運命の対峙
「えっ? 回復薬?」
ルディンの申し出に皆はさすがに戸惑った。
ルディンは敵意なく笑う。
「そうです。これから大魔法使いさんには私たちが用意した血統上で全力で戦ってもらいます。で他の方はギャラリー、いや人質になってもらいます」
「え?」
「これから冥王様の見ている前で魔王様と大魔法使いさんは大闘技場で一騎打ちしてもらいます。そしてこの黒魔術学園の魔法使いもみなギャラリーになります。どちらか勝つまでは逃げられません」
「と、闘技場で決闘って何でそんな事を?」
「ああ、そうですね。大魔法使いさんは代々魔王と戦う事が呪いで宿命付けられているのでしょ? だからこちらとしても盛大にそれをするようにしたのです。あと冥王様の力をもってすれば大魔法使いさんの手をひねる事等簡単です。しかし魔王様の冥王様への忠誠を確かめる事を目的にするため、あえて魔王様に1対1で戦ってもらう事にしたのです」
「ちょっと待ってくれ、大翔君はどこにいるんだ?」
ルディンはさすがに知らない様だった。
「大翔君とは?」
「いやだからあんたたちが連れ去った少年だ」
とぼけた風でなくルディンは答えた。
「そんな人は知りません。あの少年の肉体は魔王様の物ですから」
「ええ、ちょっと」
ルディンは会話を切ってしまった。
「では回復薬を飲んでしばしの休憩の後皆さんは客席へ、大魔法使いさんは闘技場へ移動してもらいます」
その時、三夫の顔色が変わり始めた。
「う、うう」
「どうした?」
三夫は1人言を息を切らしながら絞り出した。
「ま、まおう……俺が倒す……うおおおお! ああああ!」
突然三夫の目付きが変わり暴れはじめた。
「ど、どうしたんだ?」
ルディンは察した。
「決戦を前にして呪いが強くなったのですか」
「あ、ああ」
一方牢屋の中魔王は言った。
「もうすぐ闘技場へ移動か。魔法使いとやるのも久しぶり、いや私の宿命か……」
また大翔が話しかけてきた。
「たのむ、戦わないでくれ!」
「じゃあどうやってこの状況を打破しろと言うんだ!」
「僕が考える!」
さすがに気分を乱され魔王はいらだった。
「どんな作戦があると言うんだ!」
「攻撃しないでくれ!」
具体的作戦のない大翔の言い分にさすがに魔王は気分が悪かった。
「攻撃しなければこちらがやられるだろうが」
「三夫君は恨みのない相手を殺したりしない」
「残念ながらそれは無理だ。私にも大魔法使いにも先祖代々の強力な呪いがかかっている」
「あんたは人間と共存したいんだろ? なのに自分の為だけに冥王に反逆するのか?」
よく事情を知らず言っているような大翔に魔王はまた苛立った。
「私は人間だったと言っただろう。今でも人間だ。私がいや他の魔族も西ミランドの人々も昔どれだけ人間と仲良くする努力をしたか知っているのか? にも関わらず戦争は防げなかった。政治の事も考えた事のないガキが」
「時間をかければ人間も魔族も分かり合えるはずだ!」
「理想論を言うな。今までどれだけの犠牲者が出たと思っているんだ。貴様が生きているのも犠牲の上なんだぞ」
「あんたは人間や魔族の上に立つ人だったんだろ! それなのに自分の野望ばかり持っていいのか?」
「うるさい、もう話す事はない」
魔王は呆れて会話を遮断した。
カノンたちは連れられ客席に移動した。
「ひ、広い!」
そこは室内とは思えない、古代のコロセウムの様な広い広い闘技場であった。
客の収用人数は3000人を超えるだろう。現代で言えばサッカー場だ。
そして遂に冥王が現れた。すると客席の魔法使いたちは熱狂した。
「冥王様、ばんざーい!」
カノンとロゼオムは話した。
「三夫君はそろそろ」
「ええ、そろそろ出てくると思います」
「我々はどうしていいかわからない」
「これより魔王ディード・スペードと大魔法使いの戦いを開始します!」
そして2人はそれぞれ東西反対の入り口からコロセウムに入り対峙した。
見ると三夫は全く迷いのない顔をしている。これは演技とは思えない。
汗1つかかず、相手とどこか遠くの中間を見ている。
両者とも言葉はなかった。
お互いが中央に対峙ししばしにらみ合った。
他意を全く感じない、演技でなく戦う事しか考えていない雰囲気である。
すさまじい緊迫感に場内は声を失っていた。
三夫は演技でなく明らかに呪いに支配されている。
これまでになく無機質で堅い表情だ。
その表情をみてさらにロゼオム達は不安が増した。
いつ始まるのかという期待感が渦巻く中そして
「はじめ!」
の合図とともに両者は構えた。
先手は魔王が切った。
弱めのけん制用光弾を何発か撃つと、三夫は跳躍の魔法で上空に逃げた。
さらに魔王は追い打ちの光弾を撃ったが三夫は空中を滑るように横移動した。
その横にも魔王は光弾を撃ったが今度は素早く下移動した。下移動する中でも何発か魔王は撃ち、着地するまで攻撃した。すると魔王は着地した三夫に少し威力が上の光弾を撃ったがバリアで三夫は防いだ。
「やるな」
「う、うおお!」
三夫の目が血走り唸り声を発した。
そして詠唱し、魔王のそれより強力な光弾を撃った。しかし魔王は光弾を避けず受けた。体が煙に包まれた。
「耐久力はこちらが上だ」
さらに三夫は光弾を何発か撃ったが何発かは手で払い、身体でも受けた。
「これでどうだ!」
魔王はアダラングを撃退した高レベルの火炎魔法を撃った。三夫はバリアで防いだ。
「防ぎきれるかな?」
三夫は苦しがったが何と気合で呪文をかき消した。
そして高レベルの氷魔法を撃った。
これが魔王に直撃した。
「火のお返しに氷か、やるな」
その後も光弾の応酬は続いた。