激闘 それぞれの気持ち
今週などの内容を踏まえ「残酷な描写あり」のタグを加えました。
中島は回想後、再び意識を集中しスターマークに向き直った。
自分では気づいていないが、回想がすでに彼を苛立たせていた。
それを認めたくないかのように目を血走らせスターマークを攻撃しようと詠唱を始めた。
彼の指先と掌に美しく輝く、遠くから見れば宝石にも似た火のエレメントが現れ、大きさを増した。
ランプの中の火が自身の生命と存在を表すように燃え、なびく。
シャンデリアにともる灯が動き出すようだった。
そんな生命反応すら感じられた。
一方暖炉の火のような激しい感じもあった。
中島は手で火を練った。
それが彼の技術と熟練者の様な器用さを表していた。
「僕は天才なんだ! 東山たちのように利用されているんじゃない。期待を受けているんだ! これが、この炎の群が才能の証明だ、見ろ」
「ぬっ!」
マークが身構えると、炎をどんどんと大きくさせ、まさしく魔術で作り上げた火炎弾と言う形に練り上げた。
まるで小麦粉をこねるようである。
しかしマークには中島の目に悲しみが見えた。
その場にいるものの中でマークだけがそれを感じ取っているようだった。
(さっきまでの圧倒的な自信が少し無くなりやけになっている。気づいていないのか自分で)
中島は叫んだ
「火炎舞踏!」
その火は先ほどの火柱と同様に地面から立ち上るだけでなく、空中を舞う大きな火炎の群も1つ1つが東山のそれよりも大きい。
舞踏と言う名にふさわしく、踊るような軌道でうねっていた。
独特の軌道だった。
さしずめ攻撃用に使用される花火ショーである。
その火炎のうねり同士がひしめき合い、火の芸術の様な様式の美を作り出していた。
「これはさっきよりもすごい……」
感心したマークに中島は言った。
「感心している場合かな? 早く逃げるか降参しないと、轟音の火の中に包まれることになるよ。貴方もベテランの魔法使いだし、小学生に負けるのは悔しいだろう」
マークは表情を変えないようにした。
「確かに火の大きさはすごい、だが、相手を倒す効率性の面ではどうだ? 火の軌道が全て1点に集中しておらず、まるで花火のような見世物を見ているようにも見えるぞ」
「見世物だと? 舐めるな!」
中島は怒った。
火を全て一点にではないが、いくつか狙いを定めて合わせて撃ってきた。
それらは全てスターマークに襲いかかった。
今度は見た目より確かに相手を倒すための動きになっていた。
「これでどうだ」
マークは少し苦しんでいた。やや甘く見たことも反省した。
「ぬう」
(まだ甘いが、操る力はあるな)
マークは中島の力を認めながら高レベルの厚く範囲の広い防御壁で防いだ。
中島はまだひるんでいない。
「さすがは高位の魔法使いさん。バリアのレベルも高いようだね。だがまだ火は無数にあるんだ!」
さらに立て続けにマークに生命が宿ったような輝きとうねりを持った火が襲いかかってきたが何とか防いで見せた。
しかしスターマークの身体や服は熱で焦げていた。
(ん? これは?)
