表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/166

運命のドッジボール

 それは遅れた知らせだった。


「えっ、全寮制」


「ええ、基本的に長期休みやお正月以外には家に帰れません。まだ小学生のお子様には大変だと思いますが、それも当校では試練と解釈しています」


 大翔と母親は挌闘学校の面談を受けていた。


 さすがに全寮制、親と離れて暮らすことを突き付けられては戸惑いもする。


「1人部屋ですか」

「いいえ、相部屋です」


 帰り道母親とはあまり話さず大翔は思っていた。


(この前の件も僕を理解してくれず叱りつけるだけだったし、母さんと離れてもいいや、別に。どうせ僕は厄介者扱いされてるんだ)


 家に帰りとりあえず大翔は今より自分の部屋をきれいに片づける練習をする事にした。


「全部やらなきゃいけないんじゃしょうがないな。よしやろう」


 彼はこつこつていねいにかつ速く部屋を片付け始めた。

母親が見に来た。


「大分、綺麗になったわね」

「まあ」


「後洗濯、布団の取り換えや朝の準備とかもこれからは1人でやるのよ」

「はい分かりました」


 わかったような気の抜けたような返事だった。

後日学校で大翔のお別れ会が開かれた。


 クラス委員が大翔に色紙を渡した。

「これ、みんなで書いた色紙だ」


 皆口々に別れの言葉を言う。

あまり湿っぽくならないよう、短めに言う事を心がけた


 宮田が言った。

「じゃあ、お元気で」


 ポンと腹にパンチを入れた。

「うっ、きくぜ」


 樋口が言う。


「みな忘れないよ」

樋口はお守りを見せた。


 三夫が言った。

「後で僕の家によってくれ」


 その日の夜三夫の家でロッド・キッドを呼び出した。

しかしキッドは出てきたものの申し訳なく言った。


「実は今度用が出来て、初日同行出来ないんだ。次の日からは行かれるんだけど、本当ごめん」

 

 大翔は承諾した。


「分かった。友達の事は?」

「それは僕が合流してから一緒に探す事にしようと思う。君に何かあったらまずいし」


 三夫は言った


「キッドはいいなあ、ほうきがあるからすぐ大翔に会えるし」

「僕が送り向かいしよう。ちゃんと乗せてくよ」


「うれしいなあ航空便は」

「毎日じゃないよ、たまに」


 大翔は話を変え言った。

「うん、僕もみんなと離れるの寂しい。けどしばらく1人で頑張ろうと思う」


 それはあまり今まで見せたことのない態度だった。内心こう思っていた。

(あの学校に行く事が、僕の自立とたくましさのカギなんだろう)


 そして夜が明け次の日の朝が来た。

いよいよ大翔は挌闘学校に初登校した。


 4年B組の教室で朝教壇の横に立って紹介を受けた。

「では紹介する。転校してきた真崎大翔君だ」

  

 緊張の中、大翔はクラスを見回した。

はっきり言えば殺伐とした緊張感の漂うクラスだった。


 しかし露骨な不良少年タイプはあまりいない。


 しかしみな真面目か真面目でないかと言うより闘争心が強くそれが緊迫感と火花を作り出していた。


 みなかっこいいタイプも武骨な体育会タイプもいたが、大翔の目から見ても仲が良さそうでない、殺気立った雰囲気がある。


 しかし喧嘩やいじめとはまた少し違う、お互いに腹の探りあい、良くいえばライバル意識で火花が散っている。

わりと今までの学校は温厚な生徒が多かったかもしれないと大翔は感じていた。


「よ、宜しくお願いします」

元気にしかし抑え気味の挨拶をした


「真崎君、このクラスはどうかな」

とおもむろに担任は聞いた。


 しかし、また大翔はとんでもない事を言った。


「このクラス殺気だって暗いですね」

皆の顔がぴくぴく引きつった。


 授業時間もどことなく緊張感が漂っていた。


 休み時間も大翔に話しかけてくる人はいなく、勉強している生徒も結構いる。


 担任は大翔に話しかけた。

「このクラスはみな殺気だってるんだよ。みな、競争に勝つために、みんなあまり裕福でなかったりテストも点が良い訳でなかったり競争に自分の未来全てをかけているんだ」

「何か不安」


 そして、昼休みになりムードは一変した。 

「よし、みんな校庭に出ろ! ドッジボールだ!」


 生徒の1人の掛け声とともに生徒たちは校庭に出た。


(なんだなんだ?)

