教師、家族の葛藤
次の日、学年主任を筆頭に会議が開かれた。
もちろん大翔のあの一件が議題だ。
担任・巣鴨は表情が重かった。
「困った事になった。まさか大翔君が家が火事になった友人を笑うとは……いや笑ったわけじゃない、のだがそもそも相手が不幸だと言う事を理解していない。それが大きな問題だ……」
他の陰口が好きそうな顔の中堅教師と一見好い人の若手の2人の教師も悩んでいた。
「やはり彼自身に悪意がなく、かつ自分の言動の問題点を把握出来ていない事が要因、問題です」
「しかも周りの生徒も彼を責めると言うよりも病気の人として避けている雰囲気なのです」
3人の教師がひとしきり話した後、気の強い雰囲気の若い女教師が立ち上がって言った。
髪は腰まであり、腰のラインが流麗だった。顔の輪郭も細い。
真中と言う24歳の女教師だ。
「やはり転校させるべきでは?」
突然ストレートに言った。
(でたっ! 若きお局様)
(化粧とメガネが逆に老けて見える)
と小声で他の教師は噂した。
例えて言えば高校の「ちょっと男子!」「先生○君が」と口走る堅い学級委員の女の子の様だ。
髪は長くキレイでスタイルも非常にいいが。
正直彼女は堅い性格のせいで男性教師からはあまり人気がない。
学歴もいいのだが。
しかしこのストレートな発言にさすがに巣鴨は慌てた。
「し、しかし…」
だが、反論に対し真中は態度を変えなかった。
自分の方が年下と言う事を忘れるように一貫して強い調子で言い放った。
「そうでなければ私たちだけでなく他の生徒も戸惑いチームワークを乱す事になります! 今は多感な時期なんです」
「それって異質なものを排斥する論理じゃ……」
と言いかけた。しかし巣鴨はそれ以上強く言えなかった。
どうも彼女が相手だと口ごもってしまう自分が嫌だった。
それを知ってか知らずか真中はなおも続けた。
「そもそもそんな発言をした以上、今後クラスメートは2度と大翔君によいイメージを持たなくなります。多動性の子は注意を聞かずかつルールを守らず、相手をつい攻撃してしまいます。これからますますひどくなる可能性もあります。また勉強も集中出来ない所があります。私は本などで見ただけでなく受け持った事がある経験から言っているのです」
「は、はい……」
巣鴨は悩んだ。隣の教師と話した。
「あいかわらず結婚相手のいなさそうな人ですね」
「まあすらっとしてるけど。まあ確かに言い方は強いけど彼女はまだ若い、そんなに権限があるわけじゃない」
「大体正論を盾にして来ますよね。他の人に迷惑がかかる、とか」
「空気読めないのは問題とか言ってるけど自分も読めずに強い意見言いますよね。家の父なんか堅くて会社で自己主張の強い女性は気にいらないみたいに言う人だったんだけどここにはそうやって全否定する人いませんからね」
聞こえたのか真中はきっと睨んだ。
しかし巣鴨は真中をよく見ていた。
「しかし目や口元にどことなく柔らかさみたいなものも感じる、僕だけか」
巣鴨の考えは大翔の事に移った。弱ったなあ……ん? そう言えば明日は! とある事にひらめいた。
一方その夜三夫は家で大翔が走る姿を絵に書いていた。しかし
「あのシーンはカットかなあ…………」
次の朝、大翔の両親は早く起きて話し合っていた。
母はしわが増えそうな深いため息をついた。
「これからどうなるのかしら。今回みたいに大翔が問題を起こす様だと他の親御さんにもっと気を遣う必要が出てくるのよ。前に喧嘩をした時は本当に申し訳なくて恥ずかしかった」
「喧嘩か、トラブルは親にも影響を与えるね。まあ今回は喧嘩じゃないけど」
父は母の気苦労を察した。
「喧嘩は大翔が必ず悪い訳じゃないけど」
母は一息して続けた。
「ええ、それから気を遣ったりして保護者会やイベントへの積極的出席だとかしなければならなくなったわ。あーあ」
母は肘をつきながら少し苛立ちこれまでを思い出し疲れていた。
母はさらに続ける。
