大翔の魔法特訓
「僕も戦えるようになりたい!」
かなり目に力をこめ、大翔はキッドに頼んだ。
「うーん」
キッドはさすがに戸惑った。ついに言われたくないことを言われたようだった。
反応はちがうがスターマークも同様の気持ちだった。
キッドは気持ちを測りつつも心配を優先して答えた。
「気持ちはわかるけどやっぱり危険だから、やめておいた方がいいよ、いややめるべきだ」
「だけど!」
逆らう大翔にキッドはなだめるように言った。
「協力してくれるのすごくうれしい、でも魔法は普通の人の手におえる力じゃないんだ。これ以上何かあったら最悪命に関わる」
しかし大翔は引きさがるどころかさらに熱くなった。
実はいざというとき熱くなるのもアスペルガーの特性である。
勢いでまくしたてた。
「僕は自分からカノン君を探すのを手伝うと言ったんだ! ちょっと怖い目にあったからやめるなんてやだし、何よりキッド君が友達だから助けたいんだ」
キッドはいつになく熱い大翔に戸惑ったが退くわけにいかなかった。
「そう言ってくれてうれしい。だけど心配だから言ってるんだ」
大翔はすこしだけ調子を落としながらもなお食いさがった。
「でもまだ能力を上げる魔法をかけてもらったお返しもしてないし……」
「いや、いいんだ……」
しかしスターマークは様子を見ながらこう答えた。
「しかし、危険と言ってももう襲われてるからね。大翔君が無関係ではいられない部分も確かにある。何か自衛が出来ないと今後危険な目にあう可能性もある。こないだは狙われておびき寄せられたしね」
「大翔、危険な目に合ったら僕たちが助けに来る」
キッドはこう言ったが大翔は収まりがつかない。
「助けられるだけなんてやだよ! くやしいんだ! 何も出来なかったのが。僕もカノン君を助けようと思ったのに!」
大翔がこんな切羽つまった後がない必死さをキッドは初めて見た。
「そんなにくやしかったんだ」
「悔しいよ! 一馬君に負けた事よりも! 今までどんなにがんばっても全く何も出来なかった事ってないから」
「まあ、落ちつきたまえ」
「マークさんはどう思うんですか?」
キッドは聞いた。
マークは答える。
「そりゃ、キッド君が言うように危険だと言う事に同意する。でもね、男は全く何かに歯が立たなかったり、友人を助けられなかった時はとてもつらいんだ。君にもわかるだろう」
と言いそして続けた。
「真崎君は今までにない敗北感を味わいつらくてどうにもならないんだろう」
キッドは答える。
「そうですね。僕に全て分かる事ではないですが、確かに彼は今までガッツで何とか乗り切った事が多いらしいですから。まあ無理ないよ。魔法は未知の世界だしね。」
大翔は少しだけ理解をしてもらい少しほっとした。しかし完全に納得はしていなかった。
マークは言った
「確かに危険な目には遭うだろう。でも玉越君は一発も真崎君に命中させなかった。さすがにまだ小学生だ。人を本気で激しく傷つけるのはやはりこわいんだろう。まして命を奪う事は……」
キッドは答える。
「そうですね。確かにそこまでは出来ないでしょうね。まだ完全に悪に染まってないみたいだし。ただやはり危険ですよ。例えば間違って当たったとか。魔法はとにかくみなすごい破壊力を持っています」
そしてスターマークは考えが定まらないまま小谷に聞いた。
「まだ仲間は何人もいるのか?」
「は、はい」
小谷は怯えていたがスターマークはさらに聞いた。
「カノンの魔力カードを分けたのか。君はエネルギードレインの魔法だったが。あと6枚ほど残りがある。それを取り戻しにいかなきゃならない。だから誰がいるか教えてくれ」
しかし小谷は怯えていた。
「でも僕も裏切り者にされる」
「僕たちが守るから」
とキッドは言ったが、
「僕、もう契約したから。裏切るのは怖い」
と言って小谷は袖を捲った。するとそこには印があった。
「あっ! カード魔法を使うための印だ!黒魔術学園につけられたのか」
「だから今さらもどれない……」
小谷は希望を失っていた。
自分はもう奴隷だと言うような顔だった。
「その印なに?」
大翔が聞いた。
キッドは
「カード魔法を使うための契約さ。上級魔法使いに契約のしるしとして受けるんだ。カードを持ってれば誰でも使える訳じゃないんだ」
「カード魔法?」
「うん、魔法には自らの体内の魔力を使用して使うものとカードを使うものがあるんだ」
「じゃあカノン君からカードを奪った人たちはその印の力で使っているんだ?」
