トライブの問いかけ 飯塚の生きる意味
トライブと飯塚は戦うため中央に移動した。
そして2人は向き合い立った。
他の人間達は離れた
「猫背だと、肝臓によくないぞ?」
とトライブは笑いかけた。
中島は煽った。
「ふん! あんたの内臓が吹っ飛ぶんじゃないのか?」
トライブは目をつぶった余裕のまま表情を変えなかった。
聞き流し言い返さなかった。
そして少しの間の後、飯塚に突然聞いた。
今度は笑みはなく真顔だった。
「君は何のために戦う?」
突然の問いかけに飯塚はたじろいだ。
完全に不意を突かれた。
これは見ている他の人間にも意外だった。
しかし、トライブのその言い方は決してきつくなく優しかった。
ただ少し緊張を漂わせた
飯塚は強気に答えた。
しかし明らかに強がりが見える。
姿勢が前のめり気味だ。
「も、勿論黒魔術学園の栄光の為だ」
トライブは強さを上げ突っ込んだ。
相手の本音を引き出すためトーンを少し変えた。
「本当か? 言い方に自信がない感じだが」
それを見破っていたトライブと動揺が見える飯塚にいらついた中島は割って入るように叫んだ。
「ええい! 問答はやめてもらいたい。さっさとはじめるぞ!」
とても飯塚達と同じ年には見えない高慢さで中島は地団駄をふんだ。
まるでわがままな子供そのままだ。
無視していたがトライブは内心呆れていた。
「さあ、やれ、さっきも言ったがここはバリアが張り巡らされていて逃げ場はないぞ」
もはや何様のつもりかと言う雰囲気だったが、逆に皆は「あいつどれだけの力を」と思っていた。
そして飯塚はまるで恐れている事を隠すように、いや渋る事さえも隠すようにトライブに向き合い睨んだ。
「俺は黒魔術学園の生徒として、自分の意思であんたを倒す!」
トライブは言い返さなかった。
そして飯塚はカードを出した。
それは毒の壺の絵が描かれていた。
これ見よがしにトライブに絵を見せ詠唱した。
「毒噴霧!」
すると緑色の毒を帯びたと思われるミストがトライブに周辺から発生し覆うように襲いかかった。
しかしトライブは動じなかった。
「どうだ! 毒霧に襲われた気分は!」
と飯塚は勝ち誇るように叫んだがトライブはまるで意に介さず手で払いのけた。
トライブは冷静で少しの笑みを含ませた。
「残念だな。自分より高レベルの相手には毒は効かない事を知らないのか」
「まだだ!」
と飯塚が叫ぶと霧の中から牙をむいた巨大な毒蛇が空中から現れトライブに襲いかかった。
トライブは苦しんだ。
「くっ!」
「行け!」
飯塚が叫ぶと毒蛇はトライブの腕に巻きついた。
そしてトライブの手の甲にかみついた。牙がささり血が滴った。
「あっ!」
とキッド達は叫んだ。
「ぐぐっ!」
トライブは苦しんだ。
「よし! 噛みついたぞ! 毒が回るはずだ!」
飯塚は勝ち誇って見せた。
トライブは苦しみながら短剣を取り出し毒蛇の身体を刺した。
毒蛇は口を放し地面に落ちた。
しかし牙は確実にトライブの手をとらえていた。
「くくっ!」
トライブは痛かった。
飯塚は叫んだ。
「毒蛇はやられたがお前もだ!」
しかしそれを無視し意に介さない様に、冷静にトライブは傷口に手をあて治癒呪文を唱えた。
「毒消去!」
するとトライブの手から毒気が引いた。
「ぐっ! 治癒魔法も使えるのか!」
さすがに飯塚はたじろいだ。
しかし中島は言い放った。
「何をたじろいでいるまぬけ! さっさと次の攻撃に移れ!」
この暴言に一瞬飯塚は切れかかり中島の方をにらんだ。
すると中島は今度は冷酷さと威圧を混ぜた見下した目でにらみ言った。
貧乏ゆすりのように地団駄を踏んだ。
「なんだその目は? 今はどちらが立場が上かわかっていないな?」
「くっくくっ……」
飯塚は引くしかなかった。
その様子を見たマヴロウはアダラングに耳打ちした。
「アダラング様、あの小僧、少し図に乗りすぎでは?」
「ふふっ、やらせておけ」
飯塚はまたカードを出した。
そこには一角の獣が描かれ角から雷を出している。
すると飯塚の前にユニコーンが召喚された。
「一角獣の雷! 行け!」
トライブは激しい落雷をかわして見せた。
飯塚は悔しそうに叫んだ。
「もう1発行け!」
しかしこれもかわして見せた。
キッドは疑問に感じた。
「あのユニコーンは突進してこないんですか?」
「いやあれはあくまで固定した位置で雷を出す事しかできない、魔力が弱い物が使う召喚だ」
とマークは説明した。
マークの説明通りユニコーンは動かず角から雷を発した。
かなりのスピードだったがトライブはかわし続けた。まるで動きを読むようだった。
