命がけの信頼
「本当にいいのか」
「はい、それしか方法がないと思います」
グランは剣を持ち震えていた。
汗がにじんだ
大翔はグランに本物の剣で切りかかってくれと頼んだ。
「そりゃ無茶だ。切れるわけないよ」
むしろ大翔の方が冷静に説明していた。
「でももし発動条件が『命の危険』であった場合、そう言う状況に追い込むしかないんです。『人助け』は今2人しかいないから出来ないですし」
大翔の言い方は生死がかかっている割に変に淡々としている。
演技なのか外から区別がつかない。
相当心の準備が出来ているようだ。
少し考え込み唇を噛みやがてグランは真っすぐ前を向き目を開きはっきりと言った。
「分かった。やろう」
ためらいながらグレンは同意した。
「僕も全力で協力する」
そしてグランは大翔に向けて構えたがあまり堂々としていない。
「くっ、手がふるえる」
「本気で来てください! 寸止めじゃなく本当に切る気で」
「わかった」
覚悟は出来ているのか他人目には分からなかった。
と言葉は短かったが、大翔がここまで本気だったとはと言う驚きと自分より落ち着いている事に尊敬心も感じた。
そして剣を持って大翔に向き大翔も向き合った。
音が全くしなかった。
静寂の時の末、合図はないがついにグランは剣を構えて振り上げ大翔を切りにかかった、がさすがに直前で止まってしまった。
大翔はグランが躊躇してるのを理解し優しくかつ必死に懇願した。
「グランさん! どうかお願いします!」
「う、うう」
グランは心の内で葛藤や自分の弱さと戦った。
そして自分を追い込み覚悟を決めた。
「グランさん!」
大翔はためらいが消えないグランに再度呼びかけた。
「うおお!」
グランは立ち上がった。
「やるぞ!」
大翔はにっこりとした。
グランは雄たけびを上げ切りかかった。
決死の覚悟ではあるがやけくそとは違う。
そこには大翔の変わる事に貢献できる、それしか方法はないと言う気持ちで自らを追い込んだ。
大翔は剣が頭に当たる瞬間まで目を離さないようにした。
本当は怖い。
信じられなくなるほど。
しかしグランにはそれを見せないようにした。
凄まじい死の覚悟を超える感情だった。それは自分が魔王に変われると信じる強い気持ちだった。
信じる気持ちが恐怖に勝たなければ耐えられなかった。
そしてグランもついに一切のためらいなく剣を頭から振り下ろした。
敵と戦う時と同じ気持ちで。
後悔はなかった。
中途半端ならまた失敗で大翔は魔王になれない。本当の生命の危機に追い込む必要があったからだ。
そして剣の刃が当たり、大翔の頭から血が流れた瞬間だった。
変わった。
ついに大翔は魔王の姿になる事が出来た。
決死の覚悟の末であった。