流れる剣 心を水のように
大翔は剣の極意はもちろんない。
だから今は全て、剣の使い方にしろ体の動きにしろ100パーセント精霊の声に従おうと思った。
大翔自身も心も体も何故こんな素直になれるのかわからなかった。
しかし、今は力を失い超強敵と戦うに当たり自分の力など何の役にも立たないと大翔は知っていた。
だから精霊の声のまま、動かされるように剣をふるい続けた。
達人の動きをそのまま初心者が真似るような形だった。
完全な模倣だ。
ちなみにスパルダスは武器を持っていない。
もし武器を持った相手なら下級兵士にも軽くあしらわれていただろう。
大翔はなぜか精霊の声に全幅の信頼を寄せる事が出来た。と言うより今頼れるのは精霊しかいなかった。
いつもはスポーツの時もうおおお、と歯ぎしりする激しい気迫をこめる大翔が今は悟りを開いた水の様な境地にいた。
はあはあするほど力んで体の力を無理に使わず、剣の言う事と動きに従い流れるように動いた。
自分がこうしたい、こう切りたいと言う意識を捨て剣に従う。
それはまるでバレエやアイススケートの様に美しくかつ無駄を極限まで省いた流麗な体の使い方だった。
客観的に見てもどこにも力が入っていない。
「君が剣を動かすんじゃない! 剣に動かされるんだ」
「はい」
大翔の手や腕、足にも肩にも余計な力はこもっていなかった。ただ水の様に風の様に剣の赴くまま体をゆだねた。大翔の体は剣を流す水の様に生物と言うよ自然の動きだった。
剣の精霊は話しかけた。
「非常に素直に体の力が抜けている、いいぞ!」
「はい!」
「とにかく剣に頼るんだ、剣を持つ、それ以外の『こう攻めてやろう』とかの考えは一切捨てるんだ。一切のおごりを捨て君は今初心者の小学生に過ぎないと思うんだ」
「はい!」
スパルダスは上手く反撃できず苛立った。
勿論すぐ爆発するほど小物ではないが。
「くっ、調子に乗るな!」
スパルダスが武器を出さないのはまだ本気でないからなのか。
また皮膚も手甲等の鎧も厚くなかなか致命的ダメージが与えられなかった
駄目だ、致命的ダメージを与えられない、と大翔は焦った。
しかし剣の霊は
「あせっては敵の思うツボだ」
と諭した。
いつも焦りたがる大翔の癖がなくなった。
大翔の動きは剣で美しい舞踏をするようなで一方武器がないため防げないスパルダスの体を剣と霊が指示す
る通り切り付けていった。
かすり傷を多く作るような攻め方である。
力を込め大振りに切るようなダイナミックさはなかったが流麗な動きでさすがのスパルダスもかわしきれずイライラが募った。
スパルダスは、こんな相手に僕が焦っている何故だと言う今まで感じた事のないいらだちとわずかな危機感を感じていた。
そして真正面から胸を突こうとした時、無敵の魔法が切れた。
スパルダスは不意に剣を上腕で受け止め大翔を吹っ飛ばした。
「う!」
「くくく」
大翔の心と体に戦慄が走る。
「うわああ!」
また三夫も吹っ飛ばされた。
「くっくっ!」
とスパルダスは笑った。