大翔の叫びと新しい仲間
「キシャアア!」
と小谷=オークは叫んだ。
声がけたたましく、悲しく廊下に響き、上の階にも伝わるようだった。
それは初めて人間らしい叫びを発したように大翔には聞こえた。
とても苦しいのが大翔には伝わり、思わずマークに言った。
「マークさん! やりすぎじゃ!」
マークは悩みながらかつ怒りをこめ切迫しながら答えた。
珍しく汗を流している。
マークの拳がぴくぴく小刻みに恐怖を感じたように震えていた。
実際は恐怖ではないのだが
マークの言いたい事が何となく伝わる。
マークは怒りと迷い、どうしていいかわからない中布を絞り出すように言った。
「わかっている。しかしあまり弱い魔法だと動きを止められん、それくらい凶暴化してしまっている」
大翔もその気持ちを汲んだ。
「くそ、アダラングの奴何てひどい事を!」
大翔は怒りに震えた。
しかしキッドは大翔に呼びかけた。
「君も僕たちに任せて早く逃げるんだ!」
「それは出来ない!」
と大翔は答えた。
しかしキッドも必死だった。
大翔を巻き込みたくない。けがさせたくない。
それは自分を魔方陣から呼び出したものへの従属の念だった。
主人だからこそ、守らねばならない。
必死な状況から声がかれていた。
大翔が断るであろう事はとっくに予期していた。
「早くしろ! でないと君に気を遣って強い魔法が撃てないんだ!」
上の階の教員達は騒いだ。
「1体何がどうなってるんだ!」
「先生早く警察を!」
「しかし信じてもらえるかわからない」
別の階で生徒の1人は言った。
「カードゲーム研究会がおかしな事ばかりやってるから呪いでカードやゲームから怪物が出てきたんだ!」
「あいつらいつもネクラ呼ばわりされてるからその仕返しに!」
生徒達は気が動転してすっかりカードゲーム研究会に恨みをぶつけていた。
ゆがんでいるとしか言いようがない。
その頃、スターマークがキッドに言った。
「キッド君! 確かに火の魔法は学校に燃え移る。ここは私が行く!」
スターマークはキッドを止め念を切った。
「気圧弾!」
指をさす構えで何発も気圧の弾を2匹に食らわせていった。
2匹とも先ほどの魔法で弱っているのでくらう度動きが鈍くなってきた。
しかし「うおお」と言う叫びと共に2匹の目付きはさらに凶暴になっていった。
「逆効果か?」
スターマークは後悔した。
しかし考えた末マークは説明する。
「痛みでさらに凶暴さが増している。追い詰められて悲鳴に近い叫び声を上げている。もしかしてチャンスかもしれん」
大翔は聞いた。
「チャンスって?」
「ここで倒すか、人間にもしもだが戻れるか?」
「えっ? 戻る方法があるんですか?」
「うむ、先ほどまでは手を付けられなかったが、痛みを感じる事で表情が大きく変わった。助けてくれと必死に痛みの中人間性を取り戻そうとしているんだ。痛い、と感じるのは人間の感情でもある。彼らが人間の感情を取り戻しかけた所を狙って呼びかけるんだ」
「それじゃあ、元に戻せるんですか?」
大翔の顔に希望が出てきた。
「わからん、危険な賭けだ。彼らの体力を最低レベルぎりぎりまで落として弱った所を説得するんだ」
スターマークは「簡単な事ではないが」と付け加えるのを忘れなかった。
スターマークは心なしか普段と言葉使いが変わっていた。
スターマークは汗を飛び散らせ印を切り魔法を再度放った。
「真空の刃!」
スターマークの放った刃がオークに再度体の数ヶ所に当り切り裂かれ血を流した。
「ううっ、痛そうだ」
大翔は痛がる姿を見てつらく感じた。
さらにキッドも火はやめ光弾でサイクロプス=玉越を攻撃した。
これも効いている。
しかしキッドは罪の意識と手加減の難しさで手が震えていた。
それはもう少しで相手の命を奪いそうでぎりぎり慎重にコントロールしているためだった。
「あと2発、いや1発で命が危ないと思う」
「ええっ!」
キッドが説明すると大翔は怯えた。
スターマークは再度説明した。
「あと1発力を抑えた1撃を食らわせ、ぎりぎり弱ったら説得する」
「はあああ」
スターマークとキッドは精神を集中しだした。
「相手の残り体力を精神集中して計算しぎりぎりの攻撃をするんだ」
キッドとマークは距離を取り詠唱を始めた。
しかしその隙に大翔と番取が襲われそうになった。
しかし2人は怪物にそれぞれしがみつき叫んだ。
「今だ!」
キッドとマークはそれぞれ2匹に向けて弱めに調整した呪文を放った。
これが命中し2匹はひん死の状態になった。
「今だ! 大翔君! 呼び掛けろ!」
大翔は渾身の叫びで呼びかけた。
「玉越君! 小谷君! 元に戻るんだ!」
「玉越! 小谷!」
大翔と番取は呼びかけた。
すると完全に怪物に変わっていた腕と顔がぐらぐらと元に戻り始めた。
「おお!」
「頑張れもう少しだ!」
「ウウ、真崎君……」
2匹は動きが鈍り、狂暴性が落ちてきた。
さらに少しずつ人間の言葉を話せるようになってきた。
「うう、マサキクン……」
しかし2人は、元に戻りたくても術に逆らう体力と精神力がもう残っていない様だった。
ついに玉越ははっきり人間の言葉で話した。
「僕はもう駄目だ……僕を元に戻そうとしてくれて、ありがとう……」
「何を言ってるんだ! まだだ頑張れ!」
「頑張れ!」
大翔と番取は呼びかけた。
さらに腕の上部まで、顔も半分まで元に戻ってきた。
「頑張れ!」
しかし2匹はもう限界だった。
顔と腕が半身だけ元に戻った状態で2匹は倒れた。大翔はかけよった。周囲に血が溢れていた。
返り血をつけながら大翔は玉越を抱き上げようとした。
「しっかりしろ! 病院に連れて行く!」
番取は言った。
「いや、病院に連れてっても怪物の姿じゃ医者たちが逃げるぞ!」
「あっそうか!」
マークは言った。
「我々は怪我を治す呪文は持っていないんだ」
「出血がひどい」
「そ、そんな、せっかく元に戻りかけたのにひどすぎる! こんなことは許さない、僕が何とか手当てして助けるんだ!」
「落ち着け」
キッドは止めた。
そこへ後ろから声が聞こえた。
「私が治癒魔法をかけましょう」
そこにいたのは20歳位のすらりとした外見でタキシードを来た魔法使いの様な雰囲気の青年だった。
「遅れてすみません」