休息と話し合い
急にその少年はキッドの前にきた。
そして単刀直入に言った。
「気に入らない」
「えっ?」
いきなり銃弾を受けた気分だった。
これは、確かにキッドは不意をつかれた。
いや他の人でもつかれるだろう。
そんな事を言われれば。
キッドが魔法学校の廊下で振り向くと、そこには真ん中わけで毛先がとがった感じで整髪された、目つきが鋭く意地悪さと射抜くような視線を併せ持つ、目線が良い意味でか悪い意味でかまっすぐで目力が強い、かつ顎の筋肉ががっちりと発達した、いかにも強い主張の顎と口元を併せ持つ、少し肌が白っぽい少年がいた。白目の肌も冷たさを表していた。
中学生でありながら硬く一点の隙もない、非常に話すきっかけを作りにくそうな冷酷さをまとった少年だった。
不良っぽさと学級委員の厳格さが混じったような雰囲気だった。
「で、デビィ」
「久しぶりだなロッド」
「な、何か用かい?」
キッドは確かに緊張した。
目をそらし気味で汗をかいていた。
嫌な奴にあったと言う感じだ。
早く話を切りたい。
デビィと言う少年は全く相手の気持ちの準備など無視して唐突に冷たくキッドに言った。
「お前は目立っている気に入らない」
「えっ・」
キッドは露骨に言われぞっとした。
言い方も言葉も相手の体温をゼロにする程冷たい。
余計な部分がなく自分のいいたいことだけ冷徹に伝えた感じだ。
デビィはキッドの気持ちなどお構いなしに冷たいかつ威圧的な口調で続ける。
「聞けば、黒魔術と戦って奴らを倒したんだって?」
「あっ、いや倒してないけど」
キッドは話しがデビィに伝わっていていやな気分だった。
今度は何の文句だと。
また相手の気持ちを考えずデビイは続けた。
「あいつらのボスの冥王とやらを倒したんだろう。皆噂している」
「ぼ、僕は大したことしてないよ。他の人が」
話しが拡大してしまった事の不安と因縁をつけられるのが嫌でキッドは冷や汗を流し必死に否定した。
出来るだけ下手に、控えめに自分は偉くないと言いたかった。
「俺より1ミリでも目立つ奴は気に入らない」
かなりストレートな表現だった。
敢然たる態度でデビイは言い放った。
いかにもクラスのボスと言う感じだ。
「……」
唖然とした。
しかし戦慄とわずかな怒りがキッドに芽生えた。
何て自分中心で挑発的だろう、と。
「今度の魔法闘技、俺とお前で当たる。その時を楽しみに待っていろ」
とにかくデビィの言い方は容赦がなく無駄な事を言わない。
相手に反撃の隙を与えない。いや気持ちまで削いでしまう。
だが怒鳴らずに太い言い方をする。太い強く響く感じで口をあまり動かさない。
口と言うトンネルから響くようだ。
それが冷酷さ、固さを現している。
しかしそこへウィムが来た。
「何、何のさわぎ」
デビイはウィムを見て冷酷に言った。
「引っ込んでいろ」
まさに「お前に用はない」だった。
対等な関係とみていない。
いや存在が邪魔とでも言いたげだ。
「何だと何様のつもりだ」
ウィムは怒ったが完全に無視していた。
その頃、人間界で大翔はグランに色々と話した。
「スパルダスの手下たちが来た?」
「多分そうです」
大翔は先日の件を話した。
「大丈夫かい本当に?」
「それが、背中やけどしましたが少し治ってます」
「えっ? 治った?」
大翔は背中をさすり言った。
「何ででしょう」
「いや、わからない」
「そうですか」
気になっているようだった。
グランの話はスパルダスの件に移った。
「あいつ、魔晶結界で寝てたくせにやけに仕掛けが早いな」
「あれだけやりましたからね」
グランは立ち上がった。
「よし、僕がすぐにでも行って」
「そんな! グランさんは今力が無いんでしょ?」
グランはかなり本気で今にも部屋を出て行きそうだった。
やはり大翔が襲われた事に危機感を感じているようだ。
少し大翔の気持ちを振り切るように言った。