マークが何かに気づいた時キッドとトライブは傷を抱えながら来た。
「マークさん、僕も手助けします」
「僕も」
と言いトライブとキッドが助太刀に入ると中島は嘲笑った。
「はーっはっは、僕の様な子供に年上が3対1か? 恥ずかしいと思わないのか。僕ほどの相手ではそうするしかなかったんだろうが。まあいい、まとめて焼き殺してやるよ」
「都合のいい時だけ子供ぶるのか?」
「何だと! 僕は何も頼らず生きているんだ!」
明らかにマークに言われ感情的になっていた。
そしてまた回想を始めた。
(そうだ、僕は全てを失い、黒魔術に……)
1か月前、学校の帰り道に中島の横に不審な車が止まった。
そこから1人の男が血相を変え降りてきた。
「君のお父さんが病気で死にそうなんだ! 早く乗りなさい!」
そう言って中島は男について行ってしまった。
予想どうり、男は誘拐犯であった。中島はアジトに連れて行かれた。
しかし不思議な雰囲気の男でうさんくささと犯罪馴れしていないような小柄でやや太った馬と猿を合わせたような顔の男だった。
男は笑った。こんなに思い通りになるとは思わなかったからだ。
「くっくっく、今時こんな簡単に騙されるガキがいたとはな。貴様の大金持ちの父親をこれから脅迫する」
しかし中島は命が抜けた人形の様に言った。
「おじさん、僕はもうあの家の跡継ぎじゃなくなったんです。父は多分要求に答えません。見放されたんです。だからもういいんです。好きにしてください」
あまりに意外な告白に男は声がしばらく出なかった。
冷や汗もでた。
こんな冷静冷徹な子供がいるのかと。
しかし落ち着きを取り戻した。
「ふん、そんなのはでたらめだ。捨てられたなんてうそだろう。お前の親父はどうせ身代金を払う。見捨てるわけがないだろう」
「見捨てられてるんです」
「うそだな。ん?」
何と中島はナイフで手首を切り始めた。
「お、おい何やってるんだおい!」
さすがに男は慌て何とか中島を止めた。
中島は男に心を開くように切々と先日の話をした。
なぜ犯罪者にこんな話をするのか分からなかった。
やけだろうか、くやしさだろうか。
驚いた事に男は落ち着いて話を最後まで聞いた。
「そうか、お前親に見捨てられもう跡継ぎでなくなったのか」
「はい」
「どうしたいんだ」
「もう家を出たいです」
「そうか、じゃあここに行ったらどうだ?」
と言い男は名刺を差し出した。
「黒魔術学園?」
そして、中島は嘘のように解放された。もう男は中島の前に現れなかった。
少しして半信半疑で家を出て中島は黒魔術学園に入った。
そしてアダラング達の指導を受けた。アダラングは褒めた。
「すばらしい! 君のような才能を持った少年は何年ぶりだろう! ぜひこのまま学園で修行を積み、学園の未来に貢献してもらいたい」
ダンテ・モルグも言った
「私たちの手で君を捨てた親のいるような世界を作りかえるのだ」
何を思ってるのか分からない中島を気にしつつ、トライブは言った。
「彼、このままではやっつけるしかないのでは?」
さらにキッドも言った。
「僕も敵をやっつける主義でした。でも大翔と会って考えが変わったんです」
マークは中島の方を見たまま少し間を置いて答えた。
「うむ。どうも彼の目には迷いが見える」
キッドはマークの気持ちを察した。
「僕もスターマークさんたちが先の戦争でやったように、弱い人を助けたいです!」
「うむ、大事な事に気づいたようだね。君はこれから未来を担っていく役割がある。決してその事を忘れてはいかん」
その頃200mほど離れた場所で一馬はマヴロウに剣で何度も挑みかかった。
しかし弾き返された。
もはや汗だくで体力もなかった。
槍でまだ突かれていない為外傷はない。
しかし体力差のあるマヴロウに何度も切りかかり疲労痕杯だった。もはや満足に立つ力はない。
剣道の経験はあっても真剣勝負、大人の悪人と切りあった経験などもちろんない。
