学校内の死闘
大翔は悲しみと共に強い調子で言った。
目に力をこめ拳を握った。
そこには決意があった。
「彼らカードゲーム同好会を助けたい、本当に悪い人達じゃないから」
そこには思いやりと哀れみ、アダラングへの怒りもあった。
いつもののんびりした感じがない。
それは人の命や心をゆがめる相手に出会って生まれた気持ちだった。
また利用されたカードゲーム同好会への情けの気持ちだった。
「人をあんなふうに操るなんて許せない! 命をなんだと思ってるんだ!」
キッドはその気持ちを汲んだ。
「大翔がこんなに怒るの初めて見たかな。うん僕もだ。ただ彼らのせいでカノンが捕まったのは事実だから少しはお灸をすえないと駄目だけどな」
キッドの考えには大翔と少し違いがあった。
大翔は聞いた。
「彼ら今後どうするんだろう。学校で魔法を使って僕たちを襲う気だろうか」
キッドは推察した。
「今まで襲いかかってきた時も卑怯な手口使ったからな。多分また不意打ちで来るんじゃないかな。一番嫌なのは学校とかで誰かを襲ったりして人質にしたり、混乱に乗じて我々を襲うかもしれない。学校の人たちが巻き込まれてしまう」
スターマークは少し楽観的に言った。
「まあ、小学生の考える作戦だからね。知れているといえば知れているが、子どもには卑劣さや残虐さもある」
番取は説明した。
「玉越とかあいつら学校で喧嘩なんかした事ないですよ。なんかいつもはじっこにいて、言いすぎだけど気が弱くて正面から戦えるとは思えないです。あと学校で魔法を使ったらキッドさんたちの正体ばれちゃうじゃないですか」
スターマークは疑問を投げ掛けた。
「追い詰められたものは腹をくくって正々堂々挑むのが良くある話だ。だが彼らはどうか。番取君の話ではおとなしい印象だが。弱いままか弱いものががむしゃらになるかどちらか」
キッドは答えた。
「何て言うか彼ら卑屈で正面勝負してくる度量とかあまりなさそうなんですよね」
大翔はそれでもカードゲーム同好会を救いたい気持ちを前に出した。
「でも僕は転校してきたばかりで彼らの事を何も知らないけど、彼らの事を救いたい。ちょっと魔が刺して悪い事をするようになってしまっただけで、本当は悪い人達じゃないと思う」
スターマークは答えた。度量を感じさせる意見だった。
「そうだね、そういう人達に付け込むのがアダラングの手口だろう。最初は甘い言葉で近づき、やがて黒魔術の恐ろしさを教え気づけば逆らえず配下になっている」
さらに大翔は強い調子で続ける。
「僕はそういうたぶらかされたり騙された人たちを救いたい。キッド君たちが魔法を広めようとしているのも良い事に使うためなんでしょ」
キッドは答えた。
「うん、僕だって魔法の事で悪人にたぶらかされている人たちを救いたい。でもカノンの居場所や黒魔術学園がどこにあるかやっぱりまだわからないんですか」
キッドは「気持ちはわかるが、少し考えが違う」と言う感じだった。しかし内心、彼らの事なんか知るか、カノンの事が優先だと言う気持ちもあった。少し大翔は人が良すぎないかとも思っていた。
「うん、アダラングから聞き出すのが最善の策だったが」
とスターマークは答えた。
番取は
「ありがとう大翔、魔法使いさんたちにも迷惑かけました」
「いや、迷惑じゃないよ」
とキッドは笑顔で答えた。
さらに大翔に言った。
「あっ! ところで、三夫君の描いた魔法陣になぜ本当に魔法使いを呼び出す力があったのかまだ調査も解明も出来ていないんだ。三夫君とは連絡取ったの?」
「ううん、取ってない」
「大翔の特訓も続きをしたいが時間がない」
その頃三夫は部屋の窓を開け空を眺めた。