「な、なぜ当たらないんだ」
飯塚が言うとトライブはマントを翻し冷静に微笑んだ。
「君の心が読めるからだよ」
「何だって?」
「嘘だと思うならこれからテレパシーで話しかける」
トライブは飯塚に念の言葉を送った。
このやりとりは他の人間には聞こえなかった。
「君は何故黒魔術学園に忠誠を誓うんだ?」
「えっ?」
これがかなり飯塚の心理に響いた。
優しさの中に強さを織り交ぜ言った。
「君は本当に戦いたいのか? 戦わされて逆らえないだけじゃないのか?」
「そ、そんな事ない!」
明らかに強がりが見える。
さらにトライブは強さを上げ畳み掛ける。
「嘘をいうな。君の心は戸惑いと迷いで充満している。だから僕に攻撃が当たらないんだ」
「あの2人テレパシーで話してる」
とスターマークが言うとその言葉に中島が反応した。
「テレパシ-だと? 小賢しい真似を! おい飯塚!」
「は、はい!」
飯塚は我に返り反応した。
「いちいち相手の言う事に答えるな! 惑わされるな!」
さっきまで冷酷冷静だった中島が動揺しいらつき始めた。
しかし中島がうるさいため、トライブはテレパシーをやめ言葉で語りかけた。
「ただいいなりにされてるだけじゃないのか? 君達カードゲーム同好会は? いたずら半分でやった事が気づいたら取り返しがつかなくなった。だからやるしかない、そうじゃないか?」
「そんな事、ない!」
飯塚は必死に否定した。
突かれた図星を振り払い否定するように。
トライブはさらに強く言った。
その度事に強さを上げて言った。
「仲間があんな黒焦げの姿にされてもまだやめないのか!」
「うるさい! 一角獣! もっと雷撃を激しくしろ!」
その声はどこか怯えがあり焦りも感じられた。
稲妻はトライブに当たらなかった。
「ただ、なんとなく初めて後ろに下がれなくなっただけじゃないのか?」
「う、うるさい!」
「そんな中途半端な気持ちで勝てると思うか!」
トライブの怒りの調子が問いかけの度強くなり、それがだんだんと飯塚の心を圧迫した。
中島は言った。
「何をやっている。さっきから全然当たらないじゃないか。もし情けない負け方をしたら自決してもらうぞ」
さすがにこの言い方はトライブはかちんときて睨んで言った。
「随分とえらそうな口ぶりだな。同じ位の年のくせに」
「僕は能力も性格もそいつら腰抜けとは違う。選ばれて新しいリーダーになったんだ」
「ほう」
トライブは中島の言う事に全く動じなかった。
それにいらだったのか中島は命令調子を強くした。
「おい腰抜け! 僕にこき使われたくないならそいつを倒す位の意地を見せろ。」
「……」
「何とか答えろ!」
「僕だってさっきからやってる!」
中島の眉がぴくっとした。
まるで飼い犬に手を噛まれたような嫌な顔をした。
完全に見下している。
「口答えするのかい?」
「うっ?」
「君のような半端者が僕に勝てると思うかい?」
目は見下し、意地悪さと自信が混じった言い方と眼差しだった。それが飯塚に自信を無くさせた。
実は飯塚は中島の力を全て知らない。だからこそ不気味さがあった。
「うう……」
飯塚は過去を回想した。
同級生たちは自分たちの悪口を言い合っていた。
「カードゲーム同好会だって」
「根暗の趣味だろ」
飯塚は悔しかった。挌闘学校は体力のある生徒が多く、自分たちが変わった異端であり弱者として見られている事に。
そんな時に玉越は話しかけた。
「カノンって言う本物の魔法使いの弱みを握ったんだ。これで俺たちも魔法が使えるようになるかも」
「ほう、面白そうじゃん!」
「だろ? 世界を俺たちの思い通りに出来るかもしれないぞ」
飯塚は回想から覚めた。
そして馬鹿にされていた現実を振り切ろうと叫んだ。そこにはどこか悲しさがあった。
「僕は玉越や東山に誘われてカードゲーム同好会に入った。でもいつも流されているだけで皆を引っ張ろうとしなかった。でも、今は、僕だって! 決して流されて言いなりになってここにいるわけじゃないんだ! カノンを捕まえて黒魔術学園に入り、そこで強い力を手にして強者になるんだ! 中途半端は嫌だ!」
そしてカードを使わず指をトライブに向けた。
「ほう、黒印呪術で得た魔力を使う気か」
中島はにやりとした。
飯塚は叫んだ。熱くなっていた。
「うおおおお! 光弾をくらえ!」
それは初めて「自我」「力」を欲する叫びだった。
LV2の光弾を何発も連続でトライブに撃ってきた。
かなり速く、かわし切れずトライブは食った。
「そう、それでいいんだ、ねえマヴロウ様」
にやりとしながら中島は言った。
