魔王の勝利宣言?
魔王はふらつきながら立ち上がった。
「はあ、はあ」
一方三夫も何とか遅れて立ち上がろうとした。
もはや闘志があるのかどうかも確認できない。
はた目には「ただよろよろと力なく立ってきただけ」である。
目がうつろである。
手足の恰好も攻撃態勢が取れていない。
いや、戦う本能自体があるのかと言う状態である。
両者の闘志を立ち上がれないほど相手をにらめないほどにそぎおとしても仕方がないほどの技のぶつかり合いとそれが起こした衝撃と余波だった。
両者とも足がふらつき直立しえない姿勢である。しかし魔王は何とか三夫より速く直立したかった。
そして見せたかった。
冥王に勝ち名乗り、勝利宣言を。
部下の魔法使いの前で完全なる魔王の復活だと言いたかった。そして右腕を挙げて見せた。
これは会場の目を引いた。
魔王はぼろぼろながら元気に振る舞おうとしなるべくそう言った表情をはあはあ言いながら作ろうとしていた。これは演技と言うよりもはっきりと冥王にこの戦いに全てを賭けている事を見せたかったためである。
その気持ちがいつの間にか「見せるための演技」だけでない、自然な自信と勝利の確信の表情を作っていた。
なぜならばディードにとっては大魔法使いとの戦いは一生に一度の決められた宿命の大一番、自分の魔族としての誇りを全て賭けていたのだ。
そこには散って行った先代の魔王たちへの敬服もあった。
天に誓うような気持であった。
元人間の、魔族とはまた違う魔王として尊厳。
宣言は力強くしてこそ見栄えがあるからだ。
(もう1発食らわせれば勝てる!)
魔王は確信した。
そしてついに勝利宣言した。
「冥王様! よくご覧ください! 私があの伝説の魔法使いに勝ち歴史的戦いに勝利を遂げる時が来ました。魔王と大魔法使いの戦いは数百年前からずっと続きました。しかしそれも今日で終わりです! なぜならあの魔法使いにはまだ子孫がおらず、呪いの魔術をかけた子孫がいません。よって私があの小僧の命を奪えば、長い東ミランドと西ミランドの戦いにも終止符が打たれるのです!」
相変わらず客席で圧倒的威圧感を放ちつつも冥王はまじまじと見ながら言った。
「ふむ、ディード・スペードよ良くやった。これで貴様たち魔族の邪魔をする大魔法使いの一族は途絶える。まあ、私はミランドの地には関心はないがな。今後は地上に侵攻すると前に述べたが」
その言い方は相対した先ほどより確かに信頼があった。
しかしその言葉はロゼオム達に余波を与えた。
「何?」
「地上に侵攻するだと?」
カノンたちは思わず大きな声を出した。
魔王は冥王の言う事を受け止めるように言った。
「わかりました。私も必ず地上侵攻の一助を致します」
と力強く手を握り答えた。
完璧に近い芝居だった。
もっとも、冥王への忠義が嘘でも三夫との戦いは真剣だからこそ伝わるのだろうが。
そして魔王は再度電気と魔力をため始めた。
「うおおお!!!」
「再度さっきの攻撃を出す気か!」
会場はざわめいた。
凄まじい雷の量だった。ばちばちとこれまでになく火花が散っていた。
熱も周囲に波及した。
先ほど以上の力が溜まっていた。
魔王の全身に雷がみなぎり体から右腕にかけては黒い瘴気が立ち込めた。
魔王は勝利を確信するように右腕に力を込め、自身の力を確かめるように見ながらにやりとした。
(これで、私は再度かつての力を得る、そしていつか冥王の首を取る!)
「食らえ! 冥王への忠義をこめた一撃!」
決して外さない、エネルギーは決意と共に溜まるだけ溜まっていた。
「す、すげえ……」
と遠くの席までも明らかに魔王の溜めた技の力が伝わりどよめきが起きた。
カノンたちは息を飲んだ。
「どうするんだ。あれを放つ気か」
「あれをもう一発やったら……」
そしてついに瘴気と電気の2発目の合体波動が魔王の手から放たれそうになった時だった。
三夫も再度構え詠唱を始めた。
「大火球!」
これにはカノン達だけでなく客中がどよめいた。
「両者ともぶつける気か!」