2国の歴史
大分、更新が遅れまして申し訳ありません。軽度(と言うか重度の)病気でまだ治っていません。
「中島はどうした?」
「ルディン様?」
グニールのいる管制室に18歳ぐらいに見える童顔で背も低めな端正な顔の魔法使いが入り中島の動向を聞いた。頬がつるんとした卵型で肌は白めである。
若いようだが明らかにグニールより立場が上に見える。
とてもおとなしく冷静そうだが見えない威厳を身にまとっている。
全身を紫の装束で固めている。
大きな円が先についた杖を胸の前方で横斜めに片手で構えている。
「あ、あの、中島は2人を助けに行くと言い地下ダンジョンに下りました」
「何か変わった様子はなかったか」
「いえ、ただ誰かの命令だとてっきり」
「いや、誰も命令はしていない、どういう事だ。まさか裏切り……」
「えっ? でも裏切る理由が何もない気がしますが」
ルディンは顎に手を当てた。
「ちょっと先程彼にある物を見せたのだ。そうしたら彼はかなり動揺していた」
非常に穏やかで冷静な態度が一貫している。一見悪人にはあまり見えない。
その威厳は常に彼体の前に杖を横斜めに携えているからかもしれない。
それは意図的にしているポーズなのか。
一方魔王は大翔に牢の中で言った。
「いいか、作戦を確認するぞ。私がまずこの体を動かし、戦う予定の大魔法使いを倒す」
「そんなのこまるよ!」
やはり大翔は激しく拒絶した。
しかし魔王は意に介さず自分ペースで話を進めた。
「やかましい、私は自分が再度力を手にし冥王を打倒するためにやるんだ。そのために命を長くするために冥王の言う事を聞いたふりをしたんだ」
「別にあいつを騙したっていい。だけど三夫君と戦ってあげくに命を奪うなんて出来るわけないだろ!」
「安心しろ、私が全てやる」
「そういう安心じゃない!」
「お前は生き延びたくないのか? ここで死にたいのか? 自分を捨てて友人を助けたいのか?」
「そうだっ!」
大翔が言い切ると魔王はあざ笑った。
「そんなのが本心とは思えんな」
「本心だ」
大翔は強く言った。大翔の言い方には本当に本心からの響きのようだった。
魔王はまた少し諭すような口調になった。
「貴様がさっき戦ったのは冥王を倒すためだろう。死ねばそれまでで信念は途中で断念されるがな」
大翔も勢いだけでなく少し相手を認める言い方をした。
「あんたが謝らなければ僕はもう死んでいた。それはわかってる。でも今はまだ死ねない」
「何だ」
「あんたが戦いを避けようとしないなら死んでも死にきれない。あんたが三夫君と戦う事を止める事、それが出来たら別に死んでもいい」
「私とは目的は真逆だな」
珍しく大翔は皮肉っぽく言った。
「あんたは悪者だから人を大事にしないんだろ」
「人聞きの悪い言い方だな。私や他の黒魔術師達はこれでも正魔法教会と昔は一緒に住み、その後国を分けても共存していたんだぞ。根っからの悪人だと貴様は思ってるんだろうがな」
「ええっ!」
「ああ、正魔法教会と統一国家を形成していたが袂を分けた。そもそも正魔法教会と黒魔術の区分けもなく同じ国に共存していたんだ。その後袂をわけてもきちんと2つの国として共存していたんだ」
「そうなんだ」
大翔はさすがにかなり意外な口調と顔をした。
「何故戦争をする事になったか、教えてやる」
と言うと何故か魔王はわざわざ時間を割いて丁寧な説明を始めた。
「数百年前ミランドの大陸は元々正魔法教会と黒魔術派が国境で別れて共存していた」
「うん」
「しかし、元は人間のみの1つの国家だったんだ。ところがある時その国に人間と同じ格好をした魔族がかなりの数混じり生活していたのがわかったんだ」
「えっじゃあ、人間だけの国だったのにその中に魔族が隠れて混じった国だったの?」
「そうだ」
その当時の官邸会議ではこういった話し合いが行われていた。
「国王に申し上げます。全国民の血液、身体検査の結果、『魔族』と言う種族が混ざってわがミランドで生活をしている事が分かりました」
別の部下は
「彼らは人間ではありません。これは別の国に種族そのものを移動させるべきかと」
「そうです。ミランドは我々人間の国です。他の種族が混じれば様々な問題が起きるでしょう」
しかしこれを聞いたミランドを統括する寛大なる国王は言った。
「いや、この国を2つにわけ、その1つを魔族に統治させるのだ」
さすがに皆どよめいた。
「し、しかしそんな事は」
「追放でなく、国を分けるのだ。それがどの種族にも平等な考えと言う物だ。この大陸は別に最初から人間だけの物だったわけでないし誰が決めたわけでもない」
結局反対もある中再三会議を繰り返し、ついにミランドは東西2つの国に分かれる事になった。
しかし、やはりこの決定も官僚のみでなく国民の波紋を生んだ。
もちろん同意しない国民も少なからずいた。
