謎のダンジョンと魔王の過去
「乗り込もう!」
はやるカノンにロゼオムは少し弱気になった。
「すごい数の敵が待っていそう……」
さすがに尻込みしていた。
カノンは喝を入れようとした。
「そんな事背筋丸めていってる場合じゃないですよ。こうしてる間にも奴らは大翔君に何をしているかわからない。一体何をする気なのか。大翔君の正体は何なのか」
ロゼオムはまだ怯えていたが答えた。
「もし本当に真崎君の正体が前大戦で我々と戦った魔王ならば、きっと力を利用するか魔王として奉ろうとしてるかだろう」
一馬は問いかけた。
「あいつらのボスなんですか魔王って。でもなぜ魔王が大翔の恰好を?」
ロゼオムは答えた。
「魔王が他の人間をあざむき人間界に力を回復するまで潜伏するためだったのかもしれん」
また不意に三夫が言った。
「だとしたら僕は大翔君と戦って勝たなければいけないかもしれません」
「えっ?」
皆は驚き沈黙が生まれた。
「それが僕の運命だからです」
この言葉もさらに皆を絶句させた。
しーんとしてしまった。
「う、運命って……君は一体?」
「僕は太古に生まれた大魔術師です」
何かを思い出す顔で三夫は言った。
しかし妙に落ち着いている。
ただクールな言い方にならないよう配慮して話してるようにも聞こえる。
「じゃあお前も生まれ変わり? 大翔と同じ」
一馬が聞いた。
大翔と同じと言う言い方が少し空気を重くした。
ロゼオムは話を変えた。
「まあ、それより中へ突入しよう!」
ロゼオムは
「三夫君、あまり背負い込むな。我々に相談しろ」
カノンは
「大翔君が三夫君と戦うわけないじゃないか」
「はい」
そして一行は勇気を出し突入の様な気持ちで意を決して中に入ったが、一転中には見張り一人いない。普通の寺院のような静かな中身だった。
白とグレーの内装で広い廊下からいくつもの部屋に通じる扉がある。
カノンは言った
「あ、あれ? 拍子抜けしたな。敵がいないですよ。」
ロゼオムも言った。
「何か怪しすぎないか?」
「慎重に進みましょう。慎重に」
カノンは念を押すように言った。
ロゼオムが先頭となり慎重に抜き足差し足で1歩ずつ非常にゆっくり進んだ。
しかし次の瞬間
「あっ?」
突然床が割れ、一行は落とし穴に落ちてしまった。
一方大翔は別の階にいた。
「魔王よ。お目覚め下さい」
「ここは?」
大翔が目覚めた場所は黒魔術学園の奥深く、天井が高い横幅も10メートルはある大変に広い部屋であった。儀式などに使われそうだった。
そこにダンテは立って待っていた。
「貴方の本拠地、黒魔術学園本部です」
「離してもらおうか」
大翔、いや魔王は変わってからの声と口調で威圧し不機嫌を表すように言った。
ダンテは苦笑しながらなだめた。
「ま、まあお待ちを、貴方にお聞きしたい事があるのです」
「何だ?」
魔王の機嫌は治っていない。
ダンテは彼の機嫌を損ねないか焦った。
「貴方の目的はなんでしょう? 何故そのような少年の恰好をしているのです? それとお言葉ですがなぜ味方の我々と戦ったのですか?」
「わかった、話そう。」
魔王はすこし落ち着いて話す気になったようだ。たしかにダンテを味方と認識したようだった。
カノンたちは落とし穴から下に落ちた。
「いったあ」
カノンは左右を見回しながら言った。そこはセメントの壁によって仕切られ、大きな通りや間があり細い道でそれらがつながっている。まだ一見出口はどこかわからない空間だった。
「ここは地下迷路か? まさかこんな構造だったとは」
ロゼオムは言った。
「多分侵入者を惑わせるためだろう。とすると相当に複雑?」
カノンは仕切りなおした。
「勿論地図も無いですし。紙に書きながら進みますか」
そして全員一緒に10分程ダンジョンを注意深く歩き回った。
「思ったより意外にシンプルな構造じゃないですか? これなら普通に突破出来るかも」
カノンが行ったとき、ふいに三夫が耳に手をやった。
「ん?」
「どうした三夫君?」
「大翔君の心の声が聞こえます」
さすがに皆は注目した。
「この近くにか?」
「いえ、もっと上の階です。これは何をしてるんだろう」
三夫は耳をじっとすまし聞き取ろうとした。
「これは何か大翔君がもう1人の自分と葛藤してるみたいです」
「もう1人の自分……」
そしてしばらく一行はダンジョンを探索した。
「広いなあさすがに」
カノンは疲れはじめた。
「複雑さではなく広さで我々を惑わそうと言う気かもしれん」
「あれ、ここ通りませんでした?」
カノンは壁の傷に気付いた。
「そういえば……記憶にある?」
カノンは不安になった。
「もしかして。ループ構造のダンジョンじゃ? ある部分まで進むと元にワープするって言う」
「本当か?」
カノンは「はめられた」と言う気持ちでため息をついた。
「確かにやけに単純な構造だと思いましたよ」
「じゃあここからは逃げられない?」
一馬は言った。
「いえ、方法は必ずあるはずです。一定の法則で進むとかじゃないですか」
三夫は助言した。
グニールは別の階でモニターを見てにやついていた。
「馬鹿め、まんまと引っかかりおって」
一方ダンテは魔王に聞いていた。
「貴方は前大戦で我々の味方だった。魔界から全エネルギーを使い召喚し、そして私たちの味方になってくれた。あの大戦後あなたはどこに?」
魔王はついに重い腰を上げるように「いいだろう、話してやる」と言う調子で話し始めた。
「うむ、私は正魔法教会の軍勢に敗れた。しかし一命は取り留めた。そして君たちの捕えていた少年兵士にするためにさらってきた赤ん坊の1人の身体に乗り移ったのだ。そして人間界に移動し人間の母親の胎に移動した。そして真崎大翔と名前を受け人間界で暮らし力を蓄える予定だった。ところがこの真崎と言う少年は異常に強い意志の力を持っており私の力でコントロールできなくなった。そのためずっと私は心に閉じ込められさっきの戦いで再び目覚めた。しかしここでも真崎大翔の意思が私をコントロールした」
「だから私達と戦ったのですね」
「私の不手際だ。こんな力をもった子供に乗り移るとは」
わずかに魔王は自身のミスを恥じていた。
ダンテは魔王に言った。
「わかりました。なぜあなたが我々と戦ったのか。ではあの方に会いに行きましょう」
「それはもしや」
「冥王です」