「それに先生との今以上のコンタクトも必要になるわ。それに私も同席しなければならなくなってきて、欠席するのも難しいわ」
父は何とか母のストレスを緩和させようと無理しないように言った。
「何か、多方面に気を使う事になるなあ。はは。まあ、僕はいいよ」
母はストレスを息に感じる。
これからを想像して気が重くなっている。
「専業主婦と思えない忙しさになりそうよ。働いてる人に失礼でも」
父は母を尊重する言い方をした。
「いや、下手すると僕らサラリーマンよりストレス増えるよ。何せ子育ては母親が、かつ母同士の関係が非常に大きな責任の比重を占めるからね。そうだなあ。しかも『うわべ』の付き合いだけじゃなくお互い理解しあうために多くの人の話を聞いたり深く付き合う事が増えそうに思う。気苦労はすごいよね」
母はさらに方針を詰めた。
「なるべく親子でなく、私だけで出て他のお母さんたちと関係を作りたいんだけど。ただ、私よりもちろん最終的には大翔にソーシャルスキルを身につけさせないといけない。スキルは家でも教えて外でも身に着けさせる」
「ソーシャル、社会か。集団行動を多く学ばせることになりそうだね」
「ええ、しかも『ぶっつけ本番』じゃなく『こうした方がいい』とか予習して終わったら反省ね。ま、本人が一番大変だろうけど。社会に出て行き当たりばったりじゃだめよ。泳ぎみたいなもんで」
方針、考えはしっかりしていた。
父はさらに将来に向けた細かい方向性について言った。
「僕は別にいい、君が負担でなければ。家事に影響がでるとかそういう事を言うつもりはない。これからは親子で色々チェックして行かなければならないかもしれない。ただやはり大翔が最終的に完全に近い自立を可能にするためレールを敷きそこを脱線しないよう大人に向け歩かせなければならない」
「ええ」
「学校生活しかり勉強しかり。あと支援先としてのデイサービスなんかでも色々な場所があるだろう。良い所と悪い所と」
父は椅子に背中をもたれた。
「つまりは生徒を上からでなく寄り添い理解してくれる所が良いと思う」
母は1ヵ所ポイントを指摘した。
「また密にコンタクトを取れる所が」
「なるほど、密なコンタクトか」
母はさらにポイントを挙げた。
「そうね。秘密を厳守してくれる所だと望ましいわ」
「秘密厳守とオープンの区分けが上手いプロっぽさがあるといい」
父は別のポイント、プロっぽさについて言及した。
また、いくつか挙げて行った。
「プロっぽさだけでなく支援員の人格よね」
「それとシステムだな」
今度はシステムについて言った。
母は今度は料金について言った。
「ディサービスならともかくマンツーマンの専門的療育の場合は1時間1万円かかるっていう話なの」
父も悩んだ。
「うわっ、そりゃ無理だろう。予算オーバーだよ。かといって通院による投薬措置であってもかかるだろう」
母は肘をついていた。育て方、他人との付き合い、医療費すべてに悩んでいた。
「先生とも医者とも密な連携が必要よね。後、親同士の繋がりだけど、発達障害を打ち明けた方がいいかまようのよね」
「やめた方がいいかもしれない。ママ友たちは何を話しているかわからないし、依然として風当たりは強いと思う」
「そうよね。依然として」
「親でさえ差別するんだから子供はもっとだ」
「それが子供同士のトラブルに繋がると学校や塾へも行けなくなるわ。塾に馴染めないと個人指導の塾へ行く事になってすごくお金がかかるわ」
「そもそも学校に行けなくなったら転校を考えなければいけない。そうしたらもっとお金がかかる」
「どこかいい相談先を探してるんだけど、教育委員会の設置する教育支援センターとか」
「あとは、自治体の障害福祉課や保健センター、児童相談所とかだな」
「特別支援学級に行く事になるのかしら、あの子」
「特別支援学級か」
「将来仕事がちゃんと出来るか不安だけど、もう一方で事故をおこしたらごめんじゃすまないわ」