「そう、でも僕やマークさんはカードではなく体内の魔力で使うタイプ。上へ行くほど自分の体内の魔法力で使う感じだ。ただだからと言ってカードを使うのが弱い人ばかりじゃない。上級の人でも使う人はいる。それにカノンもカード以外の魔法も使えるよ」
「その契約は無理やり結ばされたのかい?」
スターマークは聞いた。
小谷は恐る恐る震えながら言った。
「はい、最初は玉越に誘われたんです。魔法で色々面白い事が出来るって。でも今は黒魔術の指示で嗅ぎまわる人を攻撃する役にされたんです」
「完全に付け込まれた上利用されてるな」
マークが言うとキッドも続けた。
「君ももうそんなの嫌だろ。だから早く手を引いて他の仲間の事を教えてくれ」
キッドが言ったその時、突如校舎からすさまじい叫びが聞こえた。
「巨大なドラゴンがでた!」
「なに?」
恐怖で助けを呼ぶ生徒の声にキッドは反応した。
その頃校舎の陰に集まり密談していた生徒達がいた。
彼らは小谷と同じカノンのカードを持っていた。
ドラゴンのカードでドラゴンを操っていたと思われる生徒と仲間は話していた。
「ドラゴンを出すなんて目立ち過ぎないか?」
「いいや逆さ、ドラゴンなんてあの魔法使いたちしか信じないだろ。誘き寄せるのに最適だ!」
マークは言った。
「これはカノン君の魔法の1つである召喚系魔法か?」
キッドは危惧した。
「行きましょうマークさん!」
「僕も行く!」
大翔が言った。しかし
「君はダメだ」
と少し冷たく言ってキッドたちは飛んで行った。
大翔は置いてきぼりをくらい、キッド達とドラゴンがどうなっているのか気が気でなかった。
しばらくしてキッドたちは帰ってきた。
「ドラゴンはすぐ消えた。幸い誰も襲われなかった」
「どうも大勢人を襲うつもりじゃなかったらしい。僕たちをおびき寄せて様子を見るためかも」
マークは冷静に分析した。
「次は僕も行く」
と大翔は言った。しかしキッドは
「だめだって」
「僕も魔法が使えるようになりたい! 契約をすればカードで戦えるんでしょ」
「だめ体を傷つけるから」
「じゃあ体内の魔力を使う方は?」
「君が今から1から始めるのか?」
キッドは「わかってないなあ」「甘く見るな」と言いたげな口調で少し厳しく言った。
しかしスターマークは
「しかし、また襲われるかもしれない」
「しかし」
「耐性をまず身に付けさせる必要があるかもしれない」
マークの言った事に大翔は反応した。
「教えてくれるんですか?」
大翔は目を輝かせた。
「まず、基礎からな。まず大翔君の体内の魔法に対抗する力を上げる練習をするんだ。まず防御から教える」
3人はほうきで空を飛び人気のない裏山へ行き、適当な場所を見つけて降りた。そしてマークは神妙な顔で大翔と向き合い修行の準備を始めた。
そして二人な距離をおき向き合った。緊張感が流れる。
「私が念をおくる、それに耐えるんだ」
「はい」
そうしてスターマークは呪文を唱えた。
大翔の体に念の圧力がかかり始めた。
すると大翔は苦しみ始めた。
「うう」
「がんばれ大翔くん!」
大翔はまるで重いものに乗っかられ体中を責められているような激しい念に耐えた。
苦しかったが降参はしなかった。
持ち前のガッツで重さに耐えている。
「うう」
「がんばれ!」
しかし魔法に耐える事はある意味精神力だけでは無理な点があった。さすがの大翔もきつくなった。
「うわっ!」
ついに限界がきて大翔は倒れた。
キッドは檄を飛ばす。
「まだまだがんばれ!」
「うう」
大翔は立ち上がり、マークはまた念を送った。
「がんばれ! 魔法防御の練習だ!」
「うう!」
大翔は苦しみながら耐えた。このやり取りは10分続いた。マークは激励した。
「魔法防御だ!」
「はあっ!」
「おおっ!」
キッドは驚いた。
一瞬念が止まった。これは明らかに大翔が自分の力で防いだものだ。
「一瞬だけ防御に成功したぞ!」
キッドは喜んだ。マークは
「これを繰り返して慣れるんだ」
「はい!」
大翔は凄まじい気迫で答えた。
「はあっ!」
「なに?」
大翔は倒れた。
「これは無効化防御?」
マークは説明した。
「これは大翔君の持って生まれた体内の魔力に無効化防御の力があったと言う事だ。ほんの1瞬だが」
キッドは驚いた。
「え? まぐれかい? いやまぐれでもすごい才能あるかもしれないぞ!休憩」
休憩時おもむろに大翔はドッジボールを投げた。するとボールがわずかに光り、スピードもアップした。マークは驚いた。
「これは一体!」