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あノ神ハキミ。  作者: はるかわちかぜ
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Word.3 神トナル日 〈1〉

 言ノ葉町三丁目。町の小さな八百屋さん、『あさひな』。

「ん、んん~っ…」

 二階の一室では、朝比奈家の末っ子・アヒルが、今日も気持ち良さそうに眠っている。

「きょ…巨峰っ…」

「じゃんじゃじゃ~んっ!お父さん!今日も朝っぱらから大登場ぉぉっ!!」

 いつものように意味不明の寝言を発しているアヒルの部屋へ、勢いよく扉を開いて乱入してくる、朝比奈家のヒゲ親父。その手には、左右に数個ずつ、紫色の鮮やかなナスビを持っている。

「必殺ぅぅ~!ナスビクラァーッシュっ!!」

「ブフっ!」

 父の投げ放ったナスビが、眠っているアヒルの顔面へと、見事にヒットする。ナスビの衝撃に、気持ち良さそうだったその表情を、一気に歪めるアヒル。

「どぉ~お~?アーくん、起きっ…!」

「水っぽいわぁっ!!」

「ぐほぉぉぉうっ!」

 目覚めた様子で顔面を押さえていたアヒルが、素早く立ち上がり、明るく話しかけて来た父の腹部へと、回し蹴りを喰らわせる。口から何かが出てきそうな程に苦しげな声を漏らして、腹を抱え、その場にしゃがみ込む父。