「しかし僕が行かなければ、大翔君を狙って来たと言う事は、僕を狙ってくるかもしれない。そうしたら他の人が巻き込まれる」
「でも今の状況じゃ」
大翔も必死に身を案じた。
グランはどうすべきかわからない様だった。
「でもここにいたらいたで別の人が襲われる」
「勇気の剣はないんでしょ?」
「うん」
それを聞いて肩を落とした。
「もう少し休んで回復して下さい。気分転換に遊びに行くのもいいかも」
「そんな、僕には遊びに行く暇なんて」
「いや行きましょう」
大翔はなるべく楽しい気持ちになるようにした。
外に出て大翔はグランに自転車を紹介した。
グランは文化に戸惑い恐る恐る触った。手が震える。
自転車を触るのに手が震える人はいないが。
「これ、自転車って言うの?」
「そうです」
グランは早速大翔に教わりながら腰をかけ乗って見せたがすぐ倒れそうになった。
「あっあっ」
上手くいかない。
「えっこれ乗ったら倒れちゃうけど」
「速く走ってバランスを取るんです」
「よっと、あれ?」
中々うまくはいかなかった。
グランの年で初めて自転車にのる人はあまりいないが。
「走れるようになると楽しいですよ」
「難しい」
その後2人はスーパーに夕食の買い物に来ていた。
「スーパーって言うんだここ」
グランにしては珍しく戸惑いオーバーにキョロキョロ見回した。
「はい、ここなら大体の物が買えます」
グランは置いてある商品を見まわし驚いた。
「すごい、何て便利なんだ。僕の時代は農業や狩りをしたりしていた。魚とか切っておいてあるんだ」
「はいパックに入ってます。お米売ってるんですけど。すぐ炊かせます」
「これはなに」
「あっ、冷凍食品って言ってすぐ出来るんですよ」
帰ってきた2人は母親と夕食を食べた。
グランは控え目ながらも味わって食べた。
「とてもおいしいです。本当にありがとうございます」
「いえいえ」
母親は謙遜した。
大翔は不意に言った。
「今度遊園地行かない?」
「遊園地って何?」
グランが遊園地を知らない事に母親はぎょっとした。
「えっ?」
「あーいや、こっちの話」
その後大翔の部屋でまた話し合った。
「大翔君はすごい力が残ってて発動した。それは何だろう」
「グランさんもわかりませんか」
「うーん、僕の時代に『いざという時だけ力が出る魔王』何ていなかった。あっごめん魔王何て」
「じゃあ、僕は一体なんなんだ。怪物とかなのかも」
大翔は肩を落とした。何ものでもない様で不安な感じである。
大翔の「怪物とかなのかも」と言う言葉が重かった。
グランはなだめた。
「あ、そんなに考えこまないで」
「魔王でも人間でもない?」
しかし、さらに大翔は不安な眼をする。
「あっまだ分からないから突き詰めて考えないで」
グランは大翔が自己存在に悩まないようにしようとした。
「あと僕この家の子供じゃないから出て行かなければならないです。本当の子供がどこかにいるかもしれないから」
深刻な、雰囲気になった
「1人で考え込むな、キッド君でも誰でも良いから相談するんだ」
「すみません。グランさんもこれからどうするか悩んでるのに」
珍しく、冗談混じりにいった
「まあ、行き場所が無かったら土管ででも暮らすよ」
「勇者が土管て」
「僕は全然かまわない」
「腰が低いっすね」
少し大翔の気持ちがほぐれた。
大翔は冗談を言ったグランの気持ちを察した。
「僕は元々貧乏な生まれさ」
「それがどうして勇者に?」
「お告げがあった」
「ええ」
「それを信じたんだ」
「信じられるのってすごい」
「君も剣の中の僕の声を信じたじゃないか」
「そ、そうですね。何か神様みたいで」
「うれしいなあ」
グランは笑顔を心がけた。
「グランさん、今度遊びに行きましょうよ。家にいるだけじゃつまんないでしょ」
「そうだね、この時代は面白いものいっぱいありそうだ」
「僕は今度キッド君達に会いに行きます」
「そうか、東ミランドの偉い人たちに会えば何かわかるかもしれない」