表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/166

横断歩道の覚醒

 学校からの帰り道の歩道では、とぼとぼ冬の寒風を背負って歩く大翔の横を、白くなる息を切らしながら隊列を作った運動部の少年たちが駆け抜けた。


 大翔はそれにあまり気づかない、と言うより今の大翔はかなり物思いにふけり周りの景色もさほど関心の対象物にならなかった。


 道行く人、建物、看板、植木、道、ガードレール、車道の車の音、バス停、駐車場、ゴミ捨て場、ガレージ。それらがもやもやした考えが邪魔して頭に入ってこなかった。


 なぜか。

彼は多くの事で悩んでいた。


 自分は真崎家の人間でない、では親はいるのか、真崎家に本当の子はいるのか、自分は家にいて良いのか、スパルダスの動向は、そして自分にあった魔王の力はどうなったのか。三夫やグランはどうするのか。


「つい先日、冥王やスパルダスと殴りあいやったんだよな。もうそんな力なくなったのかなあ」

しかしある疑問が大翔にあった。


「戦いの最後、グランさんの援護でマジックフィールドを出した時、マジックバリアは僕が覚えた物だからともかくなぜ体の中に大量の魔力があって、さらにそれを増幅出来たんだろう」


 大翔は自分はいったい何者なのかと言う気持ちを込めて手の平をじっくり見ていた。

もしかしたらもう1度あの力が戻ってくるのではと言う願いもあった。

願望でもあった。魔王の力を使った時は確かに怖い感情はあったが。


 しかし、そんな大翔のどっぷり自分の内面にひたる物思いを吹き消すように叫び声が聞こえた。

「きゃああ!」


「何だ!?」

いきなりの叫びに大翔はとっさに振り向いた。


 この命が危ないと感じさせる悲鳴は大翔のもやもやした考え事の世界を切り裂いた。


 悲鳴の方を見ると1人の老婆が何と横断歩道の途中で転んで腰が抜けたのか、そのまま動けず起き上がれない姿勢で横断歩道にいる。


 あれでは信号が青になれば車が来てしまう。


「大変だ!」

この事態は大翔の無関心さ、もやもやを全て吹っ飛ばした。

「助けなければ!」


 その頃老婆は怯えて腰砕けになっている。

大翔は「自分しか助ける人がいない」と言う気持ちになった。

別人の様に体に力が入った。

体が熱い。これは義侠心だろうか。

何故か自分しかいないと。


「おばあさん、危ないっ!」

大翔はふいに道へ飛び出してしまった老婆を助けようと思わず道に出て行った。

すぐわかるよう大きな声を出した。


 しかし老人であるため車をよけるために突き飛ばすわけにいかない。


僕が盾になるしかないのか、と大翔は思わず腕を前に出し車を止めるような恰好をした。


 もうだめだ。

確かに大翔は死を覚悟した。


 その瞬間、大翔の手が光った。


「あ、ああ!」

と車の運転手も光に気づいた。


「こ、これは!」

大翔は思わず前に出した手で何と車を受け止めた。


「え、えええ!」

当然、車の運転手はひっくり返りそうなほどの衝撃を覚えた。この世の出来事ではないような。


 勿論車道前の歩道にいる人たちは何だ何だとたちまち集まり騒ぎになった。

「えっ? 子供が車を止めた?」

「まっさか! 急ブレーキが間に合ったんだろ?」


 大翔は車が止まった中、とっさの判断で老婆を担いで車道から出て歩道に出、老婆がお礼を言うのも聞かず一目散にその場から去った。

騒ぎになるとまずい。


 一体どうしたんだ?僕の魔王の力はなくなったはず、と思いながら走った。

「貴様もモストチルドレンなのか!」

とスパルダスの言葉が思い出された。


 本当に一目散に駆け出した。

ところがまたも大翔の無心は打ち消された。



