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三夫の葛藤と謁見の間の激闘

(このチャンスを逃すわけには行かない!)

魔王は確信した。


 大翔の身体は雷攻撃が無効か異常に強い事がわかると、現在の心の主である魔王=ディード・スペードはわずかに、いやかなり大きく勝ちを意識した。


 彼の脳内に描く図はこうだった。


(あいつが効いていると思っている雷を挑発に乗って撃ってくる。その後2発分の雷撃を貯めて撃ち返す。そこで怯んだ所に俺と小僧の全魔力と電気を混合した攻撃を浴びせれば、勝てる!)


 この脳内会話は大翔は聞いていた。

(やめろ! 僕の能力を正しくない事に使うな!)


 魔王はうっとおしがった。

(うるさい小僧だな。俺は今冥王と言う悪と戦っている。悪に悪を持って報いるだけだ。元々奴は地上を攻撃する気でいる。どのみちここで倒さないと貴様にも被害が出るぞ)


(勝手に人の身体の物を使うな! あんたはあんたの欲望で戦ってるだけじゃないか? どっちも悪者ならどっちも正義じゃない)


 しかし大翔の気持ちは理解などされない。いやすること自体できないのだろう。

魔王に良心がない故に。


(ふん、どっちも悪者ならどっちも正義じゃない、か、中々言うじゃないか小僧の癖に。しかしその論理は別としてそもそも貴様が真崎大翔として生きていられるのはこの私がお前を選び乗り移ったからだ。貴様のつまらん人間界での生活に我慢して付き合い貴様をこの年まで育てたのは誰だ!?)


 大翔はまだ引き下がらなかった。

(僕は確かに自分の力で生きたわけじゃない、だけどだからといって正しくない事に力を使いたくない! 僕の体で悪い事をされるのはすごく嫌だ)


 魔王は大翔の意志など理解せずお構いなしだった

(うるさい! この体は動かしているのは私だ。使用決定権は貴様にない。貴様はただ大人しく引っ込んでいればいい)


 何とか大翔を黙らせた魔王は再度挑発した。

ここが正念場だった。


「冥王! 貴様の得意な雷を撃ってこい。俺にはそんなものは効かんぞ! 嘘ではないぞ!」


体を思い切り広げあえてこう言った。


 なぜならば「すごく効いている」と言えばいかにも嘘と思われ「もう1発撃ってこい」と言うのが意味が通じなくなり怪しまれるからだ。


(撃ってこい、撃ってこい! 俺の体は雷を吸収する。もう1発来た時が貴様の最後だ。)


 魔王は冥王がとどめに雷を撃ってくるようひたすらあおった。

頭の中で勝利の図を確信し描いた。


 一方、その頃三夫達はまだ地下で道に迷っていた。


 カノンは言った。

「多分なんですが、この迷宮は通る道の順番で脱出できる種類のものではないかと思います。特定の順番で道を通過しなければ脱出できない。根拠は完全でありません。そもそも侵入者をもっと迷わせようと思えばもっと思い切り複雑な構造にする事も出来るからです」


 ロゼオムも言った。

「私も多分そう思う。ところでさっき道筋を記録しておいたメモが魔物との戦いで破れてしまった」


 その時不意に三夫が言った。

「大丈夫です。僕が脳内に全て記憶保存してあります」


さっきまで感じたそっけなさはなく、皆を安心させようと言う気持ちが感じられた。



「ひえー!」

「次はこっちへ行ってみましょう」

「それ記憶保存メモリーの魔法?」

ロゼオムは感心した。



 しばらく進むと新しい道が見えた。

「本当だ、確かに道が変わって開けている」


 その頃グニールはモニターを見ながら不安に感じた。

仲間の醜い顔の方の魔法使いは状況を聞いた。


「どうしたグニール?」

「いや、どうもあいつらにダンジョンの法則を見抜かれたらしい。このままでは突破されてしまう。また新しい魔物を送るか」


 そこで長髪の魔法使いは意を決した。

「いや、それだと万一やられる可能性がある。ここは俺たち2人が行こう」

「おお、頼めるか2人とも」


そう言うと2人の魔法使いはエレベーターの様な機械で降りて行った。


 再度、舞台は三夫たちのいる場所へ


 カノンは聞いた。

「三夫君、さっきの話だけど、大翔君と戦わなければならないってどういう意味だい?」


 三夫は少し間をおいて答えた。

「ええ、それが僕の先祖代々の血の宿命なのです。今は先代やその前が魔王と戦った記憶が浮かんで来て僕に戦えと言ってるんです。僕の体は初めから魔王、つまり大翔君と戦うよう導かれていたのです」


 三夫のあまりの思い込みの強さにカノンは疑問を感じた。

「えっ? でも今時「血の宿命」なんて言葉ないよ。どんな親や先祖をもったからって、親がそうだったからといって子もその通り運命に縛られて同じことをしなきゃいけない決まりなんて今時ないよ。それって思い込みや強迫観念じゃない? 誰もそんな事三夫君に強要する事出来ないわけだし?」