「大翔君、今頃空をほうきで飛んだりしてるんだろうか。平和ならいいけど。キッドの仲間探しの件どうなったのかなあ。でも僕の描いた魔法陣に何故あんな力があるんだろう。あの本を読んで書けば誰でも出来るわけじゃなさそうだし。僕が魔法使い、そんな事ないか」
翌日大翔は玉越に声をかけた。
「玉越君、大丈夫かい?」
「えっ?」
玉越はかなり怯えた。それは声をかけられたからか別の物に怯えているのかわからない。
「アダラング達に脅されてるのかい? まだ部活には行ってるの?」
「そ、それは……」
「打ち明けてくれ。僕たちは君の味方だ」
玉越は震えながら勇気を振り絞った。
「ぼ、僕は、悪い事はもうしたくない。アダラングが怖い……カノン君にもひどい事をした」
「や、やっぱり」
「僕たちは学校で目立たない。だから集まってカードゲームをしている時が楽しかった。でももういい」
「そうなんだ……」
「でも僕はカノン君の居場所はしらない! これは本当だ!」
大翔は玉越の言い分を信じた。
「打ち明けてくれてありがとう、カードゲーム同好会はみな反省してるんだね」
「それはわからない、1人1人考えが違う部分が……これ以上は言えない!」
「あっ!」
と言って駆け出してしまった。
大翔たち1行はカードゲーム同好会の部室に行った。
扉に「活動休止中」と看板が貼ってある。大翔達は中へ入った。
「何か陰気くさいなあ」
「呪いの魔術とかやってそうな雰囲気」
4人は奥まで探したが誰もいない。
「あっここ!」
奥にはテーブルがあり、その上に地図と果たし状があった。
そこには「真崎大翔へ。〇月〇日の〇時に裏山のこの場所にこい。お前たちと最後の勝負だ。お前たちが勝ったらカノンの居場所を教えてやる。カードゲーム同好会」
と書いてあった。
「果たし状?」
「我々と直接、正面勝負するきか?」
マークはそう受け止めたがキッドは
「罠かもしれない」
と答えた。
またマークは言う。
「アダラングが書いた可能性もある」
アダラングは黒魔術学園の秘密の場所でカードゲーム同好会を集めていた。
「東山」
「は、はい……!」
部員の1人、東山はアダラングに呼ばれ震えて気をつけ、をした。ガチガチになった。
「わかっているな? 負けたら人間には戻れなくなるぞ」
「ひっ!」
声と脅しの内容がさらに東山の顔を青くした。汗が流れ出た。
東山の腕の印から黒い煙が出た。
「ああ!」
東山は絶望した声を出した。
そして東山の右腕が獣のそれに変化しかかった。
「ひいい!」
東山は獣になりかけた手を見て逆らえば、負ければどうなるかはっきりわかり心から震えた。
「今度負ければお前たちは人間でなくなる」
「は、はははい」
他の生徒も完全に怯えきり震えあがった。
アダラングは視点を変えた。
「玉越、小谷」
「は、はい?」
突然質問され、彼ら2人は悪い所を見透かされた気になった。
「お前たちは裏切る気でいるな」
「えっ!?」
胸を刺される気分だった。
「嘘をつけ。お前たちはキッド達の情がうつりこんな事はしたくないと思っているだろう。お前達2人にはもう用はない」
「うわ!」
まるで胸をつかれ、ついた物が生気を奪ったようだった。
2人の腕から煙が出だした。
「今から暴れてこい!」
アダラングは仲間に報告に行った。
そこには不気味な姿の黒魔術師達が何人もいた。
アダラングは言った。
「キッドとか言う小僧の始末に君たち優秀な魔法使いの手はいらない。あの捨て石どもで十分だ」
「使えないやつは使い捨てると言う事ですな」
「そう言う事だ。ははは」
アダラングは仲間の黒魔術師達と笑った。
その後再度アダラングはカノンが捕まっている所に行った。
アダラングはカノンを見てあざわらった。
「ふっ、お前からもらった魔力やカードでお前の仲間キッドやマークは死ぬ。お前のおかげだよ。ありがとう」
