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真理の証明

本日書籍第2巻が発売されました

何卒宜しくお願いします


活動報告にてリキテルやユフォなど、主要キャラクターのキャラクターデザインを一挙公開しておりますので是非お立ち寄り下さいませ



透り抜ける。



あやされるなんてものではない。


リキテルに操られる巨剣を、セレティナの一本の細身の剣が完全に制御している。


リキテルはデジャヴを感じていた。

この、辿り着けないと本能で体感する経験。

彼はかの王国最強である騎士団団長ロギンス・ベル・アクトリアと僅かな間手合いしたことがある。


結果は、惨敗。


対外的に見ればいい勝負には見えたことだろうが、リキテル自身が完全な敗北を実際には体感している。技と速さに自信はあったが、王国最強の突き崩せぬ堅牢さ、実際に本身の刃で対峙すれば『破壊』されるという抗えぬイメージ。


まるで大海だった。

得物二本で、大荒れの海に挑む。

そんな途方もない強さを見せつけられた。



そんなリキテルが今セレティナに抱くイメージは、”現実感がない”ということだ。



まるで魔法。

今まで磨き上げた技術、魂を売ってまでつけた力が衰え、自分が赤子か老人の様になってしまったようだった。


自分の動きの起点を抑えられ、或いは振り抜いた剣の軌道を簡単に逸らされ、自重を操られ、転ばされる。


見た目は美しい少女であるのに、中身がかの大英雄オルトゥス。

分かってはいても、現実感がない。

そもそもあのオルトゥスとてリキテルとそう違わぬ人間の筈だ。


なのに、これだけ肉体の規格スペックが違うというのに、これだけの開きがある。



セレティナの操る剣の切れ味は、尻上がりに上がっていく。

ピウッ! と甲高い音を奏でる度に、剣身の輝きが増していく。



一度では傷一つ付かない堅牢な黒鎧が、悲鳴を上げ始める。

同じ個所に、何度も何度も斬りつけられてはまたその軌道をなぞる様に次がくる。




――雨垂れ石を穿つ。




リキテルの鉄壁に、罅が入り始めた。


ここまで。ここまで力を身に着けても追いつけない。

リキテルは悟った。

自身の弱さを、そして殺されるのだ、ということを。


……ならば、最後まで。



「おおおおおおおおおおおおッ!!!!」



吠える。

吠えて、巨剣を振り回す。

死ぬのなら、前のめりに。

これほどの強者に敗れるのなら、是非も無し。


たったの一発もまともに入らない己の剣技。

乾いた笑いを押し殺して、前へ、只管前へ。


烈風を連れた一撃一撃がすかされる度に、辺りの地形が変わっていく。

家屋は瓦解し、石畳は粉々に吹き荒ぶ。


悍ましい威力の、連続。

それを易々と躱し、往なすセレティナ。


動きは最小限。

のらりくらりと体を左右に揺らして、強烈な鞭のような一撃を加えていく。


強固な鎧に守られたリキテルにダメージはない。しかし次第にその蓄積をありありと感じ始める。




……結果は、すぐに出た。




セレティナの小柄な体が懐に入り込み、下段から上段に鋭く斬り上げた。鋭利な音が序で鳴り、亀裂が遅れてやってくる。


闇を凝縮した胸鎧が、ずるりと分かたれた。


定規で直線を描いた様な、見事な切断面。



リキテルの生身が露出した。

『エリュティニアス』の行く手を阻むものは、もうない。



「リキテル……」



群青色の瞳が、鈍く閃いた。

覚悟を決めた、瞳の光。


セレティナは『エリュティニアス』を上段に構えた。後は、振り下ろすだけ。


振り下ろすだけで……。




「…………」




“死ぬ”



晒された心臓。

両の巨剣はいなされ、上体は無防備を晒している。


リキテルは、刹那の間に全てを思考し……そして覚悟を決した。


自らの死を。

敗北を。




















……しかし、決着の一撃はやってこない。


これだけの空白ならば、セレティナの御業があれば十度はあの世にいけた筈なのに。


一撃の代わりにやってきたのは、カシャン……という軽い音。


見れば、セレティナが『エリュティニアス』を手放している。手離れたのではなく、彼女自身の意思で手放されている。


セレティナはリキテルの顔をしっかりと見据えて、




「……止めだ」




そう、確かに言った。

力強く、しかしほとほと疲れたと言わんばかりに。


リキテルの胸中に過るのは、困惑。


彼の心の内を読んだかのように、セレティナは言葉を続ける。



「勝負はついた。もういいだろう」


「え……?」



やはりリキテルは困惑した。


大切な人間を奪った側と奪われた側。

そんな分かりやすい対立構図の決着が、奪われた側からの停戦の申し出。彼の価値基準でいえば、有り得ない。



「……おい、いいのかそれで」


「いい」


「狂ってんのかテメェ」



リキテルは胸倉を掴んだ。

セレティナの軽身はそれだけで容易く浮き上がる。



「悔しくねぇのか、怒りがねぇのか、心がねぇのか……英雄ってのは正義の為……くだらねぇ説教垂れる為にそこまで自分を殺すのかよ」


「…………」


「復讐は道理だ!! 憎しみの連鎖はこの世の真理だ!! ぶっ殺されるから、先にぶっ殺す!! 大切なものを略奪されたから、されるから、ぶっ殺す!!! 誰にも殺されない為に力を得る、強者になる、弱者にならない、それが世界だろうがよ!!!」




セレティナは、リキテルを見据えている。

憐むような、悲しむような、慈しむような、そんな瞳で。真っ直ぐに見据えている。


リキテルの告白を間に受けてなお怯まず、淀まず、その怒りを真正面から受け止めている。





「ならば俺の首を刎ねてみろリキテル・ウィルゲイム」





セレティナは、そう告げる。





「この俺、オルトゥス……セレティナ・ウル・ゴールド・アルデライトの首を刎ねてみろ!! 俺は逃げない、俺は抵抗しない。 お前が望むものが真理なら、俺の命をもって証明してみせろ!!!」









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