 ロゼオムは続いた。

「能力が覚醒し脳内の記憶が混乱してるのではないのか?」


 三夫はまた少し考えて答えた。

味方ではあるが完全に皆を信じているようでない微妙な雰囲気がある。

「僕は確かに何かに動かされている感じはします、大翔君が変わってからずっと。それは誰かが決めたと言う力も確かに感じるのですが過去の魔王と大魔法使いが戦いの際に何か強力な力をかけ、僕にそうしろと念じているんです。本によれば最先代の大魔法使いが魔王と戦っていた際に妻が生んだ赤ん坊の脳にその意識を植え付けた、と伝説の本に書いてありました」



 しかしカノンたちの呼びかけは三夫の心に届き、段々とではあるが本人も意識的に皆に自分の気持ちを理解させようとする配慮が先ほどよりも強く感じられ伝わってもいた。


 三夫の心が柔らかくなっていったのかもしれない。

それは何としても自分が魔王を倒すと言う目的を1人で完遂する使命感に支配されていたからかもしれない。


しかし呼びかけによりカノンたちは三夫の信頼を得るに至った。



 ロゼオムそれを理解し言った。

「なるほど、ずっと昔の人は息子に同じ目的や意志を持たせようとしてそんな事をする時代もあったのかもしれない。それが君の出生にまで影響を与えてしまっているわけか。ただそれを抜きにして、君は勿論大翔君と戦いたくないんだろう? 勿論それは現代ではあたりまえの事だ。なぜそのずっと昔の念に従うんだ? 自分の意志が魔力で支配されているのか?」



「僕の意志と先代がかけた魔法、その両方と言う意識です。魔王を倒すのは僕の役目であり、僕が倒さなければ苦しむ人が出てくるんです」


「君みたいに真面目だとそういったしばりにくくられてしまう事もあるのかもしれんな。ただ友人と戦うのなんて尋常な事ではないが」


 カノンは聞いた。

「何か数時間で全然別人になっちゃったけど、それまで人間界で生活した時は先代の記憶が蘇ったり覚醒する事はなかったの? つまり周りの人に覚醒した事や本当の正体を隠していたのかとも思った」


「ええ、記憶は全くありません。信じてほしいのですが、正体を隠したりとか全然してないんです。それがさっきから少しずつ覚醒し、大翔君がさらわれて一気に弾けたように」


 三夫はポーカーフェイスと温和に話すことの両方の印象がある。

何より自分の重い役割をやけに真面目にそのまま受け止めている。

しかしその態度を少しずつ柔らかく表現し仲間だと思っている事をわからせようとしている。


 それを感じているカノンは続けた。

「はは、あまりに君が変わりすぎだから別人として接した方がいいのかと思っちゃって」


「いえ、別人じゃなく記憶もちゃんとあります。ただ人間界にいたころなぜか昔から魔法が好きで、魔法が実在すると思ったり魔方陣を書きたいとか、自分でも良くわからないんですが魔法が好きだったのも昔からの運命の力かと」


 ロゼオムは助言した。

「まあ、自分の運命を生まれつき誰かがコントロールしてるとかそう思うと何だか窮屈になるよ。君は君の意志を大事にすべきだし。戦うのはいやなんだろう? 人間はどんな出生でも自由ないか」


「はい、時任先生も言っていました。でも僕がやらなきゃと思っちゃうんです。僕と大翔君が同じ学校に行ったのも宿命だったんじゃないかと」

 

 ロゼオムは続けた。

「いや宿命で縛っちゃだめだよ。大翔君だって同級生が操られた時気持ちを取り戻すよう必死に呼びかけていた。大事なのは自分の気持ちだよ。これを大事にしないと。友達と戦うなんてあまりにむなしいだろう。そんな事のために生きるなんてあまりに悲しくむなしい。そんなのは正しい人間の生き方じゃない」


「ありがとうございます。しかし見えない何かが僕を導いているみたいです」


 カノンは聞いた。

「大翔君の声聞こえるの?」


「苦しいと言ってるのが確かに聞こえます」


その頃謁見の間では冥王がとどめを刺そうとしていた。


 冥王は挑発に乗ってきた。

「私はプライドが高い。攻撃が効かないともう1度それを試したくなる」


(撃ってこい、思惑通りだ)


 冥王が指と手を振り下ろすとさらに大きな雷が部屋の上から発生しついに魔王の上に落ちた。そして魔王の身体全体を直撃した。


「うおおおお!」

と魔王は効いている演技をしながら全身に雷撃を吸収し、倒れながら全ての魔力と大翔が今まで体内に蓄積した電力を混合した。


「うおおおお!」

効いたふりをしながら体内で力を生成した。そしてその力は最初の雷撃の5倍はあるほどに高まった。


「これだけの力があれば1撃で!」


 魔王は勝ち誇り腕を冥王向けてかざした。

「食らえ、貴様の雷撃を吸収し数倍にして返してやる!」


 とてつもない雷撃のパワーが魔王の体から放出され冥王の全身を包んだ。

「ぐ、ぐぐっ!」


 冥王は初めて苦しげな声を上げた。

「うおおお!」

魔王は押し切った。


 ついに叫び声と共に冥王の身体は爆発に包まれた。しかし次の瞬間魔王は戦慄した。

冥王の身体にはほとんど傷1つついていない。


「な、なぜだ……」


 冥王は低い声で言った。

「愚かな奴よ。貴様が雷撃を撃ち返してくる事もあらかじめ考え雷属性変化の魔法を自分にかけておいたのだ」





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