転校前の下見
昼休みの校庭。
三夫は大勢ではなく友人と2人だけでボンボンとドッジボールを投げ合いながら話した。
大勢でワイワイではない為変な静けさが漂う。
三夫はボールを投げながら切り出した。
「大翔君、もうすぐ転校だって」
「うん……」
友人は何となく何と返していいか難しく考えているようだった。
寂しさも漂う。
「どう思う?」
友人は言葉を選びながら話し出した。
「寂しいっちゃ寂しい。彼に給食のフルーツを分けてくれと言われた事が懐かしく思える」
友人は何となくそういった大翔の性格を疑問視していたが、三夫は面白い人と解釈して同調した。
「図々しいったら図々しいよね。だけど彼に言われると他の人に言われるより何となく憎めなくなる部分がある」
友人はこれにははっきり同調した。
「それは言えるかも、何ていうか同じ内容でもむかつき度が30%くらい減るよね」
「まあ本人悪意じゃないからね」
「その事なんだけど、母さんにあまり大翔と遊ぶなって言われてたんだ」
「えっ?」
さすがにこの1言は意外で、三夫の気持ちを引かせた。
「保護者会で先生と母さんたちが大翔とどう付き合うべきかかなり悩んでたらしいよ。家に帰ったら聞いてみれば?」
その日、三夫は居間で思い切って母親に聞いた。
「ねえ、大翔君の事お母さんたちは皆何て言ってるの?」
母親は聞かれたくない事を不意に聞かれたような反応をし、笑顔で取り繕った。
「面白い子ねって、いつも明るくて人気者だねって」
しかし三夫は友人の話からすでに疑念を抱いていた。
「本当にそれだけ?」
三夫の母は三夫がこの年で自分の言った事が取り繕いと見抜いた事にさすがに驚き、ごまかしても仕方ないと感じ打ち明けた。
「……実はね、先生もお母さんたちも、大翔君とはあまり遊んじゃだめっていってるの」
「どうして?」
三夫の心には大人の考えが冷たく感じられた。
追及せずにはいられなかった。
親友と思っている相手をけなされたからだ。
三夫の母親は三夫の怒りを買わないよう落ち着いて説明しようとした。
「あの子は全部「真面目に」やってるのよ、でも病気だから他の子から見るとふざけてやってる面白い子に見えるんだけど、そう受け取っちゃうとあの子を馬鹿にしてる事になるのよ」
「どうして?」
三夫の嫌な気持ちはさらに大きくなっていた。
「お医者さんみたいに大翔君の病気について十分な知識がある人が話さないと彼をばかにしてるようになるわ」
三夫は必死に否定した。
「ぼ、僕は馬鹿になんかしていない!」
「馬鹿にしている」など三夫にとって予期していない思った事もない表現だった。
「じゃあ、あなたにどれだけ病気の知識があるっていうの? 病気の知識がないのに病気の人と話すと相手の人は嫌な顔する事もあるのよ」
ついに三夫は核心を突くような事を言ってしまった。
「じゃあ僕は大翔君と話さない方が良いって事?」
職員室では1日のまとめが終わった。
「あー今日も1日終わりだ」
と言った時任の所へふいに電話が入った。
誰だろうと受話器を取った。
「はい」
「三夫です」
電話口の三夫は力がなかった。
それを察した時任は励ますようにした。
「おう、どうした?」
「先生達は大翔君の事悪く言ってるんですか?」
「えっ?」
かなり意表をつかれる質問だった。
寝耳に水だった。
しどろもどろになりそうだった。
さらに三夫は落ち込んだ声で続けた。
「あまり大翔君とは遊ばない方がいいんですか?」
「おいおい何言ってるんだ」
これはまずいと感じた。
しかし困った事に微妙に核心を突いている。
時任はなんとか三夫をなだめようと必死だった。
同時になぜそんな情報が流れたのか非常に困った気持ちになった。
(何で彼が知ってるんだ)
ガチャンと電話は切れた。
「おーいもしもし」
応答がなく時任は受話器を置いた。
時任ははあとため息をついた。
(結局、真崎の転校を止められなかった。何ておれは力がないんだまだ駆け出しとは言え、せっかく理想をかかげて教師を目指したのに情けない……)
時任は壁の貼り紙を見た。
「人類みな平等か、うーん……」
「どうした? 時任君?」
「巣鴨先生、あの貼り紙は校長先生が貼ったんですか?」
「そうだけど」
三夫は翌日大翔を家に招いた。
た。そして魔方陣を広げロッド・キッドを呼び出した。
キッドは煙と共に飛び出した。
「おお、もうすっかり呼ばれるのおなじみになっちゃったな!」
「先日は僕の能力を上げてくれてありがとう!なんか調子がいいんだ!」
大翔は体調の良さを全身で表現した。
「これからスポーツ校の挌闘学校に行くんなら真価を発揮するのはこれからだよ」
