トライアスロン前夜の特訓
大翔はトライアスロンの前夜のみ1日だけグランが居候する実家に行き、話し合いや特訓をした。
大翔は庭でグランに剣道の稽古をつけてもらう事にした。
両者がお互い竹刀を持ち神経を集中させ向き合い緊張が流れる。
そして大翔の合図で緊張感を切り裂き試合を開始した。
しかし、初心者の大翔と違いグランは剣に一日の長がある。勇者である事も含めて本当に隙が無い。
大翔は出来るだけ怯えず肩に力を入れない様、冷静、かつ無我夢中で挑みかかった。
ただ経験不足もあり大翔はやはり竹刀の持ち方や扱いがおぼつかない。
隙が大きく、それを分かったうえでグランは冷静に受けて見せた。
「えいえい!」
「もう少し!」
グランは叱咤激励した。
一旦距離が開くと大翔は再び向かって行った。
構えや動きが少し勢い重視で前のめりだ、後脇が甘い。
「えいえい!」
「隙がある!」
普段温厚なグランにしては割と厳しい言い方だった。
しかし大翔はめげず答えた。早くも汗をかいている。
「はい! もう一丁!」
大翔は魔王化してないとは言え何度か竹刀をふるったが、しばらく続けてもグランに当てることは出来なかった。
グランはどうもうまくいかないが必死な大翔を見て、決して彼を馬鹿にしてではなく心配して言った。
「そろそろ明日に備えて休めば?」
「後ヒンズースクワットやります」
「よし、僕もやる」
と一緒にやる事で少しでも力になりたい、大翔の気持ちを理解したい次第だった。
「後まだ聞きたい事もあります」
大翔は疲れていてもまだまだやる気満々だった。
「分かった、いくらでも」
2人はしばらくスクワットをやった。
そして休憩し2人で座りながら落ち着いて話した。
大翔は言った。
「実はまだ疑問がいっぱいあるんです。魔王になる時の力のコントロールについてなのですが、例えば全開の力が100としてその力を無制限に出せるのかあるいは時間や消耗等の制限があるのかとか、レースは長い間1人で戦いますし何人敵が出てくるかわからないし力を配分して使うべきなのかとか。あと望んだタイミングでなれるのかとか、今知っておかないとまずいんです」
「そうか、自分の力と使い方について知りたいんだね」
とグランは理解した。
そして、休みが終わり特訓が始まった。
「はい、じゃあまず魔王に変わるところからやってみます」
大翔は目をつぶりながら体に力を込めた。
「変われ、変われ」
かなり力んだ。全身が震えるほど圧をかけようとした。
しかし何も起きない。魔王には変わらなかった。
あきらめずにさらに大翔は力を込めた。
「変われ、変われ」
しかし、駄目だった。
「続きやります」
大翔はまだめげない。
大翔が無理をしてるのを察し、グランは方法変更を提案した。
「いや、それよりも、これまで変われた時はどんな状況だったか考える事にしよう」
大翔は考え込んだ。
「うーん、人を助けたいと強く思った時ですかね。車に弾かれそうになった人を助けた時やキッド君を助けたいと思って起こった時、逆にコボルドや不良に絡まれた時はなれませんでした」
グランも考え込んだ。出来るだけ大翔と同じ気持ちになりたかった。
「うーん、という事は『命の危険』は必ずしもその要素ではないって事か」
「あとキッド君が殴られた怒りもそうだったんですが」
「怒りがどうかと言うのはまだわからないね」
さらに大翔は考えた。
「で、確かその時強く天に願ったんです。そしたら『そんなに力が欲しいのか、では今が其の時だ』と天からの声のように聞いたことのない声が聞こえて、変われたんです。しかも前と違う姿で」
さすがにグランは驚き興味を示した。
「誰なんだろうね」
「僕はそれが誰なのか知りたい。そして僕が何者なのか知りたいです。だから僕は黒魔術との戦いを続けている部分があるんです」
「そうか、戦うのは自分の事を知りたいのもあったんだね」
「はい、僕は真崎家の息子じゃないってわかったし。ミランドの赤ん坊だと言ってもじゃあ何でこんな能力があるのか自分の事を知る人に会いたいです。たとえ傷ついても。後ディードが『僕の兄が待っている』と言っていました」
「えっ」
「レースに出るのはそれを知る為でもあるんです」
「うーん」
グランは何とか大翔の身になり苦悩を理解しようとした。
「後今変われないとグランさんにチェックしてもらう事出来ないじゃないですか、だからならないと」
「でも、どうやって」
「うーん、あっそうだ」