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孵化

 



 亀裂が走り、漆黒の卵が粉々に砕け散った。


 まるで硝子板を蹴破った様なけたたましい音。

 どろりと粘り気のある黒い液体が、べちゃ、と床に落ちた。



「なんだ……!?」



 ケッパーとメリアは剣を振るいながら、音の鳴る方へと視線を走らせた。


 床に落ちた液体は、どろどろと蠢いている。


 どろり、どろり。


 それはまるで見えざる手によって捏ね回されているように、徐々に形を作っていく。


 黒の液体はやがて、粘土で作った様な出来損ないの胎児の姿を現した。

 表面はツルツルと光沢し、ある種の芸術的な造形物の様に曲線的な姿だ。


 ぎょろり。

 顔の部分に当たるところから鮮やかな血色の瞳が見開いた。


 そして絶叫。


 ふわふわと浮遊する出来損ないの漆黒の胎児が、産声を上げた。

 産声は黒の波動となって大気を震わせ、人の耳を侵した。


 それは、餓鬼の魔物にとっても同じ事。


 胎児の絶叫を耳にした餓鬼は、皆悲鳴を上げ、その場に這い蹲った。

 いや、それは果たして悲鳴なのか、這い蹲ったのか。

 それは新たな神の誕生に咽び泣く狂信者が傅いている様にも見える。


 胎児の産声は、止まらない。


 人も、魔物も、その悍ましい絶叫に全てが膝を着いた。


 やがて、餓鬼はその産声に耐えられない。

 ポップコーンが弾ける様に一匹、また一匹と頭が弾け飛んだ。

 連鎖する様に、餓鬼の肉が爆発し、辺りに臭気が漂う。



「なんだ、あれは……」



 誰かが、そう呟いた。

 餓鬼の死体が、黒霧となったのだ。

 黒霧は意思を持ち、胎児の元へとそよ風に吹かれて飛んでいく。


 それはやがて、胎児を包む繭へと変貌した。

 繭は胎児を大事そうに抱え、包み、閉じ込めた。



 しん……と、時が止まった様に沈黙が流れる。



 黒繭に包まれ、暫しの眠りが胎児に訪れた。


 セレティナは、ごくりと喉を鳴らした。


 繭は胎動している。


 奴が、出てくる。




 やがて繭が解れ出す。


 一本の絹糸をするすると解かす様に、黒繭が解けていく。

 それはとうとう、姿を現した。



「出たか……」



 セレティナは、下唇を噛んだ。



 繭から現れたのは、胎児ではない。


 恐ろしく美しい漆黒。

 女性的な流線を描いたそれは、セレティナと同じくらいの身長か。


 顔に当たる部位には、ぎょろりと蠢く八つの瞳を有している。


 異様で、歪な存在感が、その場を支配した。


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