反逆 冥王ついに立つ
それは、まさしく魔王だった。
壁の中から唸り声と地響きのような足音と共に魔王の怪物体がやって来た。
巨大な竜をベースにしているかのようなちょうど爬虫類を2足歩行にして腕と足を太くし顔はドラゴンと悪の魔術師を混合したような形で4本の角と冷血な目、大きな全てを飲み込まん口に毒でもついてるのではと思われる牙。
観客席の黒魔術師たちは騒いだ。
「何だありゃ?」
「まさか? 開発中の?」
「魔王の怪物体?」
冥王は目の前で起きている事に遠くから睨みを利かせた
「どういう事だ?」
抑えていてもあふれ出るような威圧感と凄みだった。
石像の姿であっても目や体の震えが感じられ声も同様だった。
それは周囲の側近に緊張を超えた恐怖を感じた。
ルディンは冷静さを維持しながらも横目でのぞくように冥王の表情を確かめ察し動こうとした。
「暴走でしょうか? 今調べさせます」
冥王はルディンには怒っていないが魔王の事に大層腹を立てていた。
煮えくり返る思いだったかもしれない。
馬鹿にされているような気持だった。
部下にやつ当たりはしていなくとも怒っている。
「あれは初代魔王に与えるための肉体だ。どういう事だ?」
どういう事だ、いったい誰が重大機密のあれを、と言う疑念のみならず、犯人は誰かだけでなく勝手に起動されたという起きている事自体が許せなかった。
まるで誰かが自分をからかう為やっているような不快感を冥王は感じていた。
大ばか者のいたずらのような。
恐らく反逆だとわかっていても、どこか馬鹿な子供にからかわれたような感じた事のない不快感だった。
ここまで大それた反逆は最近のディード・スペード以外記憶にはない。
一方カノンたちは驚愕した。
「何あれ?」
一馬は言った。
「あれが魔王?」
ロゼオムは説明した。
「魔王には『完全体、怪物体』と呼ばれる人間体と別の姿がある。それは冥王が作り出したものだ。今の魔王は大翔君の中に封印されているとすればあの魔王はミランドの地にいた太古の魔王ではないかと思う」
カノンは質問する。
「でも冥王が支配者になったのはここ最近なのに、なぜ昔の魔王が怪物体になれるんですか?」
ロゼオムは推測した。
「恐らく生きたままでいたか。脳などを保管したのかもしれん。その間にそれを入れる器として冥王が怪物体を自分の力で作っておき、そこに魔王の意思を入れたのかもしれん」
カノンは再度聞いた。
「でも魔王って勿論冥王の部下ですよね。何をしようとしてるんですか」
「大翔君を倒すために出たのか」
「だとしたら『あれ』の出番ですね。でも何か様子がおかしいです。何か全方向に敵意を向けていて黒魔術の味方じゃないような」
「あれってなんですか?」
一馬は聞いた。
「あっいやこっちの事」
大翔の意志の中のディードスペードは舌をかんだ。
(くそ、もとは怪物体は俺の為に作られた。それを初代魔王をわざわざ……)
一方、にやりとしながら闘技場の入場場の壁の仕切りの陰でコントローラーを手に持った中島は拉致した魔導博士に聞いていた。
「この装置でコントロールすればいいんだな」
「は、はい。いざと言う時の遠隔装置です」
魔導博士はすっかりおびえている。
「なるほど、意思を持っていても暴走を避けるためにこれで操作するんだな。よしこれを動かして暴れさせる」
「どうするつもりです?」
「決まっているだろう。冥王を倒すのさ」
中島は自信満々に言った。
しかしどこか覚悟の様な物を感じ取れる表情だった。
「う、おううう!」
全身を使って巨大な叫びを上げた魔王はおもむろに周りを見回しさらに観客席の方まで目をやった。
その行為が異常な緊張を生んだ。
「何だ? 何をしようとしてるんだあの怪物?」
「味方なのか?」
まるで目を合わせたら殺されるのではと言う雰囲気だった。
同時に一体魔王は何をしようとしているのかと言う混乱を生んだ。
そして魔王は観客席に目をやったすぐ後の瞬間、ふいに額から円柱状の熱線を客席に撃った。
ものすごい高温だった。そして速度も。
ほとんど目でとらえられない、光が光っただけの様にしか見えない、それほどの速さだった。
しかしその光は次の瞬間惨事を呼んだ。
「ああ!」
観客の黒魔術師は数名が椅子と共に激しい爆発と共に体を焼かれ死亡した。
「何だ!」
いよいよ冥王の怒りが爆発しそうになった。
そこへ冥王とルディンの所に部下が報告に来た。
「報告します! 裏切り者が魔王様の肉体を奪いコントロールしています」
「何だと?」
「私が行きますか?」
ルディンは打診した。
しかし冥王はついに自分から動いた。
「いや……私が行こう」
「冥王出てこい! 俺は反逆者だ!」
中島は声色を使って叫んだ。