何故ならば「魔族のために人口を2つにわけ国の所有権も半分にする事は逆に人間側に「魔族と言う別種族の為に国が半分になった」と受け取られるからだ。
しかし国王は言った。
「断じて少数種族を辺境の地に隔離する差別的扱いは駄目だ。人間と袂をわけかつ協力しお互いに生産物を作り貿易をするようにしよう」
結局「人間のみの国」と「魔族と人間が共存する国」の東西2国にわけられる事となり、後者は魔族のリーダー、魔王、つまり初代が盟主となった。
「魔族と人間の国」つまり西ミランドは人口は魔族2に人間8だった。そして魔族の党主
は人間の女と子供を作り血は段々薄くなっていった。
しかし基本的には魔族は皆西ミランドで真面目に働いていた。
これには東ミランドの政治家たちも驚いた。
そして2国間でよく話し合いの場を設けてお互いの意見を聞き、人間的信頼のみでなく生産物の信頼性も上がり貿易が増えた。
西ミランドは魔族と人間は仲良く仕事をし豊かになり、国際的信頼も得て行った。
これはやはり初代党首になった魔族が「自分たちの人権」だけでなく「人間との共存」を目標やスローガンに上げ国を引っ張って来たからだろう。
しかし西ミランドで人間と魔族は一応仲良く暮らしていたのもつかの間、その後東西は戦争をする事になる。
単純に「人間と魔族の戦争」ではなく「人間と魔族と魔族と仲良くする人間の戦争」になっていった。
国が2つに分かれて戦争に至るまで様々な問題があった。
人間のみが暮らす東ミランドの官邸会議室では戦争前までこのような議題提起があった。
「国王、我が国東ミランドにおいて、ある労働所で子供をさらって強制労働させていた連中の身元が魔族だと発覚しました」
別の官僚が言った。
「その魔族とやらは密航者で申請なしで東ミランドに潜り込んでいたのかもしれないと言う事です」
また別の官僚が言った。
「これは西ミランドが問題を隠蔽していたのではないでしょうか。2か国会議で徹底追及し、しかるべき措置を取るべきではないかと」
また別の官僚が言った。
「私的に言わせてもらえれば西ミランドは魔族をかばっていたのではないかと、それは魔族が魔族をかばっていたのか魔族と仲良くなった人間の考えなのかは知りませんが」
「とにかくこの1件について調べるため、東ミランドに不法滞在者及び悪徳業者がいないか調べます」
この1件で、東ミランドには多くの国民や事業所に対し政府が立ち入り調査をする事になった。これが多くの不満を買った。
「魔族がまぎれて悪い事をしたせいで我々は取り調べの様な扱いをされたではないか!」
「いや疑いは消えていない。元々西ミランドを魔族に与えたのが悪かったんだ!」
こう言われた事に西ミランド国民は憤慨した。
「魔族だから、じゃなく、悪い事をするのは人間だって同じことだ! 魔族だけが害を及ぼすみたいじゃないか!」
結局この件は悪人逮捕と事業所や戸籍などの調査のみにとどまり、経済制裁等には発展しなかった。
ところが、また問題は起きた。
「外務省の調べで、輸入が認められたものでなく別の材質を加工していたと言う事案が発生しました」
「それも魔族が経営している所です」
これもまた調査の懸案事項となり、調べられた方、調べる方、国民も疑いの目が大きくなってしまった。
それからは西ミランドに対し東ミランドからの輸出品目が減った。
食料自給率が低い西ミランドの悪人は東ミランドに入り込み略奪を行った。これがかなり大きな分岐点になった。
数人の官僚たちが立て続けに意見を述べた。
「西ミランドとの全面戦争を開始すべきでは?」
「しかし、魔族全員を悪とみなすのは良くないのでは? それに西ミランドの人間達はどうする?」
「西ミランドの人間はすでに魔族と仲良く暮らし文化を共有し価値観も変わっています。そもそも西ミランドは魔族と仲が良いからこそ人間がかばっているのではと言う疑いが発生しました」
「西ミランドの人間は元は魔族と共に単に移り住んだだけの人達でした。しかし魔族と同居し仲良くなっていく内に明らかに東ミランドの住人とは価値観が異なるようになりました」
「まず西ミランドの人間が魔族が悪い事をしても信用し騙されているのでは、かばっているのでは、共謀しているのではと言う様々な疑いが生まれる原因になりました」
「またもう1つの問題として、魔族と人間のハーフ、クォーターと言う新しい人種が生まれ彼らをどのように扱うか大きな問題になっています」
しかし初代の魔族による党首は魔族の人権を確立し共存するため努力をした。東ミランドと何度も話し合った。
しかし次第に差別意識は強くなり戦争へと発展して行った。
その後時を経て初めて人間として党首になる予定だったのがディード・スぺードの父だった。
しかし彼は先代党首だった魔王に「魔族が人間と争う宿命」を消さない為人間でありながら呪いの魔法をかけられていた。そして次期の党首となるスペードにも呪いはかけられていた。