「そうだ、自分の意思で戦え。お前は黒魔術学園の戦士だ。」
さらに飯塚は闘志を燃やし鬼気迫る表情となった。
「うおお」
さらに激しく光弾を撃ってきた。
「彼も黒印の呪術に支配されているのか」
スターマークは言った。
しかし、トライブは何発も食ったが反撃してこなかった。
飯塚は疑問を感じた。
少し恐れも感じた。
指から汗が流れ出る。
「なぜ反撃してこない?」
と飯塚はあえて聞いた。
ガードした両手を顔から下げたトライブは言った。
「君を救いたいからだ。」
「ぼ、僕を?」
これはあまりに意外な言葉だった。
「そうだ。君達カードゲーム同好会はほんの少し魔が刺して悪の道に走っただけだ。今ならまだ戻れる。大翔もいったろう、人を奴隷のように無理に戦わせあまつさえ自決を強要するやつらの言う事等聞いて何が未来だ。」
「うう……」
「君に教える。黒魔術師たちはかつて僕達と国を巡って争ったんだ。そして子供を兵士にしたり卑劣な手段を多く使って勝とうとした。今の君を使うように」
「……」
「そして今度は地上に出て魔法は便利だと多くの人を騙し利用し勢力を拡大している。さらに僕達の仲間もあいつらにつかまっている。だから早く助けるため居場所を教えてくれ」
「え、ええ?」
トライブは優しく続けた。
「君は迷っている。迷っているのは良心が残っている証拠だ。だからもうやめろ。利用されるな」
「うう・・・」
またも中島は介入しさけんだ。
「何をためらっている! お前は中途半端な奴じゃないだろ自分で戦うって言ったんだろ! どうした違うのか? それとも玉越達の後を金魚の糞みたいに自分の考えもなくくっついているだけの奴か? え?」
「よ、弱虫?」
これもかなり飯塚の心に響いた。なぜならずっと隠してきた自分の弱い部分だったからだ。
「そうだ、東山はまだいい褒めてやる。最後まで戦ったからな。しかしお前は何だ? まさか他のやつらがやってるから断れなくて何となく戦ってるとでも言う気か?」
「うう!」
マヴロウは重く低い声で言った。
「中島、その辺にしておけ。だれが貴様に全権を委任すると言った?」
トライブは叫んだ。
「やめろ! 彼は弱虫じゃない! だから悩んでいるんだ?」
中島は少しマヴロウに怯えながら叫んだ。尻を叩かれているようでもある。
「うるさい。俺は自分の弱さを認められない奴は大嫌いなんだ。もし弱虫でないと言うなら命を懸けてそいつを倒せ!」
マヴロウが槍を突出し電波の様な物を飯塚に浴びせた。
すると苦しみと共に雄たけびを上げ始めた。
「何をしたんだ?」
「みればわかるだろう? 東山と同じように凶暴化してやったんだよ。こいつはどの道こうでもしなけりゃ使い道はなかった。こいつがただ流されているだけで自主性もないやつだって初めからわかってたんだ!」
「きさまら!」
ついに本気になってトライブは怒った。しかしマヴロウはそれを無視し打ち消すように言った。
「行け! 火の玉になってあいつに突撃しろ!」
飯塚は火柱に包まれた。
「いかん!」
トライブは飯塚に密着して火を消そうとした。
「ぐああ!」
マヴロウは冷徹に言った。
「馬鹿な奴だ! あいつも一緒に焦げる気か?」
飯塚は苦しみの中初めてトライブに心を開いた。
「あ、あつい、なぜ僕を助けてくれるの?」
「死なせたくないからに決まってるだろ!」
「なぜ?」
「なぜじゃない! それが当たり前なんだ! 人の命を利用ばかりするあいつらが異常なんだ」
トライブの言い方は必死だった。
そしてスターマークとキッドが呼びかけた。
「目を覚ませ!」
「覚えたての吹雪の呪文だ!」
「くっ! 横槍を!」
マヴロウはひるんだ。そして吹雪により火は消えた。
駆け寄るとトライブと飯塚は共に倒れていた。
マヴロウは冷徹に言った。
「せめて自爆をさせてやろうと思ったがそれも出来んか。役立たずが」
スターマークの堪忍袋の緒が切れた。
「貴様らは許さん。ここまで人の命をもて遊ぶとは」
しかし中島は冷酷に言った。
「そいつが中途半端で弱い人間だから利用されるんだよ。言っておくが僕は仲間を皆捨て石だなんて思ってない。誇りのある勇敢な人は尊敬するよ。でもそいつは違う。自分じゃ何もできないただの弱いゴミだ。中途半端な。」
しかしスターマークは怒り反論した。
「中途半端で弱いからこそ、人間は悩み苦しむんだ!」
中島は馬鹿にした。
「そんな弱い奴らがなんの役に立つってんだ」
「完全にその年で人の心を失ったようだな。なら私が思い起こさせてやる」
「面白いじゃん」
中島はにやりとした。