Word.17 神試験スタート 〈2〉
再び、遊園内。
『ぱんぱかぱぁ~んっ!ではこれより、神試験のルールを説明させていただきまっすぅ!』
イクラの前へと出て、アヒルたちとイクラたちの間に入るように立ったチラシとニギリが、きれいに声を揃え、アヒルたちへ向けて、ルール説明を始める。
「ルール紹介を行うのはっ、このボク、チラシとぉ~!」
「この私、ニギリでっすぅ~!」
軽く片足を上げ、ポーズを決めるチラシとニギリ。
『こんな二人はぁっ、ただの他人っ!』
「だから紛らわしいってのっ」
「とっととルール説明を始めろ」
ばっちりポーズを決める二人に、アヒルと篭也が冷たく言い放つ。
「ルールは至ってシンプルでっす」
「我々、以団と勝負をして、安団が勝った場合は合格、我々が勝った場合は不合格となります!」
「その勝負というのは…?」
『それは今から説明いたしまっすぅ!』
鋭く問いかける囁に、二人がすぐさま声を揃える。
「皆さま、言玉をお持ちでしょうか?」
「言玉っ?」
チラシの問いかけに、アヒルが目を丸くする。
「当たり前だろう。言玉を持ち歩くのは、五十音士の常識でっ…」
「あっ、良かったぁ~。ちゃんと持ってきてた。忘れたかと思ったぁ~」
「…………」
強い口調で言い放とうとした篭也であったが、ポケットから取り出した言玉を見て、どこかホッとした様子で肩を落とす保に、それより先の言葉を呑み込んだ。
「他の皆さまも、言玉をお出しいただけますか?」
「所持されているか、確認を行います」
「確認っ?」
首を傾げながらも、アヒルが制服のポケットから言玉を取り出す。アヒルに続くように篭也、囁、七架の三人も皆、同じ真っ赤な言玉を、その手のひらの上へと出した。
『確認いたしました』
チラシとニギリが、同時に大きく頷く。
「では我々も」
「面倒いなぁ~っ」
以団の方を振り向くニギリに、金八が嫌そうな顔を見せる。
「金八、消えろ、消え去れ、消えてなくなれ、カス」
「泣くぞぉ!?俺、泣くぞぉ!?シャコ!だいたい全部、消えろ系だしぃ!」
相変わらずの様子で騒ぎながら、金八とシャコがそれぞれ、服の中から青色の言玉を取り出す。ルール説明を行っていたチラシとニギリも、スーツの胸ポケットから、同じ青色の言玉を取り出した。
「神」
「……っ」
チラシに促されるように名を呼ばれ、イクラが黒服の懐から、ゆっくりと青色の言玉を取り出す。
「みんな、青い…」
「言玉の色は、団で共通なのよ…」
ふと気付いたように呟く七架に、囁がそっと説明をする。
「これで我々全員の言玉も、確認していただけたかと思います」
「ではこれを」
「んあっ?」
ニギリがアヒルへと、丸い穴の五つあいた、青いプレートのようなものを差し出した。両手でそれを受け取り、軽く持ち上げて、不思議そうにプレートを見るアヒル。
「何だぁ?これ」
「相手側の団から奪った言玉を、収納する用のプレートです」
「えっ?」
「奪う…?」
チラシの言葉に、アヒルと篭也が同時に表情を曇らせる。
『はい。皆さまには今から、我々以団を相手に、言玉争奪サバイバルを行っていただきまっすぅ~!パフパフ!』
「言玉…争奪サバイバルっ…」
繰り返しながら、囁もそっと眉をひそめる。
「奪い方は自由です。騙すなり、話し合うなり、ジャンケンするなり」
「ジャンケンて…」
「勿論、力ずくで奪うことも可能です」
『……っ』
どこか強調するように言い放つニギリに、アヒルたち五人が、同時に険しい表情となる。
「このプレートに、相手側の言玉をすべて、集めることが出来た団が、勝ちとなります」
「神、これを」
「ああ…」
チラシがイクラへ、アヒルが持っているものとまるで同じ形で、色だけが赤く異なっているプレートを差し出す。イクラはゆっくりと手を伸ばし、そのプレートを受け取った。
「何個か奪われていても、こちらが五つ奪えば、勝ちということか?」
『はい。先に何個奪われようとも、先に五つ、言玉を集めた団が、勝ちとなります』
篭也の問いかけに、チラシとニギリが息ぴったりに答える。
『ご理解いただけましたでしょうか?安の神』
「へぇっ?」
『えっ…』
まるでわかっていない様子で首を傾げているアヒルに、今まで冷静だったチラシとニギリが初めて、困ったような表情を見せる。
『あ、あのっ…』
「いい。我が神には、こちらで追々説明する」
「そうね…言葉のいっぱい並んだ説明を聞いても…どうせ、アヒるんは理解できないだろうし…フフフっ…」
『は、はぁ…』
篭也と囁に言われ、どこか呆れた様子で頷くチラシたち。
