追い詰められたカードゲーム同好会
大翔は力を使い果たし倒れていた。
放出してしまったようだ。
意識は戻っていた。
「大翔、大丈夫か?」
キッドは呼びかけた。
「うーん」
かろうじて話す事が出来る大翔にキッドは声をかけた。
スターマークは言った。
「早く病院に連れて行こう。番取君も」
2人は大翔をほうきにのせ、近くの病院に連れて行って休ませた。
とりあえずと言うのもあれだが内科に行く事にした。
医者は「怪我は軽度です」と言い、少し休むことになった。
医者は「けがのみでなく体内から血液を流すように何かの力を放出してしまっている」と現代医学ではわからない様な事を言った。
魔力やマナの事など医者にわかるはずもない。
ベッドですっかり力をなくした大翔にスターマークは詫びた。
「すまない、私たちが未熟ゆえ君を大きく傷つけてしまった。本来あの魔法は魔法を行使できない者に肉弾戦で戦わせるための捨て身の術だ。相当な大きな負担がかかる」
「い、いえ」
と大翔は疲れから珍しく反応が少なかった。
その様子を汲んで一旦病室を離れキッドは言った。
「しかし、あいつのバリアをはねのけるとは。それは大翔の体内に魔力がそれだけ多くあると言う事でしょうか」
「ああ、私もまさかここまでとは思わなかった。相当な魔力を体に秘めている。事実訓練でその片鱗も見せていたが、大分体に無理がかかってしまった。しかしバリアに体当たりして押し退けようとするとは、驚いたな。非常に精神論に偏った戦い方だ。捨て身の行動だ」
スターマークは罪の意識と共に大翔の強さを褒め、関心した。
それにキッドは喜びも含めて答えた。
「彼の持ち味であるガッツと根性の戦法です。相撲を最近やってるので相撲のようにぶつかる。押し退けようと踏ん張る。まさに相撲ですね」
「我々細身の魔法使いにはない戦い方だな。しかし、彼は体内にすごい魔力を持っているようだ。1度調べてみたいな」
「ええ、今度魔法使いの病院に連れて行って検査をし魔法力や「マナ」の量を調べるんです」
話は続き、キッドは質問した。
「アダラングは撤退して今後どうするでしょうか」
「うむ、本来、黒魔術は自分たちの事を知られない内に信者を増やそうとしていたが、我々に知られてしまった。だから口封じに狙ってくるだろう、勿論大翔君も」
「カノンを早く助けなければ」
「ああ、中々情報がつかめんのが何だがな」
その頃アダラングは手負いの身で学園に戻り校長室でダンテに報告した。
「戻ったか、アダラング」
「申し訳ございません。魔法使いどもを仕留めそこないました」
ダンテは怒りを押し殺したような顔をしている。
相手の力が分からなかったためアダラングの全てを責めているわけではないが、やはりねぎらうより負けた理由を聞きたいと言う雰囲気だ。
ダンテは聞いた。
「で、相手の魔法力が上回っていたと言う事か」
アダラングは平身低頭だった。
「いえ、ロッド・キッドとスターマークの二人は私より下ですが、おかしな小僧に手傷を負わされました」
「ほう」
ダンテは興味を示し顎をさすって見せた。
「その小僧は魔法使いではないのに強い魔力を持っています」
「ふふ、どうやら面白い人間がいるようだな。何故か興味がわく。魔法使いでないのに君に手傷を負わせようとした点で」
ダンテは微妙な微笑みを浮かべた。
アダラングは釘を刺した。
「彼らは魔法の特訓をしています。すぐではなくとも大翔と呼ばれる小僧がいずれ力をつけ敵になる可能性はあります」
「よし、小僧の事を調べろ」
その日アダラングは変装し突如、カードゲーム同好会の部室に入ってきた。
あまりに突然の訪問に部員たちに緊張が走る。
「よ、ようこそ、アダラング様」
「集まってもらったのは他でもない。お前たちを使ってあの魔法使いたちを倒す。ん? どうした?」
異質な雰囲気をアダラングは察したが、部員の1人は恐る恐る答えた。
「段々自分たちのやってる事が怖くなって」
震えている部員にアダラングは釘を刺した。
「今さら抜けられると思うか。あの印は私がかけた呪いだ。裏切ればお前たちを魔物に変える」
「ひっ!」
部員たちは腕の印を見て恐れ、青ざめた。
印から黒い煙がでて手が魔物の手に変わりそうになった。
それは服従の恐怖を喚起するに十分すぎる威力があった。
「わかりました! 許して下さい!」
「僕達は黒魔術学園の生徒です! 忠誠を誓います!」
アダラングは部員たちが言う事を聞き顔をおだやかにして笑った。
もちろん優しさや思いやりではない。
「わかったようだね」と言う感じである。
完全に怯えた彼らが逃げられず観念したのを知ってあざわらった。
「やっとわかったか、まあいい。私は今怪我をしてな、あまり動けない、お前たちだけで倒してこい」
アダラングは本題に入ったが人数が足りないのに気づいた。
「ではこれから魔法使いたちに攻撃をしかける。ん? 玉越と小谷はどうした?」
「あ、あいつら最近来ないんです」
部員達は恐る恐る言った。
再びアダラングはダンテの所に行った。
「あの小僧たちに目いっぱい脅しとプレッシャーをかけておきました。これで彼らは身を削ってでも戦うでしょう」
「あんな小僧たちが役に立つのか? もっと強い人間を付けても良いが」
アダラングはカードゲーム同好会の扱いをよく知っているとダンテに説明した。
「お言葉ですが、あいつらは小学生の姿であるため何かと動きやすいのです。もちろんあの魔法使いをだます事も。またいわゆるあいつらをこき使う事で他の部下の疲労を減らせます」
