一馬の最後の力と誘い
「う、おおおお!」
満身創痍で手を動かすのがやっとの中、全身に渾身の力をこめ一馬は本当にどうにか立ち上がった。
しかし体はボロボロでも目は燃えている。彼はこう思っていた。
「大翔には負けたくない! あいつならこんな所で倒れないはずだ! あいつは俺よりずっとすごい奴なんだ。だから負けたくない」
しかしバンズコはあざ笑っていた。
一馬に負けるなどとは1mmも考えていない。
「ガキが何か意味不明の事をつぶやいてるぜ、まだやられたりないのかあいつ」
また苦しみの中一馬はつぶやいた。
「お、俺は確かに2回大翔と勝負に勝った。でも何か勝った気がしなかった。それはあいつが俺よりずっとすごい奴だからだ。だから負けたくない! こいつらは俺が倒して見せる」
何かが宿ったように一馬は立ち上がった。
全身汗だくで歯ぎしりをしている。
そしてまた剣が光り一馬の身体が青白く包まれた。
「あの光侮れん、何だ」
「もしかして伝説の宝具かもしれん。しかしそうだとしても使い手があのガキじゃたかが知れている」
バンズコとジャクレイはそろって馬鹿にした。
「う、うおおお!」
青白い光を纏った一馬は突進した。最後の力だった。瞳が青くなったように見えた。
それがジャクレイ達に異なる印象を与え、若干の警戒心を抱かせた。
すぐさまジャクレイは剣を放ったがこれを近い距離で防いで見せた。
「何?」
的確な剣さばきと防御だった。
「じゃあこれでどうだ」
と言いバンズコは一馬に爆破魔法を放った。
これがまともに直撃した。
「はーっははは! 剣でも爆発は防げんな!」
「一馬君!」
カノンたちは叫んだ。
しかし次の瞬間、一馬は爆破の中からすごいジャンプで飛び出してきた。
そして飛んでバンズコに切りかかり鎧に傷をつけた。
「うおおお!」
「どういう事だ。さっきとは動きいやタフさそのものが違う。これは一体?」
ロゼオム達も驚いていた。
「さっきより一馬君そのものがパワーアップしている。あの剣の不思議な力が彼に力を与えているのか。いやそれだけでない。一馬君の叫びに剣が呼応し、そして一馬君もそれに呼応している」
「お互いに呼応?」
「それが力の秘密ではないか。退魔の剣にはそんな力があると聞いた」
ジャクレイは激しく剣を何発も伸ばして来たが一馬は剣でことごとく防いだ。
必死なのだが冷静でもある。
「なんか剣が一馬君に乗り移ったみたいだ」
「ふん、ならば俺の奥の手だ」
といいジャクレイがマントを広げるとそこには無数のナイフが隠してあった。
「死ね」
ジャクレイの命令でナイフは一馬めがけて飛び体のあちこちに刺さった。
「一馬君!」
カノンたちは絶叫した。
しかし一馬は出血多量で倒れそうになりながらもまるで生きたまま死んだ人間のように剣を支えに立っている。
「何だと? まだやられないのか? あいつはガキだろう!」
「う、ああ、くっ……俺は、負けない、俺に最後の力を!」
そう言って血を流した手で剣を握りしめると剣から出るオーラが一馬を包み全身がオーラの固まりになった。
「なんだあれは!」
「うおおお!」
一馬は切りかかった。
ジャクレイの剣はオーラが跳ね返し、ジャクレイの懐に飛び込むと縦横の十時切りを浴びせた。
「ば、馬鹿な……」
と言いジャクレイは倒れた。一馬も倒れた。
怪我をしていた三夫は一馬によろよろと駆け寄った。
「一馬君」
「三夫、俺はもう駄目だ、後は頼む」
その頃ルディンは冥王に報告に行った。
「2人の内ジャクレイがやられました。バンズコも重傷です」
「何だと? して、大魔法使いは無事か?」
「かなり深手を負っているようです」
「ううむ」
その頃カノンたちは何とか力をあわせ出口を探した。
「皆しっかりしろ。多分こっちが出口だ。もうすぐだ」
「うう」
その頃牢には伝言役の魔法使いが魔王=大翔の元へ来た。
「そろそろ貴様と戦うはずの大魔法使いが来るぞ」
(三夫君が!)
大翔は意識の中で思ったが言葉を発する事は出来ない。
「わが黒魔術学園の巨大室内競技場で対決するのだ。光栄だろう」
「ねえ!」
大翔は魔王に叫んだ。
「何だ!」
「時間をくれ! 何とか三夫君と戦わない、避ける、助ける方法を考えたいんだ!」
「こんな間近になってそんな事をいってるのか、もう駄目だ。あきらめろ!」
「諦めたくない!」
そして三夫達は何とか階段を見つけた。
「やった!」
彼らはやっと安堵した。
しかし、そこにはルディンが待ち構えていた。
「くっ、まだ!」
「私は皆さんとは戦いません。これから特に大魔法使いさんには全力で戦ってもらいます。だから皆さんに回復薬を渡します」