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今日だけは特別

作者: 鮮花

久々に二人の休みが重なった。完全週休二日制の、ありふれた事務仕事をしている祥子と、和食のファミレスで店長をしている啓太は、付き合っているものの、ここ2か月殆ど顔を合わせていなかった。元々休みの少ない飲食店勤務でサービス残業は当たり前、おまけにこの4月から昇進して、啓太は店長になった。人手不足で猫の手も借りたいくらいだよ、と笑う啓太は忙しそうだが、後輩社員やバイトから頼られるのが嬉しくて仕方ないようで、たまに届く職場での出来事を面白おかしく綴ったLINEは祥子を安心させた。


昨日も遅くまで仕事をしていたらしい啓太から連絡があったのは、レンタルショップで借りていたDVDを観ていた時だった。どうせ翌日も休みだからと1シーズン分まとめて観ていたのは、最近流行っているらしい探偵モノの海外ドラマ。どうしても種がちょっと多くなる、インスタントのポップコーン片手に、ダボダボのルームウェアでソファーに沈んでいた祥子は、突然隣で響いた通知音に飛び上がった。経験上、こんな時間に入るメッセージなんて、酔った同僚が送ってくる上司の愚痴か身内の不幸くらいだ。おそるおそる画面をスワイプすると、目に飛び込んできたのは「明日休みになった」「あ、もう今日か」という短い文面。急に取れた休みにわざわざ外で会うのも疲れるだろうと、祥子の家でだらだら過ごすことに決まった。


今日は啓太の好きな野球チームのデイゲームがある。東京生まれ東京育ちのくせに、試合の時は高校時代に甲子園で買ったという少しくたびれた黄色のユニフォームに身を包み、ヘンテコな関西弁でテレビに野次を飛ばす。何年も横で観戦しているにも関わらず野球はさっぱりわからない祥子だが、いつか一緒に甲子園で試合観たいなあ、と試合後に啓太がこぼす度に半分本気、半分冷やかしで、そうだねえ、と返すのが習慣になっている。

習慣と言えば、二人の間で野球観戦とポテトフライは常にセットだった。祥子の部屋、行きつけの居酒屋、啓太の実家、野球を観る場所が変わっても、啓太はいつもポテトフライを食べたがった。時間がたって少ししんなりしたポテトフライに、ちょっと多めにケチャップをつける。遠慮してあまり食べない祥子に向って最後の一本を差し出すようになったのはいつからだったろう。


一人暮らしで面倒だからと揚げ物はめったにしないことにしていたが、今日だけは特別、とつぶやいて、近所のスーパーへ行くべく、祥子は立ち上がって伸びをした。

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