魔方陣とロッド・キッド
その夜、三夫は家で母親に聞いた。
「ねえ、父さんの古い本がある書庫を見て良い?」
母は言った。
「いいけど、汚さないで」
三夫は説明した。
「この前言っておいた」
三夫は父の書斎に入った。古い本が大量に並ぶ大きな棚からある目的の本を背表紙を元に物色した。
「えっと確かこの本だ」
確かにその本はあった。まぎれながらも。
三夫は目的の魔術の様なマークが書いた本を確信し抜き出した。
「多分これだ。えっと……」
三夫は数百ページの厚い、かつ古い紙質の本をペラペラとめくって目的のページを探した。
そして気づいた。
「あっこれだ!」
と三夫はあるページにたどり着いた。そこに書かれた絵に気づいた。
その絵が目的だったのだ。
その目的とは、星形のマークの様な紋章だった。
本のページ一面に謎の紋章が書かれている。
複数の色が織り成す星はさながらいかにも魔術のマークだった。
「学校から借りてきた本に……」
図書館で借りてきた本をぱらぱらとめくった。
「この魔方陣を綺麗にそっくり書き写し、古代の呪文を唱えると魔法使いが出てくるって書いてある」
これ、つまり図書館で借りた本、を鵜呑みにし全部信じた三夫は魔方陣を紙に丁寧に書き始めた。
彼はそんなに単純な性格ではない。しかし、昔から何故か魔法と言う言葉が好きで惹かれてしまう事が多かった。
しかし書く作業はさすがにその日1日では終わらなかった。
ところで、次の日大翔は学校を休んだ。
皆気まずさで何も言えなかった。
その夜三夫は家で魔方陣を精魂込めて描いた。
「大翔君は学校を休んでる。僕が頑張らないと……」
大翔の事が気持ちを後押しした。
そして3時間、合計5時間のついに苦労のかいあって魔方陣は完成した。
それはさすがに本に書かれた魔方陣よりは下手だった。
しかし三夫は構わず本に書いてあった呪文を唱えだした。
魔法使いを呼ぶ、その一心だった。
かなり複雑で難しい呪文だったが落ち着いて間違えないようゆっくりやった。
何より願いと祈りをこめた。
そして詠唱は終わった。
「無理かなあ」
すると、信じられない事に魔方陣が光りだした。
「うわっ!」
それは、突然だった。
突然の出現だった。
目もくらむ程の、あまりに眩しく激しい光と共に、先日上空を飛んでいた魔法使いの少年が魔方陣から現れた。
最初は影でゆっくり実体化して行き、容姿も服装もはっきり見えて来た。
シルクハットとタキシードを身につけ、やせ形でスマートで筋肉、ぜい肉は少ない。
髪はサラサラで緑色なかなりの美少年だ。
染めているというより地毛が緑の様でそれだけで異世界人の雰囲気を漂わせる。
年は13歳くらいである。
瞳が澄んでいてやや目は切れ長。
口元が優しそうだった。
全身に上品さが漂う。
呼び出した相手への配慮と礼儀を身に着けているようだ。
もちろん三夫は初対面である。
慌てた。
「わ、わわ!」
「ここは!」
魔法使いの少年は腰を落としながらきょろきょろ左右を見回し状況を何度かつかもうとした。
「ここはどこかの家の部屋」
少年は驚いている三夫を見て聞いた。
「き、君がこの魔方陣で呼んだのかい? 君は魔法使い?」
「は、は、はい! でも魔法使いではありません!」
自分で呼び出したとは言え現象を直視しきれずさすがに慌てた三夫に対し少年はやや落ち着いて呑み込もうとしていた。
「と言う事は近くを飛んできたのをここに転移してきたのか」
三夫は何とか冷静に聞き返した。
「近くを飛んでいたのを転移? この近くをですか?」
「この近く」が大事だと感じ2度聞いた。
少年には説明出来るだけの冷静さがあった。
「うん、すぐ近くの人間界を飛んでいたんだ。そうしたらこの魔方陣にテレポートしたみたいだね。移送装置みたいに」
人間界から、と言う所にかなり意外さを感じた。
「えっじゃあ、あなたは別の世界から来たわけじゃないんですか?」
彼は「普通に人間界を飛んでいる」と説明した。
「うん、元は魔法界の人間なんだけど、最近調査員として人間界を調べに来ているんだ。そして今は一時的に人間界に在住してるんだ。昼間は空を飛んで調査をしてるんだ」
三夫は事情を把握した。
「そうだったんですか! すでに人間界に来てたんですね!」
少年は三夫をほめた。
「しかし、君魔方陣何て良く作ったね。もしかして君も魔法使い!?」
「いえいえ! ぼくはこの父の持つ本の魔方陣の形が好きで描いてみたんです。そしたらあなたが」
彼は何か秘密がありそうだと踏み推測した。
「ふうん。たしかに君が書いた魔方陣が作用したのは何か秘密がありそうだ。本か、紙か、あるいはペンか。おっと申し遅れた。僕はロッド・キッド。魔法界から人間界を調査しにきた魔法使いさ」
「調査ですか」
「うん! 実は近々、人間界に魔法学校を作る計画があるんだ。そのため人間界を下調べする事になった。僕は調査員さ」
キッドは計画を打ち明けた。
魔法学校と言う言葉が三夫を刺激した。
「ええ、魔法学校? なんかすごいですね! あの友達を呼んでいいですか?」
三夫は電話をかけた。
「もしもし大翔君?」
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