「お父さんっ…ギブ…アップっ…ぐふっ」

「アップでも何でもしてろっ」

 力なく首を傾ける父に、素っ気ない言葉を吐いて、アヒルがティッシュを手に取り、顔についたナスビの水分を拭う。

「だいたい俺が呼んだのは、巨峰だってのっ」

「だから父さん、ナスビをっ…」

「色しか合ってねぇーだろうがっ!」

 ひっそりと訴える父に、アヒルが勢いよく怒鳴り返す。

「あぁ~!もういい!んなことやってたら遅刻しちまう!えぇ~とっ…!あっ…」

 学校へ行く準備をしようと、机の方を振り向いたアヒルが、不意に動きを止め、眉をひそめた。アヒルの見つめる先、机の上に置かれているのは、一つの小さな赤い玉。


―――五十音士、“五神”の一人…“安の神”…―――


「夢じゃ…ねぇーんだよなっ…」

 机の上の言玉を見つめながら、確かめるように、呟くアヒル。

「んん~?何々~?アーくん!悩みなら、お父さんにドッパァーンとっ…!」

「うるせぇっ」

「ぐほぉぉぉうっ!」

 父の腹部に、もう一度、アヒルの蹴りが入った。



 数分後。朝比奈家・居間。

「ううぅ~…ううぅ~…」

 居間では、でかでかと横たわった父が、赤く腫れあがった腹を出し、悲しげな表情で呻き声を漏らしていた。

「はい…湿布…」

「ううぅ~!痛い痛い痛い!」

 ツバメが出ている父の腹に、乱雑に湿布を貼りつけると、父は苦しそうに声をあげた。

「もっと優しく貼ってよぉ~ツーくぅ~んっ」

「優しく…?難しい…」

「つーか朝っぱらから、息子に重傷負わされてんじゃねぇーってのっ」

 嘆くように訴える父に、戸惑うように首を傾げるツバメ。台所から居間の様子を覗いていたスズメが、呆れきった表情で言い放つ。

「はぁ~!やべやべっ!」

「あ、おはよう…アヒル君…」

「おはよっ!ツー兄!」

 二階から勢いよく降りて来たアヒルへ、ツバメが挨拶を向けると、アヒルも笑顔で挨拶を返した。そのまま倒れている父を素通りして、アヒルが台所へと駆け寄っていく。

「スー兄っ、朝飯ぃ~っ」

「飯の前に、おはようだろうがっ」

 台所へと顔を出したアヒルに、スズメが口を尖らせ、注意をする。

「おはようございます。で、飯っ」

「ったく…」

 挨拶をした後、すぐに右手を差し出すアヒルに、スズメが呆れたように肩を落とす。

「ほらよっ」

「あっ?」

 そう言ってスズメが、差し出されたアヒルの右手のひらの上に置いたのは、オレンジ色も鮮やかな、一本の人参であった。置かれた人参を見て、アヒルがしばらくの間、固まる。

「俺は馬か…?」

「しゃーねぇーだろぉ?米もパンもねぇーんだから。お前なんか、まだいい方だぞぉ?俺なんかパセリだっ」

 パセリを片手に、しかめた表情を見せるスズメ。

「僕、ニンニク…交換する…?アヒル君…」

「いえ、結構です」

 ニンニクを片手にトレードを持ちかけてくるツバメを、アヒルがすぐさま拒絶する。

「確かに人参が一番、マシかも…」

「おはようございまぁーす」

「んあっ?」

 店の通用口の方から聞こえてくる声に、まじまじと人参を見つめていたアヒルが振り返った。

「紺平っ」

「おはよう、ガァっ」

 まだ閉まっている店の中を通り、居間の入口へとやって来る紺平。驚いたように見るアヒルに、紺平は笑顔で挨拶を向けた。

「あれ…?紺平君…今日は風紀委員いいの…?」

「無遅刻強化月間が終わったんで、今日からは普通の時間に登校できるんですよ」

 ニンニクを持ったまま問いかけるツバメに、紺平がすらすらと答える。アヒルの幼馴染みというだけあって、ツバメも紺平のことはよく知っている様子であった。

「そういや紺平っ、お前、昨日どこ行ってたんだよっ?」

「うぎっ!?」

 台所から居間へと出て、思い出したように問いかけるスズメに、アヒルが焦ったように背筋を立たせる。

「そう言えばそうだったね…昨日、おばさんから電話あったけど…」

「それが俺もよく覚えてないんですよねぇ。眠りこけてた俺を、ガァが家まで運んでくれたって聞いて…」

「アヒルがぁ?」

「うげっ!」

 スズメとツバメから同時に視線を向けられ、アヒルがますます焦った表情となる。

「俺もガァに昨日のこと、聞こうかと思っ…」

「さぁ!とっとと学校行こうぜぇ!紺平!遅刻しちまうぅ~!ハッハッハっ!」

「あっ…!ちょっ…!ガァっ!」

 無理やりな笑みを浮かべながら、紺平の言葉を力強く遮り、居間から出て靴を履き、通用口の方へと歩いていってしまうアヒル。そんなアヒルに、紺平は焦ったようにスズメたちに一礼をして、慌ててアヒルの後を追っていった。