「楽しみだなあ、って三夫君、どうかしたの?」
「あ、いやなんでもないんだ!」
大翔は三夫が明らかに元気がないのを察した。
ロッド・キッドは自分の仲間の事に話を変えた。
「で挌闘学校の事なんだけど、実は不安な事があってね、まだあの学校に行った僕の仲間に連絡が取れないんだ」
大翔は心配した。
「えっ、それは何かおかしいね」
「この通信機なんだけどこれは故障したわけじゃなく反応があるのに出ないんだ。電話のお話中みたいなものだね」
「じゃあその人は何か良くない事が起きて通信機を使えなくなってるって事?」
「うん、学校内で何かトラブルが起きたのかもしれない」
さすがにしーんとなった。
「こ、こわいなあ……僕これから転校するのに……」
不安がる大翔にロッド・キッドは切り出した。
「というわけでこれから下見をかねて調査に行く!」
キッドが言い出した。
「えっ挌闘学校に?」
ロッド・キッドは2人をほうきに乗せ挌闘学校に飛んで行った。
校舎前の人目に付かない所へ降り立った。大翔にとっては初めてだった。
挌闘学校の校舎は大きい、歴史があると共に権威の様な物を感じさせる雰囲気だ。グラウンドも非常に広くスポーツが盛んそうだった。
「でかいグラウンドだね」
「今は部活の時間じゃないし体育でもないから使ってないんだろうけど放課後とかすごいさかんなんだろうなあ」
三夫が言った。
「体の大きい人おおそうだよね」
キッドは作戦を練った。
「さてと、どうやって接触するか……」
「あ、じゃあ僕がそのクラスに行ってくるよ。下見に来ましたーって」
はりきる大翔をキッドは何とか止めた。
「あ、いや君はスパイ的行動は向いてないと思う…これを使おう」
と言ってキッドは顔の表情がない木の人形を出した。
「これを等身大にして透明にする!」
キッドは人形を地面に置いて呪文を唱えた。すると木の人形が大きくなりまた半透明になった。
「これでどうするの?」
「この透明人形は視界に入ったものをこちらのモニターに送る、聞こえた音も。遠隔操作ラジコンみたいなものだ」
「ふーんここで操作してモニターをチェックすればいいんだ。わざわざ僕達が入らなくても様子がわかるね」
大翔は感心して見た。
「じゃあ、出発」
キッドは声をかけた。
透明になった人形は校舎に入って行った。
「4年B組だったな。階段をこう登って廊下を歩いて」
モニターに人形の視界に映るものが映される、廊下を歩き、階段を登る。
「何て名前の友達?」
「本名はカノン、あ、男だよ。人間界では木崎聖って名乗ってる」
キッドはモニターを見た。
「あっ教室についた。ちょっと開けて覗いてみよう」
「何か分かる?」
「体の大きな運動の出来そうな生徒が多いな。でカナンは、いないな、あれ?」
キッドは見まわしある事に気付いた。
「欠席の机が一個ある」
三夫は聞いた。
「もしかしてそこがカノンさんで学校を休んでるってこと?」
「かもしれないというかそうらしい。でも僕たちに連絡がないのはおかしい」
「これ以上はわからない、生徒に直接聞かないと」
「じゃあ、僕が行く。大翔君はこれから転入するのに何か変でしょ」
三夫の言いだしにキッドも答える。
「僕も変装して行く。大翔は待っていてくれ」
二人は恐る恐る校舎にはいり先ほどの4年B組に行き、授業が終わるのを待って聞き込みする事にした。
三夫は教室から出てきた生徒に聞いた。
「あの、別の学校の友達なんですが、木崎君はいますか?」
「木崎? 最近来ないよ? 病気じゃないかな」
この少年は何かを隠している雰囲気でもなかった。
「えっ、やっぱり来てないんですか?」
「うん。5日位前かな」
「他の人にも聞きたいけど、何かヤバそうな感じがする」
キッドは不安がった。
「カノンは人間界で暮らしてるんじゃなくて、学校が終わったら魔法界に帰ることになってるんだ。だから学校にも魔法界にもいないのはおかしい、おかしすぎる」
「大丈夫なの?」
三夫はさすがに心配した。
「よし! 僕が転入して調べるよ!」
大翔の言葉にキッドは答えた。
力強い味方を得たようだった。
「よし、僕も正体を隠して学校へ同行する。一緒に探そう。でも大翔には転入に不安を抱える事になっちゃうけど」
「大丈夫!」
「頼もしいな」
それは嘘でない本音だった。
ここまでしてくれる感謝もあった。
「じゃあ、僕の家でお別れ会やろう。みんな呼んで」
三夫は言った。
三夫の家に行くと時任が来た。
「先生も?」
「真崎、すまない、先生の力が足りなくて転校する事に」
「そんな事気にしてませんよ、じゃあ早く」
その夜は宮田や樋口らも招いてお別れ会をやった。