「な、何だあれ!」

がやがやと道行く人たちが空を見上げて指を指している。

その言い方は確かにこの世でほぼ未確認な生き物対するような言い方だった。



 大翔が振り向くと空には数匹の空飛ぶ悪魔、ガーゴイルがいた。

「あ、あいつらスパルダスの手下?」


 さらにがやがやは大きくなった。

「な、何なんだあいつら?」

「ほ、本物の悪魔?」


 キイイと言う声と共にガーゴイルは非常に意地悪そうな目つきで嘲笑うような目つきで目撃した人間達を見た。大きな避けたような口が意地悪な笑いに拍車をかけている。

「ギ、ギギギ!」


「な、何だあいつら何か喋ってるのか?」


 大翔は気づいた。

「危ない! 皆ふせてっ!」


「えっ?」


 しかし主婦らしき女性は大翔の忠告を聞く間もなく、ガーゴイルの手から出した火の弾で焼け死んだ。

「ああ!」


 大翔は絶句した。

「きゃあああ!」

平日の昼間、主婦が多い歩道は悲鳴でパニックになった。


 逃げ惑う主婦ら女性たちを嘲笑い楽しむかの様にガーゴイルたちはその様子を見ていた。

「皆さん、にげてっ!」


 大翔は大きな声で叫んだ。その声がガーゴイルたちに響いた。

「ギイイ?」

まるで「逃げろなんて余計な事を言うな」と言うような目つきを大翔に向けた。



 大翔に指先を向け詠唱しようとした1匹を何故かもう1匹が制止した。

そしておもむろに怯え腰が抜けそうな40代女性めがけて火の弾を放った。


「危ないっ!」


 大翔は女性に覆いかぶさりかばったが、火球がさっき直撃した女性に比べたら少しそれたが、火を背中に食ってしまった。コンロの中に体を突っ込んだ感覚だった。


「うああああ!」

大翔は悲鳴を上げた。

「うう、さっき車を止められたからもしかして僕の体には特殊な力がと思ったけど駄目だった。僕は力を失ってしまったんだ」


「う、うう」

女性は動こうとした。

「ダメです動いちゃ! あいつらに狙い撃ちされます!」


「で、でも!」

「僕がかばいます!」

また手から火の弾を撃った。


「ぎゃあああ!」

図に乗った他のガーゴイルたちは女性には目をくれず大翔だけ集中砲火しようと数匹で2、3発と火球を撃った。その全てが大翔に命中して行った。


 大翔は熱さにのた打ち回った。服が燃えている。当然体も。

「ぎゃあああ! あ、熱い! この世のものとは思えないぐらい熱い! 地獄だ!」

「ギイイ!」


 さらにガーゴイルは火球を容赦なく大翔に浴びせた。


 またも大翔は地獄の苦しみに悶えた。

拷問の様だった。

大翔は絶望し意識が薄れた。

「も、もう駄目だ、一度は魔王の力を手にしたけど、僕は特殊な人間じゃなかった。真崎家の本当の息子じゃないから真相を知りたかったけどもう駄目だ」


 スパルダスの声が聞こえた。

「真崎大翔は死んだか。よし、次にグランを殺す前に見せしめに隣にいる女を殺せガーゴイル!」


 ガーゴイルはそれに答えた。

「ギイイ!」

「きゃあ!」


 その時大翔は何かに起こされるように立ち上がった。

「うおお!」

「ギイイ?」


 さすがのガーゴイルも大翔の異変を見て怪訝な顔をし空で立ち止まった。

その立ち止まったガーゴイルに大翔は指差し叫んだ。

「はああ」

大翔の目つきが初めて魔王覚醒した時のそれに変わった。


 大翔は叫んだ。7

「超雷撃!」


 すると天から激しいいなずまがガーゴイルたちに向けて複数本降臨し、焼き尽くした。


 大翔は自分の手を見つめ冷静半分、興奮半分で思った。

僕の体は一体?

 


   



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