ダンテ・モルグ降臨
アダラングは信じがたい大翔の変化とその力に恐怖と疑念が交錯した心情になった。
「まさか、あの小僧が魔王? 何故だ、あの方は前大戦で姿を消した。それがあのようなガキの姿をしているなどありえん!」
しかしここで疑問は解消されなかった。
「し、しかし魔法界の人間でもなく少し魔法をかじっただけのあのガキがあれほどの力を持っている事の説明がつかん。地上にあんな人間がいるはずがない。しかし、魔王様がわざわざ人間の姿をして我々に敵対する理由がない。操られているのか? あれほどの方が」
離れた場所でスターマークはつらそうに言った。
「残念ながら、大翔君は魔王かもしれん」
「えっ?」
驚いたトライブにマークは説明を続けた。
「彼の体内には我々と違う「黒い魔力」を感じるのだ」
黒い魔力と言う言い方が重く皆の心にのしかかった。
そこへ突然、意外な人物が口をはさんだ。
「僕も感じます」
不意に三夫が予期しない事を言ったため皆は驚いた。
マークは皆が驚いて言葉を止め三夫を見た中、1人冷静になり聞いた。
その動揺は大翔が変わったこととまた別種だった。
「三夫君、何故君が分かるんだ」
「何となくですが」
三夫はスターマークの方を見ず前を見たままで答えどこか言いたくなさげだが伝えなければいけないような表情をした。
それだけではない、見ているだけのはずの三夫が疲れ汗も流していた。
トライブは何かを察した
「さっきから君の身体にも魔力を感じる」
「いや、それは終わってからにしよう。大将君の話の方が先だ」
と言い、トライブをマークは制した。
一旦話を戻しトライブは聞き返した。
「しかし彼は魔王ならば何故アダラング達と戦ってるんですか? 奴らの味方のはずでしょう」
「私もそれがなぜなのか確かめたい。しかし変に手を出せばもっと悪い事態になる、ここは様子を伺うんだ」
「アダラングとの戦いを見て様子を探るんですね」
トライブは納得した。
しかし、また三夫が予想外の事を言った。
しかも妙に落ち着いているところが皆を驚かせた。
「僕には、強大な力を大翔君が精神でコントロールしているように見えます。大翔君の体内を白と黒がひしめき合っているんです」
「それは魔力透視か? 何故君に」
再度マークは聞いた。
さすがの冷静なマークでも動揺せずにはいられなかった。大翔が何故ああなったのか戸惑う中三夫にも秘密がという立て続けの動揺だった。
一方アダラングはおかれた状況に焦り、珍しく汗を流した。
大翔達にそのような姿を見せるのは初めてかもしれない。
大翔が落ち着いた風な睨みでアダラングを見つめながら一定の歩幅で手をあまり大きく動かさず1歩1歩近づいていくと、アダラングの胸中に認めたくない恐怖が少しずつ増して行き、気がつかずじりじりと後ろに下がっていた。
アダラングの焦りは誰にも明らかだった。
(ここで引くわけにはいかない! しかし下手に攻撃すればさらに事態が悪化する……)
さらに大翔は歩を進めた。
いつも大振りな大翔の動作ではない。
[
動きには常に圧倒的威圧感が漂い無駄が全くなかった。
最小限の動きしかないのが人間ぽくない。
「確かに黒い魔力を感じます」
とまた三夫は言い、皆はつばを飲み込みながら成り行きを見守っている。
(三夫君、君には何か見えるのか? いや見えるだけでなくパワーも感じる)
大翔が呪文を発しようとしているのか指を指し腕を肘の高さまで上げた。
(ぐつ!)
アダラングは身構えた。大翔には何とも言えない精神的余裕が感じられた。
すると突如流れ星のごとく天から人間くらいの大きさの隕石が落ちてきてアダラングの近くの地面にめり込んだ。
これには1同騒然となった。
現象自体と大翔の魔力にである。
アダラングはまた焦った。
「ま、まさか! 隕石魔法だと! あれがあたっていたら……」
「さ、さっきまでと同じ場所にいると思えない、何が起こっているんだ……」
キッドは汗をかき緊迫した。
マークは努めて冷静に
「大翔君はどこか今の隕石を当てるつもりはなかったようだ。余裕の様なものを感じる」
大翔の1動作ごとの動きと使用した魔法が皆を緊迫させた。
アダラングにはもはや焦りしかなかった。しかし次の瞬間声が周囲に響いた。
「苦戦しているようだな。アダラング」
その声は空間一帯に響いた。
声の方向の上空を見ると、雷のような音と地震のような揺れとともに、空に穴が割れるように開きひずみとなった。
マークたちはありえないような現象に驚いた。
「何だあれは?」
そしてそのひずみはどんどんと大きくなって行き、人間が十分に出入り出来る大きさの穴となった。
そこから4つの光の弾が飛び出し地上に着地し人の姿となった。それはダンテ・モルグと3人の部下だった。
「ダンテ・モルグ様!」
「ふう、地上の空気はなかなかうまいな」
ダンテは余裕の笑みで手を後ろに組んでいた。
アダラングに怒っている様子はない。
「ダンテ・モルグ!」
スターマーク達も身構えた。
「ダンテ様、なぜここに?」
アダラングは不安そうだった。
「ふふ、あわてるな、君に文句を言いに来たのではない。あの小僧が伝説の魔王の生まれ変わりかこの目で確かめにきたのだよ」
何とも言えない余裕に満ちた顔をする。
「ダンテ様自ら?」
「まあそうだ。やるのはこの3人だが」
と言って後方の部下に目を向けた。
部下3人が前に出た。
1人は中肉中背、1人は小人、3人目は巨漢だった。彼らは腰から上までの鎧とマントを付けていた。
「ゴウク、チュウク、リドック、ダンテ様、ひょっとしてあの技を?」
「ああ、3人とも頼むぞ」
と言いダンテが指示をすると3人はかしこまった。
チュウクと言う男は銀の縁の赤い鎧でやや痩せており顔は長くこけていて髪型は非常に派手で上方に伸び散らかっていた。
リドックは体は小さいが顔は非常に太っていて上から押しつぶし頬が腫れたような腰の低そうな男だった。
ゴウクと言う男は魔法使いと思えぬすごい筋肉をした体つきで威圧感があり蒼い鎧を着ていた。
「あいつアダラングより偉い奴か? 部下も出てきた」
宮田は言った。
「いけ3人とも! あの小僧をかこめ!」
ダンテの指示で3人は空を飛んで飛び出し距離を5m近く取りながら大翔を囲むような配置で着地し三角形の様に位置した。
大翔はきょろきょろせず3人を見て様子を伺っている。
3人はにやにやし途端に
「行くぞ!」
と叫び光を横に出すとそれがバリアの様におたがいをつなげた。
「これで外とは遮断された! 食らえ!」
3人は大翔めがけ光線を同時に撃った。すると3人をつなげているバリアからも光が発せられ三角形全てが光となり大翔を攻撃し始めた。
「あの技は!」
驚くトライブにマークは続けた。
「うむ、前大戦であいつらが切り札の様に使った」
「これでやつが魔王かわかる」
とダンテは微笑んだ。
三角形は大翔を中に入れたまま激しい高熱を発し続けた。
「あの技は外界からじゃ防げない」
大翔は凄まじい光のエネルギーの攻撃に動かず耐え続けた。しかし本心はきついのか汗がにじみ出ていた。