マヴロウはまるで汗をかかない人間の様に汗1つにじまなかった。
しかも彼の冷徹な目付きや口元、さらに金属の鎧が相まって一層彼の冷徹な威圧感を上げていた。
彼は一馬を明らかに見下している。
しかし笑みすら浮かべない点に彼の冷徹さが見える。
「ま、まだまけんぞ!」
と一馬は立ち上がろうとした。
しかしそんな一馬を大翔は心配そうに冷や汗を流しながらも、その一方で真剣に見据え、あえて手助けをしなかった。
一馬は立とうとしながら考えていた。脳裏には初めて大翔と100m走勝負し、ゴールした時の映像が映っていた。
(俺はあの時確かに大翔に勝った。しかし、何かすっきりしなかった。それから俺は大翔に2度勝ったけど「勝った気がしない」って言ったのは謙遜じゃない。すっきりしなくてもやもやしていたあの時。何かが……自分にお前に比べ足りないと思ってたんだ。だけど技術とかガッツとかじゃなく、なんていうか人間的に自分には足りないものがある。キッドさんたちの戦いを見ていてわかったような気がする)
一馬は何かを決意したように立ち上がってきた。
「だから、おれもそういう戦いを、生き方を、したい!」
マヴロウは冷たく言い放った。
「下らん。まだやる気か」
勿論一馬を同格の相手と見ていない。
しかしマヴロウは退魔の剣が何なのか少しだけ気になっていた。
それがマヴロウのほんの少しの不安で、一馬自身ではなかった。
マヴロウの言い方は一定して笑みはなく声が低かった。
彼には笑いさえ面倒くさかった。
こんな格下相手に、と。
「雑魚が。俺が遊んでやっているだけだとまだわからんか。何が「負けんぞ」だこの世間知らずのネズミが」
一馬は雑魚と言われてもそれを知っているかのように黙って聞いていた。
しかし嫌味には耐えても、体の疲労は隠せなかった。
汗を流し肩で息をした。
その疲れと緊張感、恐怖たるや、スポーツの試合どころではなかった。
その時退魔の剣がまばゆく光りだした。
「ぬっ!」
「これは!」
一馬も驚いた。
退魔の剣が青白く光りだしまるで一馬を引っ張り上げるようにそれ自体が力を持ち出しぼろぼろの一馬を立たせた。
「ん? どういう事だ?」
大翔は言った
「剣が一馬君を立たせた?」
「ま、まだだ!」
(あの剣が体力を回復させた? それともあいつの体から剣に力を与えているのか?)
叫びと共に一馬は切りかかった。
マヴロウは槍でブロックした。
しかしぎりぎりと音を立てた。
初めて2つの刃が「競る」形になった。
金属の火花が散り、一馬の目の火花も散った。
確かに剣が光り手ごたえと重さが増し、マヴロウはほんのすこしだけ押された。
一方一馬は全ての力をかけていた。
剣の太刀筋はどこか彼が剣に引っ張られているようだった。
そして剣の青白い光が増した。
剣がマヴロウの槍に食い込む。
傷をつけるまではいかなかったがその剣の圧は明らかに今までの物より重かった。
マヴロウは退魔の剣と一馬の力なのか良くわからない重さの増した太刀にほんのすこし怯んだ。
「ぬう?」
はねつけようとする槍を構えるマヴロウの両手や腰に力がこもった。
マヴロウは初めてほんの少しだけ押された気持ちになった。
しかし槍に力を込め剣と一馬を吹き飛ばした。
また一馬は倒れた。
しかし今度は少しだけマヴロウの心が動いた。
(あの剣、突然光を……あの剣に力があるのか、それとも小僧の力が入ったのか)
マヴロウは若干動揺しながらまた一馬を見下した。
「よくはわからんが、ほんの少し力が増しただけだ。ほんの少しだけな。ガキが1人の戦士である俺に勝てると思っているのか。本物の馬鹿か?」
一馬は力を振り絞り立ち上がりながら答えた。
「わかってる。俺みたいな何も出来ない子供があんたに勝てるわけがない。わかってるさ。それくらいは馬鹿な俺でも百も承知さ」
「ではなぜ戦う?」
「一馬君、もう降参しろ!」
大翔は言った。
しかし一馬は答えた。
