大翔と冥王の激突
大翔と冥王の戦いは続いた。
信じられないような光景だった。
「うおお」
大翔は拳を構え叫んだ。
渾身の気迫と超スピードで冥王の攻撃をかわしながら宙を滑るように突進しパンチを浴びせて言った。
空中をスケートで滑るかのごときだった。
壁を蹴り踏み台にし、そこからまるでサーフィンで滑るように魔王に突進する。
「ぬ、ぬう」
そしてパンチは確かに冥王に当たった。
凄い音がした。
凄まじく腰の入ったパンチだ。
響きからして内部まで非常に重く轟いているようだった。
ダンテは叫んだ。
「な、何てパンチだ! 私があんなものを食ったら砕けてしまう!」
しかし喰らいながら冥王は効いているのか微妙な反応をした。なにせ石像である。
表情も変えなければ顔の形が変わるわけでもない。
しかし大翔は魔王が戦っていた時よりはるかに冥王に対して押していた。
いや、戦い方そのものが違う。
魔王は大翔の体の中で畏怖した。
(あの小僧が冥王を殴っている。同じ体で。私が歯が立たなかった相手を)
冥王は大きな腕だけで、悪くいえば大振りな動きで大翔を払おうとするが、それをことごとく大翔はかわしその度にハイスピードで懐に飛び込み渾身のパンチを冥王の顔面に打っていった。
心を引っ込めた魔王は大翔の体の中で思った。
少しだけ冷静さを取り戻した。
(まだ冥王は本気ではないかもしれない。本気ならもっと凄まじい攻撃をするだろう。し、しかし冥王相手にこんな戦い方が出来るとは)
大翔の1発1発が既に気合の全てを込めた渾身の1撃だった。
ペース配分などない。
ダンテは恐怖した。
「ま、まさか冥王様の顔を殴れる者がいるとは」
「ええい、うるさい蝿め」
蝿と言う言葉使いからしてまだ冥王には余裕があるかもしれない。
しかし大翔はひたすら向かっていった。よけては突進し殴る。
そこには作戦などなかった。ただ負けたくないだけだった。
倒すべき、皆の幸せを壊そうとする敵が目の前にいる。
しかし先ほどまで攻撃を受けたのは大翔の体であり、一時的にひっこんでいたとは言えその身に散々な攻撃を受け精神的にも肉体的にも冥王の恐怖を植え付けられたのに大翔は全くひるんでいない。
魔王は思った。
(ただの小学生にこんな力が)
大翔は前に突撃する事しか考えていない。
流石に冥王はなぜ大翔にこんな力があるか知らなかった。
(こいつあれほどの目にあってなぜこれだけの攻撃が。どう言う事だ、よし様子見に、少し挑発して見るか)
冥王は試に挑発に出た。
様子見程度の目的でしかなかったが。
「こんな単調な攻撃で私を倒せると思ったか? 馬鹿の一つ覚えが」
馬鹿と言われ大翔は憤激した。
それはかつて小柴に「馬鹿が当てられた」と言われた時とおなじだった。
大翔は怒りを内部で爆発させる事で、特訓で得たマジックバリアの体内エネルギーを膨張させた。
様子の違いに冥王は気づいた。
「何が起きている。どういう事だ」
大翔は気合と詠唱でマジックバリアを体内から体の外まで膨張させ熱を帯びた球体で体の周囲を覆った。
そして大翔はマジックバリアを手足に分散させ、光を帯びた手足にした。明らかに大翔の体は熱と硬度を帯びている。
燃える鉄板を手足に着けたようなものだ。
そして大翔は手足がバリア帯同状態にして飛びかかり冥王に殴りかかった。
バリアのパワーを手足に収束させて殴ると言う大翔の発想で編み出した技だった。
冥王の石像の体から大翔のパンチが当たり火花が出た。
「ぐっ!」
冥王はほんのわずか押し出された。
「なっ!」
ダンテは驚愕した。
(あの方の体に傷を?)
なおも大翔の体は光り続けている。
その一発の威力は通常のパンチの比ではなかった。そして光を帯びた拳で思い切り殴りかかった。
「ぬう?」
威力の違いが大きかったのか、冥王の動揺は大きくなった。
さらに大翔は今度は蹴りを加えた。
「こしゃくな」
と言う明らかに今までは発しなかった言葉を冥王は発した。
魔王の意思は驚愕した。
「何故こんな動きができる?既に肉体のダメージは限界のはずだ。さらにマジックバリアをこんな風に使うとは、パワーもスピードもはるかに小僧の方が体を使いこなしているなぜだ」
大翔はただ目の前の敵を倒したい、力を悪用させたくない、それだけだった。
目の前にいるのは悪、それしかなかった。
魔王は意志に閉じ込められながらも思っていた。
なぜ大翔にこんな力と精神力があるのか。
大翔は冥王を恐れていない。
「大ダメージを受けて肉体が覚醒したのか? 1度目は東山の自爆に巻き込まれた時、そして今度は冥王の攻撃で、この体はただの人間と思っていたがちがうのか?一体この小僧の体は」