「まああいつ子供の頃から病院でわあわあ泣いて違和感感じたけど前は友達とのけんかも多かったからなあ。なるべく子供のころから苦手を克服して社会性を身に着けないと」
「そうね。最近は落ち着いて友達も増えたけど。でもうまくやれてるか不安もあるわ。これから親同士もそうなるけど」
次の日学校である出来事が起こった。
「今日から教育実習の時任先生です」
それは新しく教育実習生が来る知らせだった。
「みんな、よろしく!」
若くさわやかな風貌の教師だった。大翔は運命の出会いを感じた。
ミランドの歴史、設定のおさらいです。
魔王が憑依した人間は魔王の力を得る……
ある大陸の伝説である。
数百年前より、元は地続きだった人間界とは異なる空間世界に分離された、魔法使いが統治する、ミランドと言う大陸がある。
そこでは魔法が当たり前の様に使われている。
魔法を教える「魔法学校」もある。
しかし、学校には同時にそれ以外の人間の基本能力も多く伸ばす方針がある。
何故なら日常生活も教育も魔法ばかり使ったり発展させない国の方針があるからだ。
その理由は科学と同様に魔法により人間が衰退してしまう事が無い様に懸念されているためだ。
例えば、国にはインフラ等において、必ずしも全てを魔法で管理しているわけではなく普通の人間の文化も多くある。
工業、建築、土木、科学、農業、狩猟、商業等さまざまな技術で文化は成り立っている。
そして各分野を発展させ文明を築いた。
教育と仕事については、ミランドでは子供でも魔法を使える。
そのため早い段階で未成年の魔法力を社会に活かす為、国民は中学生になると魔法学校に行きながら同時に人間界の調査員等を大人同様にやらせる二足のわらじの教育制度があり、早い段階で仕事をする中学生も多い。
政治の歴史について言うと、昔は地方の有力者である豪族(特に中央豪族)、豪族連合や天皇の外戚が政権を握る構図だった。豪族は貴族と違い地方農民が力を持った者である。
天皇や豪族は私的に人民や土地を支配していた。
空間分断される前の日本の歴史に似ている。
その後改革により天皇を中心に据える中央集権型国家に変わり国が貴族を管理した。後継者の天皇と別の天皇を即位させる等政治上色々あった。
土地や被支配級民は天皇に帰属する、いわゆる公地公民制である。
豪族との共有でもあったが。しかしやがて公地公民は崩壊する。
貴族は多くの給与を国から得ていた。
天皇には貴族への官職撤廃権や軍団指揮権があった。
しかし貴族は租税を免除される事もあった。
朝廷に仕える貴族の一日は、午前3時に行われる開諸門鼓かいしょもんこと言う合図で始まる。
国ごとに日本で言う国司のような管理役人が派遣されている。
国司はやがて受領と呼ばれる様になる。
豪族、武士、貴族が権力を巡り激しく対立抗争し、陰謀を企て、内紛や家督争い、クーデターを起こす頃もあった。
対立の図式には武士から天皇への反乱誤認や保守、革新や貴族の同族の派閥争い等もあった。
戦いには軍事的戦略力だけでなくクーデター後の政権構想や見通しを測られる事もある。
やがて天皇ではなく武士が政権を握ろうと勢力を伸ばした。将軍は全国の武士に軍事動員をかける権限を得た。
この頃は天皇に逆らう事は武士達にとって大変な恐怖であった。
朝廷から見れば将軍は権力において鬱陶しい為争いが起きた。
天皇が同時に2人いる事もあり、さらに派閥対立が加わり3つ巴の戦いになった事もあった。
そして幕府は朝廷を倒した。
将軍に任命された役人(日本で言う守護)は刈田狼藉の決断権と使節遵行権等を持ち、さらにそれを利用して力をつけていき後に大きな力を持った有力者(守護大名の様に)になった。
以前から将軍に仕えていたかで幕政に関与しない大名もいた。
天領と呼ばれる直轄領は役人が統制した。
農業についての歴史はまず昔中央集権の頃農地は全て国有だったがやがて貴族らが所有し、貴族と農民の貧富の差が激しかった時代もある。
