勇者の重い攻撃
「うおおお!!」
スパルダスはたけり狂った。まるでグランに挑発されたように。
これまで見せた事のないような、獣の外見そのものの激しい闘争本能と逆上した感情むき出しの表情と動きでスパルダスはグランに殴り掛かった。
しかし、凄まじい気迫だがはたから見ると隙があるように見える。
そういう印象もあった。
今までほとんど動かず隙がなかった戦い方をしていたのに対し、感情むき出し体の動きも大振りで明らかに大味な攻めだった。
誰の目にもスパルダスの変化は明白だった。
確かに気迫はすごくパンチもすごい威力だが、どこか隙が見える。
認めたくないものを認めなければいけないようで逆上したような。
誰の目にも焦っているようだった。完全に頭に血が上り冷静さを失っている。
一方グランはほとんど動かず片手でグランの突進しながらの凄まじい威力の拳を受け止めた。
グランはスパルダスの攻撃と動きを止めた。
スパルダスは受け止められた拳を払う事が出来ずそのまま固まっていた。
力で抑えられただけでなくショックで体が動かないようだ
スパルダスだけでなくそれは見たもの全てに衝撃を与える絵図だった。
皆が騒いだ。
「う、受けた!」
「あれが勇者」
そしてグランは受け止めた事に呆然としているスパルダスに叩き込むように、ボディに腹を貫かんばかりに突き抜けるようなあまりに重い鉄拳を放った。
スパルダスよりずっと細い腕である。
ドス! と地震の様な音が部屋に響く。
「ぎゃあああ!」
スパルダスの先ほどまでの無表情ぶりとはあまりに違う痛がり方だった。
目と口を大きく開け腹から今にも何か吐き出しそうなほど痛がった。
今までは全てガードで受け流していたが。
皆騒然となった
「あのスパルダスの表情が! 本気で痛がってる」
「か、か、か」
スパルダスは殴られた腹を押さえている。
「うおうっ!」
吐き気さえ催した。
しかしスパルダスはひるみながらも空いた反対の手でまた大振りのパンチを撃った。
しかしこれも皆にパンチの軌道が読まれそうな攻めだった。
威力自体はすごいのだが。
「大振りになってる。簡単に避けられる」
と皆に思われていた。
これもグランは受け止めて見せた。表情をほとんど変えていない。
「くおお!かっ!」
悔しがり焦るスパルダスの腕をグランは取り懐に入るや何と背負い投げをした。
投げ飛ばされるスパルダス。
「ぐおお」
「な、投げた、スパルダスを」
「あの怪物を」
皆呆然としている。
その時魔王たちは相談をしていた。
「今だスパルダスを攻撃しよう」
「いやあいつは東ミランドの勇者、我々の敵では?」
「ど、どっちと戦えばいいんだ。」
一方スパルダスが狂乱のごとく何発パンチを撃ってもグランは全て受け止めかわした。
「うおお!」
そしてグランは相手の力を利用し何発も前方に浴びせ倒した。
何回も転がされた。
この失態についにスパルダスは逆上した。
「ゆ、ゆるさん。貴様だけは絶対に、ゆるさーん! 私を封印したどころかプライドをずたずたに傷つけた!」
スパルダスは突然、両手で頭をつかみ、何事か顔を左右にひねり出した。
首の関節の回転範囲を超えている。
皆何事かと皆注目した。
するとスパルダスはすごい力で自分の頭を上方に思い切り引っ張った。
何と自身の力で自分の首をもぎ取った。
「ええええ!」
すると、なくなった頭部の下の首からは炎のような実体があるようでない顔とその中の目玉のない鋭く大きい悪鬼の様な吊り上った白目がでてきた。
まさに霊体と呼ぶにふさわしい、暗闇で轟々と憎しみを燃やす炎の様な真の頭部を現した。
いや炎のみでないまるで氷が燃えているような「白い炎」の様な顔となった。
そして口が般若の様に開いた。
全てを笑い呑み込むような口だった。
すると体は外側のみ白い毛が多くはえ雪男の様に霊長類的になった。
「なにあれ?」
「霊王の真の姿なのか?」
「ふ、ふははは! これが私の真の姿だ、驚いたか、せっかく拝見できたお前たちはすぐに死んでもらう!」
突如予期せぬタイミングでスパルダスは皆に広範囲な波動を放った。
「ぐわああ!」
皆強力な衝撃を受け吹き飛ばされた。
「ふん、客席へのあいさつ代わりだよ。指を鳴らした程度だがな」
グランは危険を察しスパルダスに呼びかけた。
「やめろ! 攻撃対象は私だけにしろ。他の人を攻撃するな」
スパルダスは表情は変わらずとも怒り心頭だった。
「だまれ! そいつらはゆるさん!」
「マジックバリア最大全開! ハイパーフィールドアタック!」
大翔が立ち上がりマジックバリアを出した。