「何だぁ?あいつ」

「さぁ…?ん…臭い…」

 首を傾げるスズメに、ツバメはニンニクを食べながら答えた。




「ねぇっ、昨日、俺、ホントに道端で寝てたの?」

「あ、ああぁ~!そうだぞぉっ?お前のおばさんから電話来て探しに行ったら、たまったま寝てるとこ、見つけてなぁっ!」

 後ろから問いかけてくる紺平に、何やら必死に答えながら、その必死さを隠すために、右手の人参を、貪り食うアヒル。

「何で道端でなんか寝てたんだろ…俺っ…」

「さ、さぁなぁ~!ね、眠かったんじゃねぇーのぉっ?」

「何か、帰り道からの記憶が曖昧でさぁ…」

 人参を貪るアヒルの後ろで、大きく腕組みをし、首を捻る紺平。

「けど、誰かと話してたような気がするんだよねぇ」

「夢じゃねぇーの!?夢っ!」

「夢、かなぁ…」

 アヒルの言葉を受け、紺平がさらに首を捻る。

「何かぁ…ガァにも会った気がするんだよねぇ」

「ゲホゲホゲホっ!」

 紺平の口から自分の名が出ると、人参を食べていたアヒルが、勢いよくむせる。

「おぉ~い!朝比奈っ!」

 そこへ現れる、例のサングラスを掛けたアニキ率いる、ヤンキー集団。

「今日という今日はコッテンパンのパンパンジーにっ…!」

「だっから夢だってっ!」

「やっぱそうだよねぇ…だって昨日のガァ…」

 勇ましいアニキの言葉を完全に無視して、話を続けるアヒルと紺平。

じゅうってたもん」

「ぐぷっ…!?」

 紺平の言葉に、アヒルがその場で足を止める。

「覚悟ぉぉ!朝比奈っ…!!」

「アッハッハッハッハァ~っ!」

「ぐぎゃあああ!」

 大きな笑い声を発して、向かって来たアニキを、軽く突き出した拳で吹き飛ばしながら、アヒルが嘘臭いほどの満面の笑みで、紺平の方を振り返る。

「そりゃ完全夢だなっ!俺は一般市民だぜぇ?なのにそんな、じゅ、銃って!アッハッハっ!」

「そ、そうだよねぇ~!ハハハっ!」

「う、ううぅ…」

 何やら楽しそうに笑い合いながら、何事もなかったかのように道を進んでいくアヒルたち。二人の去った道に、力なく転がる、アニキが一人。

『ア…アニキっ…』

「うるしゃいっ…何も言うな…」

 憐みの視線を向ける子分たちに、アニキはそっと呟いた。



「それでその夢さぁ、鉄格子みたいなの振り回す男の子と、横笛吹いてる女の子も出てきてさぁっ」

「ハハハ…ハっ…」

 まだ昨夜見た夢についてを延々と語っている紺平の横で、ひたすらに引きつった笑みを浮かべているアヒル。紺平には、忌のことや五十音士のことを知られるわけにはいかない。忌に取り憑かれていたので、記憶もそう残らないだろうと篭也たちは話していたが、饒舌に語る紺平に、アヒルの心は冷や冷やものであった。

「それでねぇっ」

「おっはよぉ!バカガァっ!」

「グハっ!」

 紺平が話を続けようとしたその時、アヒルの後頭部に、アヒルたちの学校の鞄らしきものが勢いよく激突し、アヒルが前のめりになりながら、潰れたような声を漏らした。

「ガァ?」

「痛ってぇ~っ…」

 驚きの表情を見せた紺平が、アヒルに駆け寄る。アヒルは少し膝を曲げて、痛々しく後頭部を抱え込んだ。

「何すんだよっ!?」

 頭を押さえたまま、顔をしかめ、アヒルが勢いよく振り返る。

想子そうこっ!」

「あらっ?よく私だってわかったわねぇっ」

 アヒルが振り返った先には、アヒルたちの学校の制服を纏った、ショートヘアの、いかにも活発そうな少女が立っていた。怒鳴るように名を呼ぶアヒルに、想子と呼ばれた少女は、軽い笑みを浮かべる。