「とりあえず、ダイヤモドンドンを守ればいいんですよねぇっ!」
「あなたは黙っていろ。耳触りだ」
「んんっ!」
気合いを入れて言い放った保であったが、篭也に本気で睨みつけられ、謝り散らすこともなく、口を押さえ込む。
『会場はこの遊園内すべてです』
「この遊園内、すべて…」
大自然広がる、ドームいっぱいの遊園を眺め、少し考えるように呟く囁。
『はい。そして、この遊園内にはすでに、我々以団が仕掛けたトラップが、いくつも張り巡らされておりますので、ご注意下さい』
「トラップ?」
「注意するくらいなら…トラップなんて仕掛けないでいてほしいものだけど…フフフっ…」
二人からの注意に、少し顔をしかめる篭也たち。
「制限時間はありません。どちらかの団が、五つの言玉を奪い終えた時点で、この試験は終了となります」
「ただし、団全員が試験続行不可能の状態となった場合は、言玉の数によらず、続行不可能となった団の負けとなります」
「続行不可能って…」
説明を聞きながら、七架が少し不安げな表情を見せる。
「力押ししてしまえば…言玉サバイバルなんかしなくても、勝つことは出来るということね…フフフっ…」
「結局はそういうことか」
微笑む囁の横で、険しく眉をひそめる篭也。
「では我々は、遊園内に散在し、配置につきますので」
「試験開始は十分後です。その間の作戦会議などは、ご自由にどうぞ」
説明を終え、軽く一礼すると、チラシとニギリがその場から下がり、イクラの両隣に立つ金八とシャコの横へと並んだ。
「では…」
五人の中央に立ったイクラが、ゆっくりと口を開く。
「健闘を祈る」
イクラのその言葉を合図とするように、以団の五人はその場を飛び去り、遊園の奥へと姿を消した。入口付近に並ぶ安団の五人のみを残し、急に辺りが静まり返る。
「“健闘を祈る”って顔じゃなかったよなぁ、どう見てもっ」
「そうね…どちらかというと、“どっからでもかかってこいや”って顔に見えたわ…フフフっ…」
「ふっはぁ~っ、怖かったぁ~」
「う、うんっ…」
しみじみと呟き合うアヒルと囁の横で、保と七架がホッとしたように胸を撫で下ろす。
「遊園内での、言玉を賭けたサバイバルか…」
「フフ…楽しそうっ…」
「暢気でいいな」
本当に楽しげに微笑む囁に、篭也が呆れた視線を送る。
「俺、ジャンケン強ぇーから、意外とあっさりいけっかもなぁっ」
「はぁ!絶対最初にパー出しちゃう、わかりやすい俺ですみませぇ~んっ!」
「んな致命的なこと、大声でバラすなよっ!」
「…………」
あれこれと言い合っているアヒルと保の様子を見つめながら、そっと目を細め、厳しい表情を見せる篭也。
「ジャンケン勝負なんて、仕掛けてくるかしら…?」
「間違っても来ないな。奴等は力ずくで奪いに来る。確実にな」
「もしくは…力ずくで、私たち全員を試験続行不可能状態にしに来るか…かしらねっ…」
「……っ」
囁の言葉に、曇る篭也の表情。
「そ、それって…」
二人の話を横で聞いていた七架が、さらに不安げな表情となって、二人へと何か言いたげに身を乗り出す。
「大丈夫…以団は五団一、好戦的って有名な団だもの…こうなることは、想定内よ…フフっ…」
不安げな七架を安心させるように、囁がそっと微笑みかける。
「それに…そう簡単に奪われてあげるつもりも、やられてあげるつもりもないし…フフフっ…」
「ああっ」
囁の言葉に、篭也が大きく頷く。
「相手が力ずくで来るというのなら、こちらも力ずくでいってやるさっ」
篭也が遊園の奥を見つめ、鋭い表情を見せる。
「んあっ?」
遊園内に鳴り響くブザー音に、保とあれこれ話していたアヒルが、戸惑うように顔を上げる。
<十分経ちました。神試験、開始。神試験、開始>
「すっげぇなぁ。放送まで入んのかぁ」
「“安の神やられました”とかも放送入るのかしらね…」
「不吉なこと言うなよっ」
「フフフっ…」
ブザー音の後に流れる無機質な女性の声に、感心していたアヒルであったが、縁起でもないことを言う囁に、少しその表情をしかめた。
「で?どうするんだ?神」
「作戦会議するようなこともねぇし、とっとと行っちまうかぁっ」
「まぁ、そう言うとは思ったが…」
特に緊張した様子もなく、散歩にでも行くような軽いノリで言い放つアヒルに、呆れたように肩を落とす篭也。
「でも私も神に賛成ね…作戦なんか練ったって、通用する相手な気がしないもの…」
「まぁな」
「じゃあ決定だな!」
囁の言葉に頷く篭也を見て、アヒルが明るく声をあげる。
「よぉーし!じゃあ早速!安団、出撃開っ…!」
―――パカっ…!
