絶望の戦いの中光る剣
部屋の空気がなくなり大翔達はのどを押さえ嗚咽した。
「げほっ! げほっ!」
スパルダスは大きな口を開け腹を押さえて締まりがない下品な笑い方をした。しかも大声だ。
「はーっはっは『死の宣告』の威力はどうだ? 何もしゃべれないだろう。くっくっく」
これほど冷酷かつ大声で人が苦しむのをあざ笑うのも珍しい。
「がっがあ!」
三夫も死ぬ寸前の様に苦しみ顔面が青ざめた。
「どうする? 降参するか」
嘲笑と試しにはっきりと「お前らは勝てない、さあどうする」と言う決断を迫る冷たさがあった。
「やだ……」
と大翔は絞り出すように、しかし強く言った。
「何?」
耳に手を当て「よく聞こえなかったが」と怒る時の聞き方である。
「い、やだ」
また大翔は降参を拒否した。
「強情な奴だな。人間は酸素が無ければ活動も出来ないんだぞ。その気になれば僕は君たちの命を奪う事なんて簡単だってまだ分からないかな? じゃあ条件を言う。君たちが降参してディード君の魂を大人しく返したら命は助けてやる」
「あ、あう」
もはや大翔の酸欠状態は限界に来ていた。
「あ、しゃべれないか、じゃあテレパシーで聞こう」
「あ、魔王の魂を返したらどうなるんだ?」
「簡単な事だよ。君は魔王の能力が使えなくなりただの小学生に戻る。そうなったら脅威じゃないからね。どうする?」
「う、うう」
馬鹿にしながら選択を迫る言い方をしてきた。
「早く答えを出さないと窒息しちゃうよ」
「うおお!」
その瞬間だった。
大翔は光った退魔の剣を手に切りかかった。
すさまじい波動が起きスパルダスの頬に少しだけ傷をつけた。
本当に突然の出来事だった。
珍しくスパルダスは傷を押さえながら無言の沈黙をした。もちろんぼうっとしているわけではない。
一瞬で何が起きたのか落ち着いてはいるものの知覚しかねるような反応だった。
スパルダスの表情や全身から出す激怒寸前の雰囲気は嵐、それも大嵐の前の静けさ、さしずめ風で窓が揺れる現象の様な恐怖をその場にいた全員に与えた。
「なるほど、これが君の答えか。ふふん。よし、一旦死の宣告解除!」
なるほど、の部分が特に重く怖かった。
「酸素が戻った!」
突如部屋の酸素が戻った。
「勘違いするな。君は自力で死の宣告を解いたわけじゃない。君たちは別の方法で倒す」
そしてスパルダスは詠唱して力を溜めた。
空気がそんなにない空間で台風の様な轟音が響く。力の圧を激しくびりびりと肌に焼付くほど感じる。
そして手を上げ溜めた熱戦を大翔、と言うより剣めがけて発した。
わざと剣を狙ったようだった。
「その剣には興味がある。ちょっと試させてもらうよ!」
ものすごいエネルギーが剣にかかり、大翔は必死に両手で剣を支えた。汗ですべりそうだった。
「う、うぎぎ!」
「僕の攻撃を受け止めるとはさすがにその剣は何か秘密があるようだね。ますます気にいった!」
なおもスパルダスは光線を発射し続けた。
大翔は支え続けた。
(ぬっ、これほどの攻撃を受けながら耐えるとは一体何の剣だ?)
スパルダスは疑念に感じた。
その時だった。
一馬の時と同様に剣から再度青白い光が出て大翔の魔導手甲の宝石部分に光を与えた。
(まだ倒れてはいかん!)
(えっあなたは一体)
見ていた三夫は思った。
(魔導手甲に力を?)
その声と光に押されて大翔は攻撃に耐え続けた。スパルダスは疑問に感じた。
(その剣は一体。これほど私の攻撃に耐えるとは。かくなる上は!)
左手を上げ大翔の体に別の光線を当てた。
「うわっ!」
「霊体剥奪だ。君からディード君の力をはく奪する!」
「うわああ!」
大翔の体からディードの霊体が抜けようとしていた。まさしく幽体離脱である。
「うわあ!」
抵抗しても根性で対抗できるものではなかった。
わしつかみにして引っこ抜くようにスパルダスは大翔の体から霊を抜いた。
ついにディードの霊体が抜けた。
命を奪われるように大翔は力なくたおれた。
「これでディード君は復活出来る。彼の力はまだ必要だ。さてと」
力の無くなった大翔を思い切り殴った。
さらに首をつかみあげ左手で殴った。
信じられない力と衝撃だった。かつて冥王が大翔の体に食らわせたそれの比ではない。
「大翔君!」
いきなり三夫はヒートドームを食らわせた。
「ふふん!」
これが全く効かなかった
「まだだ!」
三夫は恐れず飛び上がりながら光の矢のラッシュを食らわせた。スパルダスは爆発に包まれた。
しかしスパルダスは爆発の煙の中から何事もなく現れた。
三夫は右腕で叩き落されダウンした所にボディと顔面にパンチを浴びせた。
「さらに!」
今度は大翔を掴みあげ床にたたきつけ、さらに持ち上げもう1発叩きつけた。
大翔は血を吐いた。
「はーっはっはっ! 僕に逆らうからこうなるんだ」
スパルダスは大翔の傷ついた姿に快楽を感じていた。
しかしまた同じ事は起きた。
剣から大翔の魔導手甲に光が当てられた
「う、うう!」
地べたを這いつくばり手を伸ばしながらまたも大翔は腕立て伏せを限界までやった人の様に腕を支えに立ち上がろうとする。それは何かが宿ったようだった。
「ばかな! あいつはもうただの小学生だろう! 立てるわけがない! あの剣に秘密があるのか」
剣を取って向け光線を発射した。ドンドンとさらに無数の光弾がさく裂した。
「この攻撃、何か違う、威力だけでなく我々の苦手な物質が出ているようだ」
「う、うおおお!」
大翔は何かが宿ったように剣の光を放ち続けた。
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