農民は土地の私有が認められず借りた土地で支配され、貴族は生活ものんびりしていた時間に農民はあわやひえを食べ重い税を払った。
農民も貧困層と富豪層の差は大きく、偽籍や逃亡の問題も多発した。
労役を課せられるのは小作人である。
人民支配体制から土地を元に支配する制度に時代で変わった。
開墾を行う資力のある貴族はさらに力を上げた。しかし段々朝廷と貴族の力が及ばなくなってくる。
貴族の最上位は太政大臣から業務を受け継ぎその後天皇の介入や乱等色々あって空位もあった中、摂政、関白の摂関家となり、荘園は拡大し公領と二分された。しかし院政により摂関の力は弱まる。
朝廷が地方を放棄した為治安が悪くなり農民は身を守る為武士団を結成した。その棟梁になったのは貴族や皇族である。
税を取り立てる役職も設置された。
凶作豊作に関わらず一定量を取り立てたりした。
しかし開墾した農民が私有を認められる事もあった。
その中から農民は税の取り立てから身を守るため武装したり「魔法使い」と言う職業になった。「魔法狩り令」もあった。
貴族はその内力を増した土地管理者と利益を分け合ったりした。
検地によってその土地の予測取れ高を政府は調べた。
やがて直領地解体等で領主の農民に対する支配は弱まり農民は自治する者が多くなった。
後に新田開発が行われる様になり、経済は大きく成長を遂げた。
国内自給経済の頃は、都を中心とする全国経済と藩の複合経済システムだった。
それもあって中流階級は現在は多い。
また数人組織とし連帯責任や相互観察をする制度もあった頃もある。
軍は剣、槍、弓矢を使う兵士も多い。
しかし特に正魔法教会の力が強く魔法が大きな地位を占めている。
魔法を使える農民は労役や兵役を課せられる事もある。
都や地方の警備等もする。徴兵制は時代によってなくなった年代もある。
昔は農民がお金がなく兵役をこなさなければ生活出来ない事もあった。代理人を立てる事もあった。実は軍事はそっちのけで略奪が主目的だった事もある。
宗教と一揆を合わせたような争いも起きた。これは宗教国がミランドを植民地にしようとしていると言う説から異国貿易が禁止になった時期もある。やがて貨幣経済が農村に浸透し商品作物が多く作られた。
しかし金銀銅の量が増えた事で国内物質の不足を招いて様々な策が取られた。輸入規制や商品国産化等である。
その後米価下落に対する策として行きすぎた倹約令や重い取り立てが農民の反発を招いた。
他国への開国後の自由貿易で国が輸出の増大により大きな経済打撃を受け金銀が流出し農民の没落に拍車をかけた。これに反発したのが攘夷運動である。
古代、女王が統治したか、台国の位置はどこか、いつからミランドと言う名前がついたか、巨大な墓の意味等は天皇が編纂を命じたミランド語で書かれた「ミランド事記」世界共通語の「ミランド書記」の2種の異なる歴史書に記載されているが、ある戦いで書は失われ、歴史の真実については今なお論争が絶えない。
その後、ミランドは多民族国家ゆえ人間と外見が似た「魔族」が混じって入り込み問題を色々おこした。
それゆえの人間と魔族の不信感から来る対立で国は東西に別れた。
人間の国である東ミランドと魔族でも際立って力のある「魔王」を君主として擁立した国である西ミランドと2つが何度か戦争した。
ちなみに魔王は世代交代もする。
戦争に人間が勝ち魔王達が負けた場合は大概魔王は死ぬ。
しかし、魔王は特殊能力があり肉体を失っても赤ん坊の肉体に憑依し別世界、例えば人間界でも生きられる。
魔王が憑依した赤ん坊はやがて魔王固有の能力を使えるようになる。
ミランドの住民は魔法重視国家ゆえ、才能のみでなく産まれたての体にどの位魔力を内包しているかで資質をチェックされるが、ごくまれに産まれつき大量の魔力を体内に持つ者が産まれ魔王ではないかと言われる。
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