セレティナ・ウル・ゴールド・アルデライト②
エピローグ的な
秋が終わりを告げている。
窓の外の中庭を彩っていた黄金色の落葉はさっぱりと無くなり、裸を晒した木を眺めるエルイットは小さく息を吐いた。
秋は良かった。
南瓜や栗、銀杏などが取れ、たわわに実った葡萄の収穫祭は最高の一言だった。エルイットは垂れる涎をぐいと拭うと、大好物であるがもうありつく事のできない秋の実りに思いを馳せる。彼女は若鮎もかくやという未だうら若き乙女であるが、何分花より団子を好んだ。
「……いけない。急がなくちゃ」
エルイットは緩んだ頬をぴしゃりと叩くと、表情を引き締めた。しょうもない食べ物の妄想で仕事を疎かにしている場合ではない。
品の良い漆黒のメイド服に身を包んだエルイットは晩秋の寒さにぶるりと身を震わせながら、永遠とさえ思われる長い廊下をひたすらに歩いていく。
「失礼します」
目的の部屋に立ち止まり、幾許かの緊張と期待を孕みながらエルイットは恭しく扉を開いた。部屋に入ると、何度も見たはずのその聖画のような光景に思わず息を飲む。
……はずだった。
「あれ?セレティナ様?」
エルイットはきょろきょろと辺りを見回すが、自分が仕えるべき美しき乙女の姿は其処には無い。
ベッドの上の毛布は丁寧に畳まれており、使われた形跡はどこにもない。
暖炉の火種も、随分と前に鎮火しているようだった。
「お嬢様はどこに……あら」
ふわり、と。
ペレタの香が鼻腔を擽る。
窓際に置かれたポプリが華やかな香を放っていた。
エルイットは吸い寄せられるように窓際へ向かうと、思わず目を細めた。
窓の外にはバルゲッドがイェーニスに、今日も相変わらず剣の稽古をつけている。
そしてその傍ら。
メリアがセレティナに剣を教えていた。
側に控える療母は、まるでガラス細工を見るかのようにセレティナをハラハラと見ている。
「良かったですね、セレティナ様」
エルイットは微笑んだ。
やはりこの暖かな家に仕えることができて良かった、と。
そんな思いを秘めながら。
第1章完結です
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