「わかるに決まってんだろ。朝っぱらから、こんな非常識なことする奴が、他にどこにいるってんだよっ」

「私は非常識なんじゃないわ」

 しかめた表情を向けるアヒルに、想子は堂々と胸を張る。

「ちょっとお転婆なだけよ」

「そんなカワイイもんかよっ!」

「おはよう、想ちゃん」

「んっ?」

 口を尖らせるアヒルの横から、紺平が顔を出し、想子へと笑顔を向けた。

「あらっ?紺平、今日は遅刻取り締まりないわけ?」

「うんっ。強化月間終わったからね」

「何だぁ。遅刻記録更新して、すんごい罰ゲーム喰らうガァが見たかったのに」

「仮にも幼馴染みに対して、お前なっ…」

 見るからに残念そうな顔をする想子に、アヒルは怒鳴るまでもいかず、呆れきった表情を見せる。

「想ちゃんが一人で登校なんて、珍しいね。いつも奈々ななせさんと一緒に来てるのにっ」

「はぁっ?」

「えっ?」

 眉間に皺を寄せ、大きく首を傾げる想子に、話を振った紺平が戸惑い、目を丸くする。

「んん~っ」

「想ちゃん…?」

 後方を振り返り、何やら探すように周囲を見回す想子。そんな想子の様子を、アヒルと紺平が不思議そうに見つめる。

「はぁっ…」

 一つ、深々と溜息を吐くと、想子は後方へと回れ右して、すぐ近くにある電柱の後ろ側を覗き込んだ。

「で、あんたは、そこで何してるわけ?ナナっ」

「えっ!?」

 電柱の裏側に、身を縮め、隠れるようにして立っているのは、想子と同じ制服を着た、少し茶色がかった、舞いた感のある長い髪に、くりくり大きな瞳の、愛らしい少女であった。想子に顔を覗き込まれ、少女が焦ったように、背筋を立たせる。

