化学反応と攻撃の収束
「うおおお!!」
三夫は叫んだ。両手に超大型火球が形成された。
それを見た客席の黒魔術師たちは血気立った。
「す、すげえ! ありゃ半端な威力じゃないぞ!」
「火球魔法の最高レベルだ!」
いいぞ、やれやれと言う空気の中、さすがにロゼオム達は沈痛だった。
「何故だ、何故三夫君は戦う道を選ぶ……」
「彼は本気なんでしょうか?」
カノンが聞くとロゼオムは答えた。
「いや彼にそんな上手なフェイントが出来ると思えない」
話は続いた。
「何故彼にはためらいが無いんですか?」
「精霊に操られてしまっているのかもしれん」
その通り、三夫は精霊の作り出した「予備の第3の人格」に操られ従っていた。
もしも「平和主義の三夫」の気持ちが大きくなり強くなった場合にそれを抑えるための先手として精霊が打って作った人格だ。
もはや三夫の目にためらいはなかった。
友人の情も感じられなかった。
冷たく「使命、つまり皆の平和の為、目の前の魔王を倒す、を執行する事」だけを考えた目になっていた。
一方魔王=大翔は超高速で走り体に大量の電気を蓄積していた。
魔王は大翔に指示した。
「もっとためろ!」
「はい!」
「さっき冥王に放った俺の魔力と合わせた技を使うぞ!」
「……」
答えない大翔に魔王は決断を促した。
「メインの体の使い手としては言う事を聞いてくれないと困るのだ。
冥王との戦いの時の様になっては困る。腹を決めろ!」
さすがに大翔は即答出来なかった。
客はこちらにもすごい雰囲気を感じた。
「魔王様は電気を集めてるのか? 魔王様は電気体質だったのか?」
「いやどうも取りついた先の人間の身体がそうらしいんだ。でその人間は魔力もため込んでるらしい」
雷を覆うように電気を纏った魔王の電気は客席まで飛び火しそうだった。きざぎざの電気が体からあふれ上方に向かって頭から電気が伸びて行った。
「よし、魔力放出、結合!」
そう言うと魔王の両腕は暗黒の瘴気を纏い手首から上腕部、やがて体全体が黒くなっていった。
客は騒ぎ出した。
「何をしているんだ?」
「あの黒い瘴気と電気を結合させるんじゃないのか?」
しかし冥王は言った。
「馬鹿の1つ覚えか。あれで勝てるのか。あいつ全く進歩していないのか」
「それはこれからわかるでしょう」
とルディンは言った。
魔王の身体にすさまじいパワーが充満し、黒と雷があわさった状態に覆われた。
(すまない、三夫君!)
「行くぞ! 暗黒の超雷撃だ!」
三夫はしかと魔王の目を見て手を合わせた。
「うおおおお!!!」
魔王は腕から超エネルギーを発した。
三夫はあまり大きくない声で大火球を発した。
それがついにほぼ同時発射され闘技場中央でぶつかり合った。
「うわああ!!」
客席から悲鳴がこだまする
その衝撃波は客席まで行った。
温風、高熱、地震の様な揺れ。
目にゴミが入り正視すら難しくなった。
「暑すぎる! こんな所いられねえよ!」
「どこまで温度が上がるんだ!?」
ロゼオムは心配した。
闘技場のタイルは真ん中がはじけ飛び客席まで行った。
「ぎゃああ!」
と客にぶつかり悲鳴が聞こえた。
闘技場の中央はものすごいパワーのぶつかりあいだった。
恐らく両者の最終奥義同士のぶつかり合いだ。
それだけでない、両者ともこれに賭けている。
しばらく両攻撃のこう着状態は続いた。
「ぐぐぐ!!!」
両者はお互いものすごい気合を込めた。
手を合わせて力比べをするような要領であり、それ並みの消耗と言ってよかった。
(大翔君すまない! 僕は君を魔王として倒す)
あまりの暑さの中気を失いそうでも三夫は正気を維持した。
しかし情けはもうなかった。
三夫は精霊の力、そして「真面目すぎる性格」に負けたのだ。
魔王の攻撃と大火球が化学反応の様になり爆発し、闘技場が煙に包まれた。
威力は5分5分の様だった。
「どうなったんだ2人は!」
倒れていた2人はやがてふらふら起き上がった。