死闘続行 避けられない運命
「うおおお」
大翔は唸って自らを鼓舞し、攻撃が1息ついても気迫が下がらないようにした。
「はっ、はっ」
流石に少し息が切れてきた。
一方冥王は先ほどと全く違う大翔(の体)の動き、気迫に謎めいた物を感じていた。
(こいつ、私への畏怖を忘れたか? いや、さっきこいつは完全に戦意を喪失していた。いったいなぜ?
しかしこいつはあれだけ私に反逆しなおもそれを変えようとしない。まあその気持ちだけは褒めてやるが。
反逆の罪が今更消える事などないと身を以て教えてやる。恐怖を叩きつけるだけ叩きつけてから殺す、いや待てよ……)
一瞬、冥王は何かに気付いた。
(もうすぐ、足止めに失敗すればここにくるやつらがいるな。この中の奴こそが魔王との運命をわかつ大魔法使い、なるほど、こいつは魔王を倒すために来たのか)
ペースは少し落ちてもなおもバリアをグローブの様にしたパンチを放っていった大翔だったがさすがに息が荒くなってきた。
マジックバリアを放出しただけでも相当な魔力を使い、それに体術が加わるのだ。
疲労しない方がおかしい。
しかし冥王は石像の姿である事もあるが、いまいち攻撃が効いているのかどうなのか反応や手ごたえが無い。
本当なら攻撃している側としては反応が無ければそれが段々と精神的負担になってくる。
(こいつ効いているのか……)
覚醒してから冷静沈着でみじんの隙もなかった大翔が息を切らし始めた。
「はあはあ」
しかし大翔の攻撃に威力が無い事は決してない。普通の相手ならとっくに勝負がついている。
それだけ冥王が手ごわいのだ。
少しだが大翔は焦った。
今は中にいる魔王は
(小僧のこんな強力な攻撃をくらいつづけてほとんど反応なしか? 冥王様とはこれほどに強大だったのか、おっと無意識に「様」を付けてしまった。私は恐怖に支配されているのか。それにしてもこの小僧は私の能力全てを使いこなせるわけではない、呪文の詠唱は全ては出来ないはずだ。と言う事はまた同じパターンの攻撃を繰り返す気か)
まだ残った大翔の手の内、まず隕石魔法があった。
「隕石落下!」
さっきのアダラング達との戦いで確かに大翔は隕石魔法を使った。
しかし大翔が習得したのは主に光弾とマジックバリアで、先ほどのバリアを帯びたパンチはその応用である。
何故覚醒した大翔に魔王が本来使う隕石魔法が使えたのか。それは恐らく大翔が魔王の記憶を引っ張りだしそれを詠唱したからだと思われる。
大翔の魔力と魔王の魔力はそれぞれ「別の場所にある貯蔵庫」の様なものである。
それぞれ自分の文しか使えなかったはずが何故か相手の貯蔵した魔力まで自分の意志で使えるように体の構造が変わったようである。
隕石の魔法なら、大翔が魔王の魔力を引っ張り出してそれを使い、記憶を引っ張り出して詠唱する。
すると隕石が空間に出現し、冥王めがけ半径1mの球が落ちて行った。
冥王は片手で抑えようとしたが少し押され、両手で受け止めて見せた。
そして後方へ弾き返した。冥王の手から煙が出ている。
さらに先ほど使用した攻撃の中のもう1つは高度の火炎魔法だ。
これも本来大翔が習得したのではなく魔王だから詠唱出来るのだが魔王の脳の記憶や言語を大翔が特殊(彼しか出来ないやり方で)方法で引っ張りだし詠唱したのだ。
詠唱している時は魔王がしているのではなく、例えて言えば読めない単語をふりがなを付けて音読しそれを大翔が読む事で呪文は成立する。
魔王は困惑し苛立っていた。
(私の記憶と言語を引っ張り出して魔法を使うだと? そんな行使方法初めて知ったぞ。私は人間時代たゆまぬ努力で魔法を身につけた。だがこの小僧はそんな修練もなしに私の習得した魔法を使用しているのか、ええい苛立つ、私は自身の野望の為、黒魔術の繁栄の為自分を磨いた。それがどんな努力だったかこの小僧にわかるはずがない。一体なぜこのガキは魔法の知識なく私の魔法を代わりに使いこなせると言うのだ)
そして魔王は意識下で大翔に語りだした。
「小僧私と意識を交代させろ。貴様が魔法を使いこなせると思うか」
「……それは出来ない」
「何故だ」
「あんたは冥王に怯えているからだ」
そして大翔はアダラングを押し切った高度な火の魔法を放ったが直撃にも関わらずこれも冥王には効いているか良くわからなかった。
魔王は計算した。
(後残っているのはアシッドレイン、口波動、毒液、眼光、地震、波動投げ、連鎖爆発などか、勝手に私の手の内を)
突如、寸断するように冥王は切り出した。
「そろそろ、君と戦う運命の魔法使いがここに来るようだが」
「何!?」
大翔は動揺した。
冥王は理路整然と言う。
「君は私には勝てん。今の力ではなかなか頑張ったが私に勝てん。だがこれからここへ来る大魔法使いの子孫と戦い勝利すれば今度だけは反逆の罪を許そう」
大翔は答えた。下を向き拳を震わせている。
「そんな事するわけないだろ」
聞くはずのない事を聞かれたからだ。
しかし冥王は構うことなく現実を突きつけるように言った。
「君も大魔法使いの子孫も、かけられた呪いや魔法の力で戦いを避けられないのではないか。先代もずっとそうだったはずだ。君の意志に関係なく」
「うっ!」
突如激しい突き抜けるような痛みが大翔の頭に走った。まるで言葉ではなく他人が大翔に強く命令しているようだった。この痛みはかつてない経験だった。あまりの痛みに大翔は直立出来なくなった。
「う、うあああ!」
「ふふ、貴様ら魔王と大魔法使いは決して運命から逃れられない。これから戦うのだ!」