と大翔は慌てふためいた。


 突然ある生徒が大翔に声をかけた


「新入り、お前もだ!」

(新入りってすごい呼び方だな)


 校庭ではボールを持ったクラスメートたちの気合と熱気が充満した。殺気と言っても良い。

「はじめるぞ! ドッジボールだ!」


「今日は俺たちが勝つ」


「俺たちだ!」

と皆殺気立ちいきりたっていた。


(なんなんだこの異質な雰囲気は)

と大翔は思った。


 大翔はどこへ行っていいかわからずおろおろした。

生徒達はすでに2チームに分かれていた。大翔が戸惑っていると、


「お前はAチームだ」

と先ほどの生徒が声をかけた。


コートを舞台に皆2チームに分けて散り、激しい執念の様な物を漂わせた。


(すごいなあ何て殺気だ。)

メリメリと音が聞こえそうだった。


「す、すごい、な、なんでこんな闘志を……昼休みの遊びじゃないか」

大翔はこんな雰囲気は前の学校でも味わった事がなかった。


 他の生徒は大翔に話しかけた。

「俺も最初はなじむの大変だったぜ、この雰囲気に。みんな昼休みの遊びだろうと勝つ事しか考えてないからな」

(なぜ? 遊びなのに……)


 そして 

「ゲーム開始!」

と言う掛け声とともにすごい勢いでボール投げが始まった。


「うおお!」

と言うすごい気迫でボールを投げ、それをキャッチする選手。


「う、うおお!」

とキャッチした選手は投げ返した。あまりのボールの勢いに相手のチームの選手がキャッチし損ねた。


「いてて……」

「はい退場!」


 するとある生徒が大翔に言った。

「お前もやってみろ」

「えっ?」


 と、戸惑う大翔にふいにボールが渡された。

緊張する大翔に他の生徒がプレッシャーをかけた。

「いいか全力でなげろ」


 その威圧を背に受けた大翔は不安ながらよし!と言う気持ちになった。

ここで拒絶すればクラスの中に入りそびれると感じた。


 悪い意味でのりのいい?雰囲気だと思った。


 大翔はボールを持ち雄たけびを上げながら投げの体勢に入った。

「うおお!」


 緊張の中、大翔は渾身のボールを相手コートに投げた。


 しかし大翔の投げた先の選手は余裕を顔に浮かべ、ぎりぎりまでキャッチ体勢を取らなかった。

(なぜ取らないんだ!)


「よっと!」

と言ってその選手は顔に当たるぎりぎりで余裕のキャッチをした。


「たいしたボールじゃないな。ボールってのはこう投げるんだ!」

(く、くそ!)


 さすがに動揺した大翔に生徒は声をかける。

「いったぞ」


「うわっ!」

とあまりの速さに大翔はキャッチ出来ずダウンしてしまった。


「お、重い、これで退場か」

と大翔がコートを出ようとしたとき、相手チームの選手が止めた。


「待て。お前は新入りだろ、今日は度胸試しだ。コートを出ず投げ返すんだ」


「え……」

「ほら、早く……」


 せかされた大翔はもう1度ボールを拾った。

「うおお!」


 渾身の力で投げ返すとまたもやあの生徒の方に行った。

「面白い!」

といってさっきの生徒は大翔のボールを楽々キャッチしさらに勢いよく投げ返した。


「うわっ!」

と大翔は倒れた。他の生徒は

 

「どうした新入り! 今日はお前の度胸試しだ!」


 そこへ遅れてロッド・キッドが駆け付けテレパシーで大翔に話しかけた

(遅れてすまない! 後は僕が魔法でボールを投げ返してやる!)


 しかし大翔は答えた。

(大丈夫! 僕1人で!)

(しかし……)


 大翔は立ち上がった

(僕一人で! うおお!)

「あいつ!」


 コートにいる全員がぼろぼろの大翔の気迫に押された。

大翔は最後の力でまた同じ選手にボールを投げた。


 唸るような激しいボールを先ほどの選手はキャッチしようとしたが手ではじいてしまった。


「取れなかった!」

「あいつのボールすごい熱い!」


「つかれたあ……」


 腰を落とした大翔に先ほどの選手が手を差し伸べ言った。

「やるじゃないか。俺は番取健、よろしくな」


「しかしこの学校すごいなあ。早く寮に戻ろう」


 ロッド・キッドはほうきの上で思った。

(やるじゃないか。僕がいなくても大丈夫みたいだな)


「どんな人が相部屋なんだろう」

と言いながら部屋に入ると暗い顔で座っている少年がいた。


「灰人太です。よろしく」

「は、廃人……」


 そのころ寮の管理人たちは話していた。

「あの灰人君今度入院するから別の人が寮に入るんだろ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