相争う 三夫の二面性
三夫と魔王は中央で魔法をぶつけていた。
そもそも三夫には2面性がある。
1つ目は「大翔と戦いたくない」という考え。
もう1つは「姿が大翔であっても、魔王ならば平和のため倒さなければならない、情を捨て鬼になっても」と言う考え。
この2つが前から心の中で戦っている。
その半ばが三夫の人格となっている。
しかし三夫の生まれつきの性格から後者の「情を捨て戦う」方の感情が心でかなり強くなっている。
また、この基本的な2面の性格に加え、さらにかけられた「魔王と戦う宿命」の呪いによって後者の方に近い「戦う方向」に性格が曲げられる状態になっている。
生まれつきだがもともと情を捨て皆の事を優先しようとする、責任感の強い三夫の性格がさらに矯正された結果、「大翔と戦いたくない」と言う平和主義の気持ちが心の隅においやられてしまっている状態なのである。
心のせめぎあいで弱い方が負けているのだ。
「しかし皆の為とは言え個人1人の命を犠牲にしていいのか」
この心の部分が激しく否定されたくない事で抵抗した。
しかしその心は押されていた。
段々と「大翔を救う」気持ちが小さくなり「魔王を倒す」と言う責任感と戦う気持ちが心の大部分を占めてしまっている。
三夫は生まれつき悲しい程責任感が強く使命感を大事にする。
それが呪いの矯正でさらに強くなってしまった。
さらに厄介な事に精霊が予備にもう1つ人格を作り上げてしまっている事だ。
それがさらに穏和な三夫を脇においやった。
彼の心に精霊の声が聞こえる。
「あいつは魔王だ。人々を不幸にする諸悪の根元だ。だからどんな理由があっても倒さなければならない。任務を遂行しろ」
しかし弱まった平和主義の三夫の心は抵抗した。
「僕は本当は戦いたくない」
しかし精霊は容赦がない。
「まだそんな事を言ってるのか。あいつは魔王だ倒さなければならない」
彼は苦しみ葛藤した。
「戦いたくない。例え魔王でも大翔君とは」
「そ、そうだ。僕は大翔君への情を捨て皆のため魔王を倒さなければならない小を捨てて大を生かすんだ」
と言う2つの考えが彼の中でせめぎ合っていた。
「大翔君と戦いたくない」
そんな事は普通に考えれば当然のことだ。
ついこの間まで一緒に学校へ通い絵まで描いていた友人が今こうして向き合い闘技場で戦うと言う信じられない話になっているのだ。
三夫は思っていた。
(大翔君なら『絶対友達とは戦わない』と言うだろう。それは僕だってそうさ。だけど僕は人間て鬼にならなければならない事があってそれはきれい事じゃ済まないんだ)
三夫は父と外国で戦争をしている国のニュースを見ていた事を思い出した。
「見ろ。こうして戦争になった時は憎みあうときもあるが憎しみがなくても国の為に戦わなければならなかったりするんだ。その国に友達がいたらその人とも戦わなきゃいけなくなるんだ」
「友人とは時と場合により敵になり戦わなければならない」
これが世の掟の様に三夫の胸に刻み込まれていた。
今もそうである。
三夫はそれを「宿命」「受け止めなければいけない事」ととらえる部分が大きかった。
(僕の親は別に「友人と戦え」とは言わなかった。でも僕は昔からそういった情を抑えて皆全体の事とかを考えちゃう性格なんだ。ごめん大翔君)
しかし別の人格は言う。
「自分の都合で友人を攻撃してもいいのか」
また別の人格の部分が顔を出した。
「友人と戦いを避け自分は傷つかず他の人を守りたいなんて傲慢、よくばりだ」
それは普段三夫の心の片隅の気づかないふりをしていた感情だった。
その時魔王の口から大翔の声が発せられた。
「よせ三夫君!」
「はっ!」
この言葉と響きが三夫の内的対立を中断させた。
間が出来た。
「何だ? どうしたんだ?」
黒魔術のギャラリー達は不思議がった。
魔王はいきなり出てきて叫んだ大翔に怒った。
「作戦通りにしろ! 声を出すな! 俺が上手くやろうとしてるんだ!」
「三夫君を戦わせられないんだ!」
このやり取りは周囲には聞こえていなかった。
「貴様も融通の利かない奴だな。考えがないなら引っ込んでいろ」
魔王は大翔を制しようとした。
大翔はまだあきらめなかった。
「僕三夫君に呼びかける!」
「それは駄目だ!」
何でこんなタイミングで邪魔を、と言う気持ちだった。
しかし大翔はどうしても三夫と戦いたくなかった。
無理だったとしても。
「僕しかできないんだ!」
三夫の脳内は魔法を放ちながら複数の人格が戦っていた。
「大翔君と戦いたくない! 何とか助けたい!」
と言う人格。
「たとえ友人でも皆の為には倒さなければならない事もある!」
この2つ目の人格は呪い、精霊の力によってさらに強くなり1つ目の戦いを避けたい気持ちを圧迫していた
「うわあ!」
と1つ目の人格は苦しく叫んだ。
そして精霊が作った3つ目の人格は
「いざとなれば僕が前面に出て体を動かす!」
三夫の葛藤と心の中の戦いが大きくなり頭を抑え始めた
ここで魔王は畳み掛けた
「チャンスだ!」
と言い雷撃を発した。
「うわあ!」
と言い三夫は吹っ飛ばされた。
「よし!」
と魔王が言った時体が動かなくなった。
「ぐっぐぐ」
大翔の意志が体を制御していた。
「貴様……」
「僕は戦わない……!」