懇願と叫び
「黙れ!」
と言い、ディードはデビイに火を当てた。
「ぐあ!」
デビイの体のあちこちに火が付き、背中と顔を押さえ倒れ転げた。
転げ回った。
消火を求めるように。
ディードはその様子を嘲笑うというよりくだらないと思って見ていた。
またデビイの変な仁義が理解できず苛立っていた。
言葉で表せば、ちょこまかとうっとおしい、勘に触ると言う感じだった。
「馬鹿が!」
「デビイ!」
ウィムは転げたデビイに駆けよった。
しかしディードは冷酷に
「お前もだ」
とウィムに言った。
ウィムも吹っ飛ばされた。
転げ回る2人。
しかしデビイは火傷しながらなおも、まるで骨から力を出すかの様に不恰好に必死に立ち上がりかろうじて前を向き全力でディードに訴えた。
いや絶叫だった。
「き、聞いてやってくれ! 大翔さんの言う事を! た、たのむ」
木にすがるような懇願だった。
それはどこか、「自分の事はどうでも構わない」と言う程だった。
ディードはその様子を見て「はあ?」と言う顔をした。
何故そんなに大翔の為必死になるのか理解はしていない。
「何故だ?」
一方デビイは必死だ。命を絞るような叫びだった。
その様子を一応はディードは見ている。
「あ、あの人は俺を救ってくれた、きっとあんたの事も助けようとしているんだ。だからたのむ」
しかしディードはあまりデビイの気持ちを考えず突き放した。
「何が頼むだ、貴様が何故そこまで言うのか理解できないな」
そしてディードはダウンしている大翔の方を向き直った。
残念そうに嘲笑った。
「私と勝負して勝てば今頃スパルダス様の所へ行けたかもしれない物を、全く意味が理解出来ん」
「う、うぐぐ」
大翔はそれ以上言う力が出なかった。
ディードは見下ろし無下に言った。
「無様だな、真崎大翔」
次の瞬間、ディードは顔を殴られ吹き飛ばされた。
それはマークだった。
「き、貴様」
マークは怒った、覆面越しでも強く伝わるほど。
声は大きく強く拳は震えている。
「貴様と言うやつは、まだ大翔君の気持ちがわからないというのか! 愚かな奴だ!」
口を手で拭いながらディードは言った。
かなり効いたようだ。
精神的にも。
「何だ? お前に何がわかる?」
苛立ちで言い返した。
殴られた痛みと意味のわからないマークの言葉に対して。
ディードはさっきまでの嘲笑いは消えていた。
さらにマークは怒った。
「大翔君は人をむやみに殺したくないから貴様を救おうとしているんだ。それなのに貴様はみじんも理解せずに! バカな奴だ!」
いい加減にしろ意味不明な事を言うのもと言う感じだった。
「何を理解しろと言うのだ? 敵である私を味方にしたいなど」
「貴様は大翔君に救ってほしくておびき寄せたんじゃないのか?」
これは非常に意外な問いだった。
いや確信に近い聞き方だ。
「何?」
マークはじっと睨み追及した。
「お前は本当は苦しいのを大翔君に助けてほしかったのではないのか?」
ディードは動揺した。
意味が分からないような少し思い当たるようなそんな反応だった。
「何を根拠に言う」
「本当はスパルダス達に従いたくないと」
毅然と怒鳴ったがどこか喚きも入っていた。
「私はスパルダスの部下だ!」
しかしマークの返しは落ち着いていた。
「私は、ある程度精神集中で相手の心が読める」
これにはビクッときた。
「そんな事信じられるか、私が」
その時、ディードは突然胸を押さえた。
「くっ!」
ディードは吐き気を催した。
マークは言った。
「ストレスから体に来たのか?」
その時大翔はやっと、話す力が戻った。
「僕は頭の中にディードの思念が残っているんだ。だからあんたの声が時々聞こえたんだ」
「何?」
心の中を見られたような反応をディードはした。
大翔は続けた。
「『苦しい助けてくれ』とずっと言っていたのが僕の頭にも伝わっていたんだ」
マークは言った。
「やはりな、体を共有したため1部が繋がってしまっていたんだ」
「く!」
ディードは負けたように目を伏せた。
「ごまかせないか」
大翔は釈明した。
「僕はディードの事を信じると言う言い方をしたけどすみません、実は前から頭に伝わっていたんです。声が聞こえる感じで」
ディードはついに先程までの堅い態度を取った。
「ああ、そうだ、私はスパルダス達に従いたくない。わ、私は運命に翻弄され続けた」