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十二月十三日(2)

『十二月十三日』

 もうすぐクリスマスということもあってか、早朝だというのに商店街全体が浮かれているようだった。

 あちこちの店がクリスマスの飾り付けをし、独特の雰囲気をかもし出している。

 横目でサンタやらトナカイやらを見ながら、僕は寒さで背中を丸くし、白い息を吐き、早足で商店街を抜けるのだった。

 寒さにめっぽう弱い僕はまるで浮かれられない。

 何故うちの高校はコートが禁止なのだろうか……冬の間この校則を作った人間を欠かさずに恨むのが僕の日課となっていた。

 週間予報が告げる明日からの寒波に気持ちは沈むばかりである。

 さらにどうあがいても学校へは遅刻確定である。

 浮かれようが無い。           

 腕時計に目をやる。            

 もう予鈴が鳴る頃だ。          

 商店街を抜け、しばらく歩くと学校が見えてくる。

 学校の校門を抜けると、校庭に人だかりが見えた。

「あ、今日は朝礼か……」                                    

 朝バタバタしていたので完全に失念していた。

 カバンを教室に置くこともなく、そのまま自分のクラスの列の一番後ろに滑り込んだ。                    

 校門から校庭まで全力で走ったので息が上がった。日ごろの運動不足を思い知らされる。

 深く息を吸い込むと鼻の奥が痛い。    

 かといって、息を吸い込まないと息苦しい。

 まさに負のスパイラル。         

「珍しいな、蒼太、お前が遅刻するなんて」 

 話しかけてきたこいつは孝一。四ヶ月ほど前から、ちょこちょこと話をするようになったクラスメイトだ。

 僕の学校生活において、僕と関わりのある登場人物は少ない。

 同級生だった幼馴染が遠いところに転校してしまい、今では孝一が唯一話をする友人だった。  

「そっちはいつも通りだね。こっちはちょっと事故が起こっちゃってさ」   

 出席番号順に並んでいるはずなのに、あ行のこいつがこんなに後ろにいるのはおかしい。

 そんな友人に僕は指に巻いた絆創膏を顔の前にかざした。

 遅刻したせいで朝礼の議題が何かわからないが、校長先生が何やら話し始める。

「我が校に在籍する一橋 春江さんが昨夜亡くなられました――」

 真っ先に頭をよぎったのが自殺。

 そして次に今朝のニュース。

 僕の中で和月の言っていた言葉が真実味を帯びてきた。

 帰ったら疑ったことを謝っておこう。

 そう心に決めた時、一学年下の隣の列から言葉が聞こえた。

 在校生の死亡にざわめき立つ校庭だったが、その言葉だけが何故かはっきり聞こえた。

「あの子……そんな名前だったの……」  

 そんな言葉だった。

 何の変哲も無い言葉だというに不思議と耳に付いた。

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