「あっ…そのっ…朝比奈クンがいて、驚いちゃって、つい電柱の後ろに引き寄せられたっていうかっ…」

「はぁっ…あんたねぇ…」

 もじもじと両手の人差し指を合わせながら言う少女に、想子が呆れたように頭を抱える。

「そんなんじゃ、いつまで経っても、ただのクラスメイトのままよっ?ほらっ!」

「あっ…!」

 想子に無理やり腕を引っ張られ、少女が電柱の裏から、道の真ん中へと出される。慌てる声を出した少女に、少し前の方に立っているアヒルと紺平の視線が集まった。

「あれっ?やっぱり一緒だったんだ。おはよう、奈々瀬さんっ」

「お、おはよう、小泉クン」

 笑顔で挨拶を向ける紺平に、奈々瀬と呼ばれた少女も笑顔で挨拶を返した。紺平に挨拶を返した後、奈々瀬がゆっくりと、その横に立つアヒルへと視線を移す。

「お、おおおおおおはようっ、朝比奈クン!今日も絶好のカラス鳴き日和だねっ!」

「あっ?あ、ああ…そう、か?」

 妙に力んだ声で、言葉を震わせながら、よくわからない朝の挨拶を見せる奈々瀬に、アヒルが少し首を傾げながら、返事をした。

「ねぇ~!見たぁ~!?さっきの人!」

「んあっ?」

 道の先にある学校の正門の方から聞こえてくる女生徒の声に、奈々瀬に首を傾げていたアヒルが、ゆっくりと振り返る。アヒルにつられ、紺平や想子たちも皆、正門の方を見た。

「超カッコ良かったよねぇ~!転校生かなぁ~?」

「えぇ~!?どこのクラスなんだろぉ!?」

 正門の前では、頬をほんのり赤く染めた二人の女生徒が、目をキラキラとさせながら、テンションの高い様子で、元気良く話している。

「転校生っ?」

「こんな時期に珍しいな」

 首を傾げる紺平に、アヒルは特に興味なさそうに答えた。




 午前八時三十分。一年D組 (アヒルたちのクラス)。

「おらぁー、とっとと席着けぇ」

 今日もやる気のない様子と乱雑な言葉で、担任の恵が教室へと現れた。

「席着かねぇー奴は、チョーク三十本、口ん中にぶっ込むよぉっ」

「だから怖ぇって」

「んっ?」

 生徒たちが皆、大人しく席に着いていく中、突っ込むように返って来る言葉に反応し、教壇に立った恵が顔を上げた。

「おう、朝比奈トンビ。朝からいるなんて、珍しいなぁ」

「朝比奈アヒルだってのっ…」

 相変わらず名前を間違える恵に、大声で自分の名を叫ぶことも恥ずかしいので、ひっそりと呟くアヒル。呟きながら窓側の前から二番目の、自分の席へと着席する。

「お前、いいタイミングだよ。今日に限って、来てるなんざっ」

「はっ?」

 椅子に座ったアヒルが、恵の言葉に首を傾げる。

「今日からウチのクラスに二人、転校生が入る」

「転校生?二人?」

「おい、入れっ」

 アヒルが眉をひそめる中、恵が横を向き、教室の前扉の方へ向けて言い放つと、閉まっていた前扉が開き、廊下から、制服を着た二人の人間が、教室へと入って来た。

「んなっ…!」

 その入って来た二人の転校生を見た途端、アヒルが大きく目を見開く。

「転校生の、神月篭也です」

「同じく、真田囁です」

 アヒルの学校の制服を纏い、何食わぬ顔で教室へと入って来て、自己紹介をしたのは、篭也と囁であった。

「んなぁぁぁっ!?」

 二人を指差し、大きな声をあげて、勢いよく席から立ち上がったアヒルに、クラス中の視線が集まる。

「なっ…!ななななななんっ…!」

「何だぁ?朝比奈、知り合いかっ?」

「へっ!?」

 驚きに唇を震わせていたアヒルが、恵の言葉に、一気に焦った表情となる。

「ガァ、知り合いなの?」

「へぇ!?」

 後ろの席に座る紺平から問いかけられ、さらに焦りの表情を見せるアヒル。

「何か俺もあの二人、会ったことあるようなっ…」

「し、知り合いなわけねぇーだろぉ!全然、知らねぇーよっ!他人だ、他人!アハハっ…!」

「ああっ?」

 紺平にどこか必死に言いながら、大人しく席へと着くアヒルに、教壇の恵が眉をひそめる。

「まぁいい。仲良くしろよぉー、お前ら。席は後ろの二つだ。どっちがどっちでもいいから、適当に座れ」

『はい』

 転校生に対する教師の態度としては、かなり雑だが、そんな恵の言葉に、篭也と囁は素直に頷いて、教室の一番後ろに設けられた、二つの空席へと向かっていく。

「神月クン、前はどこに住んでたのぉ~?」

「スポーツ、何かやってたっ?」

「お家はどこなのぉ~?」

 席に着いた篭也に、周囲の女生徒から、早速、質問が飛ぶ。

「あぁ~あ…あいつにんなこと聞いたって、無駄な問いかけをするなとかって言われるだけで…」

「前は、ずっと北の方に住んでました。スポーツは特にやってませんでしたが、家は言ノ葉町ですよ」

 前の席から、こっそりと頭を抱えていたアヒルの予想とは裏腹に、昨日では考えられない程の爽やかな笑みを浮かべた篭也が、丁寧に女生徒たちの質問に答えていく。

「わからないことばかりなので、色々と優しく教えて下さいね、収穫間近のチェリーガールさんたちっ」

『きゃあああああ!』

「何だっ!そりゃああっ!」

 歯の浮くような台詞を吐いた篭也に、あまりにも腹が立ち、女生徒が悲鳴にも似た歓声をあげる中、再び席から立ち上がったアヒルが、振り上げた右足を一気に下ろし、自分の机を砕き割った。

『…………』

「あっ…」

 机の砕き割れた音に、騒がしかった教室内が、一瞬で静まり返る。その静けさに、気まずそうな顔をするアヒル。

「なぁ~にをしてるのかなぁ?ええ?朝比奈」

「あ、えぇ~っとっ…」

 恵に刺すような視線を向けられ、アヒルがさらに顔を引きつる。

「いやぁ~、今、ここに蚊がっ…」

「ほぉー、お前の家では、蚊を踵落としで退治すんのかぁ?」

「え、ええ…先祖代々っ…」

「そうか…」

 歯切れの悪いアヒルの答えに、ゆっくりと頷く恵。

「罰として放課後、国語資料室の掃除なっ」

「えっ!?」

 恵の言葉に、アヒルが大きく顔を歪める。

「フフフっ…」

「はぁ…」

 そんなアヒルを見て、そっと微笑む囁と、呆れた様子で溜息を吐く篭也。

「何やってんだかっ、バカガァはっ」

「……?」

 呆れたように呟く想子の後ろの席で、奈々瀬はアヒルを見つめながら、少し戸惑うように、首を傾げた。



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