「黙れ! キッドはお前たちなんかに!」
「うるさい」
と言ってカノンの頬をたたいた。
その後学校で騒ぎが起きた。まるで火事のようだ。
「大変だ!」
「どうしたの?」
「カードゲーム同好会の部室の方から人間じゃない怪物が現れたんだ!」
「え?」
驚いた大翔とキッドは部室に向かった。
そこには豚の獣人と1つ目の大男が確かに暴れまわっていた。
「これは夢だ!」
と叫びながら生徒は逃げた。
キッドは叫んだ
「オークとサイクロプスだ! もしかしてアダラングが呼びよせたのか?」
しかしスターマークは言った。
「あれは召喚したのでも魔界から呼んだのでもない、玉越君たち2人が変えられた姿だ!」
大翔は驚いた。
「何だって! じゃあ元に戻さないと!」
大翔は離れた場所から大声で呼びかけた
「おーい! 玉越君! 小谷君! 目を覚ませ!」
しかし2体の怪物は吠えるだけで反応はない、さらに狂暴さを増したようだ。
さらに大翔は2人に呼びかけた。
「おーい! 玉越君! 小谷君やめるんだ! 正気に戻るんだ! 君達は人間なんだ!」
さらに2匹が迫ってくるが大翔は動かず呼びかけ続けた。
「やめるんだ2人とも! 人間に戻るんだ! 僕は君たちを助けたい!」
しかし無情にもついに迫ってきた玉越は腕で大翔を殴り爪で切り裂きかかった。
叫びと共に大翔は吹っ飛ばされた。しかしまだ気は失っていない。何とかふらふらながら大翔は立ち上がった。
「や、やめるんだ!」
と叫んだが反応はない。
そして遂にもう1発のパンチが来た時、番取がかばって殴られた。
「番取君!」
「助けてもらったお返しだ」
番取が殴られ、大翔の怒りと悲しみは深くなった。
「何でこんな事をするんだ! 人間じゃなくなったって言うのか!」
「おーい!」
キッド達はほうきをとってきた。
「大翔、もう無理だ! 魔法の印で操られてる。呼びかけても無理だ!」
「じゃあ!」
「申し訳ないがやっつけるしかない! 学校にも犠牲者が出てしまう!」
「そんな!」
大翔は番取を背負い立ち上がった。
「僕はあきらめない! 必ずあの2人を!」
「いいから早く逃げろ! 停止呪文!」
キッドは相手の動きを停止させる魔法で2人の動きを止めた。
「君は番取君と一緒にマークさんのほうきに乗って逃げろ」
「キッド君はどうするの?」
「まだ確定じゃないが、やっつけるかも」
言いたくはないがキッドも必死だった。
大翔はマークに聞いた。
「そんな、マークさん何か手はないんですか?」
「アダラングのあの印は契約の儀式によってつけられた。だから解除の儀式をしない限り呪いは解けん」
「そ、そんな……僕は何て力が無いんだ。今まで色々な人に力を借りたのに、誰も助けられない……」
大翔は自分の手を見つめうちひしがれた。
キッドも必死だった。
「うぐぐ……動きを止めてられるのももう少しです。早く避難を! 大翔! 君は他の人を避難させたりする役割だってあるんだ!何も出来ないわけじゃない。早くみんなと避難するんだ!」
「い、いやだーっ!」
大翔は玉越に飛びかかりつかみかかった。
「やめるんだ玉越君! 手遅れになるぞ!」
「うう……」
「おお! 少しだけ反応が!」
しかし大翔は吹っ飛ばされた。
「危ない!」
襲いかかろうとした怪物にキッドが魔法を放った。
「火球だ!」
その火球は玉越に命中した。玉越の背中が燃え始めた。苦しみ叫んだ。
スターマークは叫んだ。
「キッド君! 学校の中で火は!」
「これしかない……!」
「うおお!」
大翔はシャツを玉越にふっかけ火を消そうとした。
「消えろ! 消えろ!」
「危ないもう1匹が!」
その瞬間マークは真空の魔法を小谷に撃った。
小谷は真空の刃で傷つき苦しんだ。