「俺が1人であいつに勝たないとこっちは人数が足りないからだ。みんな1人ずつ戦ったじゃないか。だから無理でも勝たなきゃいけないんだ」
マヴロウはそれを聞いて言った。
「おれが手を抜いている事も知らずでか」
「わかってるさ」
その瞬間、マヴロウの槍が一馬の足を貫いた。
「一馬君!」
一馬は倒れた。大翔の叫びがむなしく響いた。
ついにマヴロウも抑えたいらいらが限界に来たのか顔が紅くなった。
「心の広い俺でもいい加減いらいらしてきた。ガキだから手を抜いてやったのに性懲りもなく俺に勝つ、とは」
しかし一馬は痛みを必死でこらえ、激しく苦しい形相で剣を支えに立ちあがった。
剣に力を込めると光が最大限になった。
「ほう!」
「俺の力全てを込める!」
と言い、傷ついた足で跳躍し一馬は飛びかかった。
その気持ちを打ち砕くように次の瞬間マヴロウの槍が一馬の腹に刺さった。
「一馬君!」
大翔は絶叫した。
一馬は今度こそ力なく倒れ落ちた。
「これが戦いだ。少しは分かったか」
マヴロウはあざ笑うと言うよりほんのすこしだけ一馬を認めたような言い方をした。
冷徹ではあるが。
マヴロウは一馬に槍から雷撃を発そうとした。
「しね!」
遂に雷撃が倒れた一馬に命中しそうになった時、大翔はかばって前に立ち雷撃を受けた。
大翔には傷1つなかった。
「走る少年大開戦 ~精神、発達障害者の小学生、魔法決戦に巻き込まれる~」が今日の投稿をもって10万字を超えることができました。3月上旬から始め、「偽られた死者」より長くなっていました。1話あたりの文字数が多いです。
ただ今回はあまり成功と言えない作品であると思います(ブクマ100件なんてはるか遠い)ちょっと迷走気味の作品になったと思います。
異世界転生などのテンプレは外してしまっていることもそうですが、PVに一喜一憂し路線をその度大きく変更し、まとめるのが難しくなったと思います。
①大翔の学校生活→②転校→③魔法決戦、と最初の路線からめまぐるしく話が移り変わっていく中で、大翔がまず空気読めない設定が段々なくなり、逆に魔法を学ぶ話になりました。で学校にどうなじんでいくかの話だったのが、「それだと自分のことだけでの完結」になるためもあり人を助けて行く筋、設定になりスポ根路線から魔法対決路線になりましたが、ここでも「魔法の設定」「世界観」「悪役の設定」などが今1つかみ合い切らない作品になってしまいました。魔法は結構制限がないチート的な設定であるため、また使われる事が多い媒体であるため、さらに細かく練る必要はあったですし悪役や世界の成り立ちも練りこみ不足でした。
後大翔は運動神経抜群なのですがもちろん魔法は使えず、1つずつ覚えていくわけですが、本来魔法は付け焼刃では身につかないものであり、少し覚えたからと言って実践レベルで使いこなせるわけではないので活躍が難しくなってきますが、ここですごい天才のように書いて最初から大活躍という風にできるだけしたくなかったのですが、逆に即戦力にならず生かすのが難しい主人公になり、で今回のラストで稲妻を受け止める描写がありますがこれはなんでかといいますと自決カードの爆発に巻き込まれて体内のマナが覚醒して無敵になったんです(今回は説明してません)なのでこれからは少し無敵チートな感じにもなります。今まで主人公としては影薄かったですし。
もともと「学校生活」においては大翔はスポーツ万能で明るくガッツもあるためどこへ行っても適応力は高いのです。このため、複雑な物語にしたとしても解決、克服するのが早く、なんとなしに世間になじめてしまう人なのです。
そのため学校の話にあまりかきがいがなくなり魔法使いとの戦いになり彼のもう1つの長所として人を救おうとする部分を強く出していくことになりました。
ただ黒魔術学園は罪があまりない人を利用して戦わせてばかりで少し組織的強さがなかったし、キャラの性格や能力ももっと考えたかったですね。