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十二月十二日(6)

 何度も瞬かせた瞼の中にある眼球が傷を確認し脳が認識したその瞬間に、筆舌にしがたい痛みが少女を襲った。

 獣じみた人語を解さない唸り声が漏れる。

 少女の右腕はすでに人の腕ではなかった。

 手首から肘の上まで幾重にも折りたたまれ、使い切られた歯磨き粉のチューブのようだった。もう二度と爪を噛むことは出来ないだろう。

 ばしゃん、と水風船を叩きつけるように血が撒き散らされる。外灯に飛び跳ねた血液はゆっくりと重力にしたがって地面に垂れ、何本もの赤い線になった。

「ゆ、ゆ、許、し/」

 白夜は少女が最後まで発言することを許さない。

「もう片方」

 白夜の細い指先が少女の左腕に触れる。

 数秒と経たずに左腕は右腕と同じような運命を辿った。

 少女は言葉にならない言葉を吐きながら逃げ出すが、両腕が無いせいか、出血が酷いせいか、恐らく両方の理由で数メートルも走らないうちに転ぶ。

 当たり前のように顔から着地し、顔が砂まみれになる。

 その表情は奇しくもアパートで少女に暴行を加えられ床に転がった後の白夜と同じように見えた。

 芋虫のようにうごめくが起き上がることはない。

 首だけ回し斜め後ろを向く。

 人形のように表情を変えない白夜が立っていた。

 白夜は少女の足首を掴んだ。

 ばきり。

 べきり。

 がちり。

 砕ける音が三度。一度目よりも二度目、二度目よりも三度目、砕ける音は大きくなっていく。

 地面の砂が血液を吸い、一瞬湯気を上げた。

 何度も何度もこの一瞬が重ねられていく。

 何度も何度も命を吸い上げていく。

 もう片方の足を触る。

 はみ出る白骨。

 腹を触る。

 姿を晒す臓腑。

 顎を触る。

 噴出する歯の破片。

 頭を触る。

 脳漿がはみ出し、眼球が飛び出る。

 もう少女は動かない。

 確かに少女はツいていた。ただし憑いていたのは死神だったが。

 白夜と同じ制服を着た――色白――繊細――人型だった少女。

 何度も少女の身体が折られ、破砕され、人型を過去のものにする。

 少女の原形は留めていない。ただのぬらぬらとした血と肉の塊だった。

 もう白夜は動かない。

 前衛芸術のようになった少女を見下ろして、白夜は肩をすくめる。

「なんだ……鶴にはならないんだ……」

挿絵(By みてみん)              

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