真也の恐怖
真也はゆっくりすっくと立ちあがった。
「僕が相手をしようか」
ついに真也が口を開いた。立った。
その事実だけで周囲は異常な恐怖に包まれた。
顔はいたってにこにこし温厚である。
しかし言いようもない凄まじい緊張感、威圧感を保っていた。
にこにこしているのが異様な恐怖を出していた。
それだけで大翔も生き残った側近もすさまじい圧で動けない。
大翔の心に逃げたいと言う程の感情が生まれた。
もっと言えばこんな所に来るんじゃなかったと言う後悔さえあった。
真也が歩き出した。
側近はびくっとした。
真也はじりじりとほとんど音も立てず歩を進めた。
しかし大翔にはまるで床がきしむ音が聞こえるかの様だった。
汗が流れた。
そして突如歩をとめると突如大翔に人指し指を向けた。
そしてつぶやいた。
「はっ!」
その瞬間、大翔の体を指先と同じくらいの大きさの衝撃波が襲った。
全く見えなかった。
弾の実体も光すらない。
「ぐあ!」
大翔はすごく痛かったわけではない。
しかし攻撃の見えなさに言いようもない恐怖を覚えた。
攻撃を受けたインパクトが体にずっと残った
真也の存在感や表情も相まって。
(何だ今のは、全く反応出来なかった)
聖霊は言った。
「オートガードがかけてあるのに反応が遅れた。一体あいつ何者なんだ」
「大丈夫かい?」
とダメージを受けた大翔ににこにこしながら変に優しく真也は声をかけた。
大翔は口がふさがったように答えを返せなかった。
「ふふ」
と何が面白いのか真也は優しく不気味にほほ笑んだ。
そしてはっきり話しかけて来た。
「真崎大翔君、だったかな。君が僕と入れ違いで真崎家で育てられた」
大翔は何も言えなかった。
真也は続ける。
「君はさっきから謝りたいと言ってたが」
大翔はそれに対しやっと言葉を返す事が出来た。
「は、はい、僕のせいであなたは真崎家で育てられなくなって、とってもつらい思いをしたんではないかと。ずっと謝りたくてここに来ました」
ほんの少しだけ真也の口元が動いた。
「そうか、確かに結構つらい思いをしたね。でも僕は君を恨んでないよ」
「えっ?」
相変わらずにこにこした顔で続ける。
「何故ならそのおかげで黒魔術に拾われ、こんなに大きな力を手にできたんだから」
「……」
真也は初めて両手を広げた。
「さながら神のように」
誇っている様だった。
「すみません」
大翔の詫びに本当に気にしていないようだ。
「怒ってないよ。なぜならこれから僕たちはこの世を支配するからだ」
大翔は極めて言い出しにくかった。
「その事なんですが、そんな事やめて下さい!」
「何」
真也の眉がぴくりと動いた。
「僕が言うのは図々しいですがどうかやめて下さい! みんな不幸になるんです!」
真也は嘆息した。
「そうか、わざわざそれを言いに来たんだね。ならば確かめさせてもらおう。君が僕と話すのにふさわしいか。実力で僕に訴えてみよ!」
大翔は剣を構えた。
聖霊は言った。
「すごい威圧感だけど、負けるな!」
大翔は奮い立った。
「よ、よし、行くぞ!」
その瞬間、さっきと同じ様に指先を向けた。
すると突然大翔の肩に激しい痛みが走った。
「ぐっ!」
真也は微笑んだ。
「ふふ」
精霊は言った。
「何だあの攻撃全然見えない」
真也は指を構えながら微笑む。
「くっくく次はどこがいい?」
大翔は必死に体勢を立て直した。
「くくっ!」
「僕の攻撃を防げるかな?」
また指先を向けた。
「ぐっ!」
また目にも止まらぬ攻撃を食った。
精霊は危惧した。
「スキルをかけているのに反応しきれない! あいつの攻撃の属性が不明だからか? それともあいつに特殊な力でスキルが無効化されてるのか」
真也は指を鳴らした。
「ぐっ!」
また大翔の体に衝撃と痛みが走った。
「ぐっ!」
聖霊は言う。
「なんて奴だ、あいつ1歩も動いてないのに」
大翔は聞いた。
「あいつの攻撃防げないの?」
聖霊は何とか答えを返した。
「さっきみたいに剣で受け返すんだ!」
大翔は剣で防ごうとしたが一瞬剣を構える隙にまた指さしから腕に攻撃を食った。
構えなおそうとしたがこれも駄目だった。
また食ってしまった。
大翔はひるんだ。
「は、速すぎる」
心なしか少し真也の言い方が強くなった。
「ではもう少し攻撃を強くしていく。防げるかな?」
ついに真也は歩を速めた。
「来た!」
また指で衝撃を送るような仕草をした。
「ぐっ!」