学校を作る夢がある、簡単に死なないさ」

心配するなと言う言い方である。


「よし!」

これに勇気付けられた大翔はスパルダスに向け猪突猛進に駈け出して行った。


「あーっ、僕も行くよ!」

キッドは急いで追いかけた。



 激しい戦い故の無数の流れ弾が飛んでくる。

スパルダスは大翔をまだあまり意識していないようだったが。 

「うおおお!」

大翔は襲いかかる流れ弾を剣で切った。


 この切り方、まるで流れ切りである。

剣の筋は精霊が決めていた。


「剣を初めて持ったのに余分な力なく体が動く」

大翔も自分の体でないような心地だった。 


 精霊は大翔にアドバイスした。

「この剣は全ての邪悪を切ってくれる、だがあまり無理しない様に」


 しかし渦中ではすさまじい魔王とスパルダスの肉弾戦、光弾が飛び交っていた。


「うう、やっぱりすごい」

さすがの大翔もうろたえた。


 しかし精霊は大翔を勇気つけた。

「この剣は邪悪をとらえ滅し去る。恐れず、いやちょっと恐れて進むんだ」


 大翔はこれに答えた。

「うおおお!」

「また突っ走った!」


 大翔は無謀にも徒競争の様に走った。


「危ない!」


 流れ弾に当たりそうになった大翔をキッドが身を挺してかばった。

「キッド君!」

流石に服が破れ背中にけがをした。


「気にしない」


 大翔はそれを見て激しい自責の念にかられた。

「ま、また調子に乗って皆に迷惑かけた! うおおお!」


 大翔は自分の情けなさを責めた。

これに剣は呼応するような音を出した。

すると剣からまばゆい光状の煙が出た。その広がる煙は周囲の邪気を払い道を作った。


 精霊は叫んだ

「ここなら光弾が飛んでこない! 突き進んでスパルダスに刺すんだ!」

「うおおおお!」


 大翔は剣を構え突進した。


 しかも剣の力で超加速化していた。


 そしてスパルダスの胸めがけて剣を突き立てた。しかし、スパルダスの堅い皮膚の前についに剣は折れた。

「ああ!」


その時、剣から古の勇者が降臨した。



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