「なるほど。ところであの魔法使いたちはもうそろそろカノンを探しに急ぐはずだ。捕まえた魔法使いの様子を見に来てくれんか?」
アダラングは学園を離れ作業場と呼ばれる所に行った。
そこは土木工事に従事させられていた人々がいたが、カノンや捕まった魔法使いたちが宙づりにされていた。
カノンは憔悴しきっていた。アダラングはカノンの顔を掴み言った。
「生きてるか? まだ魔力をお前からいただかんとな。またお前の仲間、キッド達も始末する」
「何? よせ!」
憔悴したカノンは答えた。アダラングはあざわらった。
次の日けがから復帰した大翔はキッド、スターマークと裏山で魔法特訓をしていた。
「魔力メーターの数値があがっている」
「よし、指先に魔力を集中して!」
「うう!」
大翔は指導どうり体内の力が指先に集まるよう集中した。
「もう少し、がんばれ!」
「うう!」
大翔の指先がほんのりと光りはじめた。
「もう少しだ! これがクリアできれば光弾の1番弱いものが使えるようになる」
「えい!」
「あ、少しだけ出た!」
「いや光だけだ。物質が出てない。じゃあ次はこの前からの防御の練習だ」
次の日学校では噂が流れていた。
「カードゲーム同好会がイベントやら新入部員の勧誘やらをしているらしい」
大翔は不穏な空気を感じ、キッドに相談した。
「うーん、今度部室に行こう」
そこへスターマークから連絡が入った。
「また魔法界から調査員がくるらしい、戦いが激しくなってきたため新たにくるらしい」
「新しい仲間がですか?」
「うん、黒魔術が手強い事やカノン君救出には待っていられないからだ」
大翔とキッドは玉越と小谷に声をかけた。
「玉越君、小谷君、カードゲーム同好会には行ってるのかい?」
「い、行ったり行かなかったり」
明らかに2人は下を向き顔も生気がなく怯えていた。
キッドは諭した。
「もう抜けた方がいい」
下を向いている玉越は即答出来なかった。
「でも……怖いよ……裏切るの」
玉越は震えた体で絞り出すように言った。
さらに2人の怯えが激しくなった。
しかしキッドは励ます意味でも言った。
「でもあいつらと一緒にいたらもっと危ないよ。僕たちも早くカノンを助けなければならないんだ協力してくれ」
小谷は間をおいて、つばを飲んでから答えた。
「うん、僕も悪い事はしたくない」
「それじゃ!」
説得は成功しそうだった。
玉越と小谷は顔を見合せてから意を決して言った。
「わかった」
確かに目に力があった。キッドは嬉しくなった。
「協力してくれるの?」
すると突然2人の印から黒い炎が出た。
「アダラングか」
「うわ! モンスターの姿に変えられる!」
そこへアダラングの声が玉越の心に響いた。
「忘れたか! 裏切ったものは死に価する恐怖があると」
「うわあああ!」
玉越と小谷は、一旦人間に戻れたが、逃げ出しカードゲーム同好会の部室に行った。
さすがに他の部員たちは2人を責めた。
「何だよ二人とも、裏切ったんじゃなかったのか!」
2人は思わず本心でない事を言った。しかし追い詰められた恐怖はあった。
「裏切らない!」
嘘ではあっても命が惜しい気持ちが少しあった。
完全に保身からである。
しかし部員達は玉越の言い分を信じた。
玉越の表情からは恐怖しか感じなかったからである。
「よし、じゃあ今から全員で魔法使いを倒すぞ」
しかし玉越は即答せず間をおき、震えた体で勇気を出した。そして叫んだ
「やっぱりやめようこんな事!」
沈黙が起きた。
「まさか彼にそんな勇気があったとは」とみな感じていた。
しかしその後、この言葉が部員達の暗く静かな怒りを呼んだ。
「やっぱり裏切る気か……」
突然部員達の目が細く声も暗くなった。
部員達の目が完全におかしくなっていた。
玉越と小谷は尋常でない雰囲気に怯えた。これはかつて感じた事のない雰囲気だ。
まるで裏切れば殺す、裏切者は殺せと呪いをかけられたような顔をみなしていた。
「黒魔術学園を裏切る気だな」
「忠誠を誓ったんじゃないのか」
まるでおかしな宗教団体のように部員はみな洗脳されているようだった。
しかし、玉越は怯えながらも声を振り絞った。
手を震わせながら異様な雰囲気に対抗した。
「やめようこんな事! 必ず後悔する! 悪い事はしちゃだめだ!」
しかし部員達は聞く耳をもたないロボットのように反応した。
感情のない操り人形の様だった。
「裏切り者は殺す!」
部員の1人がナイフを投げ、玉越の横の壁に刺さった。
小谷は危機にどうしようかと汗を流している。
そこへキッドと大翔が入ってきたが、部員たちは不意打ちで炎を出そうとした。
部屋から火の玉がでてきた。
「うわっ!」
大翔はのけぞり、キッドは叫び忠告した。
「やめろ! 学校で魔法を使うのだけは!」
「うるさい! 俺達にはもう後がないんだ!」
「大丈夫だ僕たちが守る!」
キッドは必ず助けると説得しようとした。
しかし部員たちは収まらない。
「捨て身の覚悟なんだ」
「そうだ、魂も体も黒魔術に売ったんだ」
「場所を改めよう! 学校以外で別の日になっ!」
なんとかキッドは話を付けた。
「〇月〇日に!」
アダラングは嘲笑っていた。
「捨て身の行動をとらせればあいつらはまだ使える」
大翔は離れて言った。
「結局戦う事になっちゃった」
キッドは言った。
「彼らは本当は戦いたくない、怯えてるんだ」
大翔は同意した。
「うん、だから必ず助ける」