皆の為に
「できません」
と大きな声ではないが、しっかりと相手に響く様に三夫は言った。
それが力強さだけでなく先ほどまでにない皆を強く心配する様子が、三夫自身は抑えているものの強く感じられた為カノンは言った。
「三夫君……」
こう感じていた
(明らかにさっきと様子が違う)
しかし半ば自分を無視して話し始めた事にキリー・ジャクレイはいらだった。
「何を良くわからない事を」
と言い、またも魔法のナイフを数本撃ってきた。
三夫とカノンに当たりそうになった。
「危ない!」
とっさに三夫はバリアを張り、カノンと一馬を覆った。
そして前を向いたまま2人にできる限りゆっくりと伝わるように言った。
どうも覚醒後の彼は自分で意識しないと相手に伝わる話し方をするのが難しいらしい。
「僕は魔王と戦い食い止めなければなりません。それが僕の使命です。しかし、僕は皆さんを放って先に行く事は出来ません。僕は今でもかけられた運命の呪いのような物に支配され動かされています。しかし今はさっきまでとは違う感情が生まれたみたいなんです。カノンさんたちが僕に宿命に縛られるなと言った。僕は確かにそれを全うしなければいけ無いのですが、だからと言ってそればかり考えて他の人を置いて行く事は出来ません」
先ほどより落ち着き、皆の事を考えて話し行動していることがよくカノンに伝わり返した。
「いや、僕は君が無理をしてなければと思って言ったんだ。君が運命の定めだと言い本意でないのに無理をして親友の大翔君と戦う様に自身を追いこんでなければと。君が自分の意志で何かに縛られるんじゃなく考えて行動出来るならそれが1番いい。だけど今は一方で大翔君の事も心配だ。君が気になるなら先に言った方がいい」
「無理するな、あいつの武器位俺が……」
一馬は言った。
またうつむき気味でかつ穏やかに落ち着いて三夫は言った。
「皆さんをおいていくのは嫌です。それは運命とか抜きにすれば1人だけ先に行くのは人間として間違ってると思ったからです。カノンさんの助言のおかげで考えられました。ただ本当は今も焦って先に行かなければとも思ってます。魔王を止めなければ多くの人に被害が及ぶ。でも今一緒にいる人たちをおいて行きたくない、そうしたくないもう1人の自分がいて……未だに運命の力に逆らえない自分もいて、なんとか落ち着こうとしてます」
ロゼオムとバンズコの重力合戦はまだ続いていた。お互い一歩も引かない。
話しているうち、また大量のナイフが飛んできた。
「うわきたっ!」
とカノンは叫んだ。
しかし三夫のバリアが全て防いだ。
ジャクレイは悔しがった。
「くそ! 何と言う強固なバリアだ!」
カノンは言った。
「僕はこんな強力なバリア作れないよ。それに今は肩を怪我してるし。ごめん三夫君の力を借りるしかない」
一馬は
「しかしこのままじゃ反撃できない」
一馬はジャクレイをちらと見た。
「よし俺が!」
と言い一馬は前に出た。
「俺の剣でこいつのナイフを全て防ぐ! その間に反撃して下さい!」
カノンはさすがに止めた。
「無茶だ! 剣が光ってるとはいえ!」
ジャクレイはあざ笑っていた。
「ふん、マヴロウに簡単にやられたやつか。俺はお前に付き合ってやらんぞ。くらえ!」
と言い大量のナイフを投げつけた。
「くっ!」
一馬の剣裁きは剣の宝石から出ている光で数段上がっていた。必死で襲いくるナイフを撃ち落とした。
しかしジャクレイはひるまない。
「ふん、私の魔法のナイフは本物のナイフ投げと違い、1度に投げられる量に制限がない。防ぎきれんぞ」
一馬に20本はあるナイフが襲いかかり、一馬は凄まじい集中力で全てを見極め撃ち落とそうとした。
マヴロウと戦った時とは比べものにならない速い剣裁きだ。
「ぬう、まだだ!」
さらにどんどんとナイフを撃ってきた。
一馬は限界を超えた反射神経と集中力を維持し続けた。
「水流魔法!」
援護に三夫の強光弾とカノンの水魔法が放たれた。ジャクレイはこれを正面から受けたがまだやられてなかった。
「しぶとい……」
一馬は言った。
「三夫、お前はさっきみたいに速く飛んでいく事が出来るんだろ? カノンさんへの攻撃は俺が防ぐからお前は飛び越えて大翔の所へ行ってくれ」
カノンも言った。
「そうだ、僕たちはまだ戦える」
(あれがまだ残ってる)
とカノンは自分でささやいた。
また一馬も言った。
「今、速く行って大翔を救えるのはお前だけなんだ」
カノンも言った。
「そうだ。自分で考えろと言ったが、それは僕達の事を気にしろって事じゃなく、まず君がしたい事を優先してほしかったんだ。君は大翔君を助けたいだろう」
一馬は叫んだ。
「そうだ! 大翔は一番の仲間じゃないか! 後悔しない様にしてくれ!」
三夫は感謝し皆の気持ちを汲みかつ心配した。
(皆、僕を先に行かせようと……でもおいて行く事は……)
自分でも短時間で考えなどが変わり何より柔らかく考えられるようになっていた。
運命の力に縛られ抑えてはいてもがちがちの自分、それをカノンたちが変えてくれた。
「うわっ!」
ついに防ぎきれず2発ナイフが一馬の腕と腿に当たった。
「一馬君!」
「大丈夫だ! 早く行け!」
一馬は叫んだ。
「そんな事」
三夫の心に人を心配する気持ちが大きく強く生まれていた。
カノンや一馬は昔からの付き合いの大翔ほど親しくないかもしれない。
カノンはついさっき会ったばかりだ。
しかしカノンは助言をしてくれた。どこか冷たかった自分に。
だから付き合いの長さで仲間を天秤にかけたくない。
そう思っていた。
ジャクレイは冷酷に言った。
「追い打ちだ。私が生成できるのはナイフだけではないぞ」
ジャクレイはいきなり手から高熱の塊を出し鞭化した。
「高熱鞭!」
手に集まった光が鞭の形に伸び、一馬に向かって投げつけるとそれはぐんぐんと伸び一馬の体を縛り上げ動けなくした。
一方、謁見の間。
度重なる攻撃を受けた魔王はぐったりしていた。
ダンテは思っていた。
(や、やはり冥王様だけは逆らってはいけなかった)
魔王は指1本動かせず意識が薄くなる中つぶやいた。
(か、勝てるわけがない。あまりに強く恐ろしい。ダメージだけでなくもはやあの方と戦う心が折れた。私が愚かだった。弱かった)
冥王は冷笑した。
「もう、完全に終わりかな?」
「まだだ!」
その時叫び声が魔王の口から放たれた。
「何?」
それは魔王ではなく大翔の声だった。
魔王は大翔の意志に言った。
(貴様、この体を動かす気か!)
(僕の心はまだ負けてない!)
大翔は力を振り絞り、そして力強く立ち上がった。