「へっ?」
アヒルが遊園の奥へと一歩、足を踏み出した途端に、大きな音を立てて、アヒルの足の下の床が開く。
「あっらぁぁぁっ!?」
突然開いた床から、真っ逆さまに下へと落ちていくアヒル。
「あ、朝比奈くん!?」
「アヒルさんっ…!」
慌てて開いた床付近へと駆け寄り、アヒルの落ちていった床の下を覗き込む七架と保。だが、床の下は遥か先まで続く落とし穴となっており、遠くの方にかすかにアヒルの叫び声が響いているだけで、もうアヒルの姿は見えなかった。やがて、叫び声も聞こえなくなる。
「あ、朝比奈くん…」
穴を見下ろし、茫然とアヒルの名を呟く七架。
「あらあら…早速、罠に掛かっちゃったみたいね…フフっ…」
「相変わらず、間の抜けた神だ」
「そ、そんなこと言ってる場合っ!?」
「そうですよぉ!」
楽しげに微笑む囁と、冷静に言い放つ篭也の、まるでアヒルのことを心配していないその態度に、七架と保が、どこか非難するように声をあげる。
「アヒルさんが地底世界で、ちょっと獰猛なモグラ星人さんと、お友達になったらどうするんですかぁ!?」
よくわからない危機感を持って、強く主張する保。
「はぁっ!ろくに人間の友達もいない俺なんかが、モグラさん批判しちゃってすみませぇ~んっ!」
「いいから、とりあえず黙れ」
ワンパターンで謝り散らす保に、篭也が嫌気がさした様子で、冷たく言い放つ。
「そう心配する必要はない」
「えっ?」
はっきりと断言する篭也に、七架が少し首を傾げる。
「我らが神は確かに阿呆ではあるが、無能ではない」
『……っ』
その言葉は、まるでアヒルを強く信頼しているような、そんなようにさえ思え、他の三人は皆、少し驚いたように篭也を見た。
「ん?どうした?」
「いいえ…随分、丸くなったものだと思って…フフフっ…」
見つめる皆に、篭也が怪訝そうに首を傾げると、囁がそっと微笑みを向ける。
「馬鹿なことを言うな。とにかく神のことは神に任せるとして、僕たちは何としても、先に相手の言玉を…」
『そぉ~れっ!』
「……っ!」
その時、遊園内から聞こえてくる、きれいに揃った二つの声に、篭也が言葉を止め、表情を険しくした。
「構えろっ!来るぞ!」
『えっ?』
叫びながら言玉を取り出す篭也に、保と七架が戸惑った表情を見せる。
「“散らせ”っ!」
「クっ…!」
「うわわっ!」
言葉とともに、遊園上空のドームの天井から、まるで滝のように、大量の水が一気に降り落ちてきて、一箇所に固まっていた四人が、左右へと分かれて避ける。
「“滲め”っ!」
「きゃあっ!」
「うわああっ…!」
降り落ちてきた水が、保と七架の体を呑み込むように広がっていき、水に包まれた二人が、滝のように流れる水の一部と化して、遊園の奥へと勢いよく流れ込んでいってしまう。
「奈々瀬!高市!」
「こっちにも来るわ、篭也っ」
「クっ…!」
流れていく二人に思わず身を乗り出す篭也であったが、残った篭也と囁にも、大量の水が迫り来ており、篭也は厳しい表情で、右手の言玉を掲げる。
「第六音“か”、解放っ…!」
篭也の言玉から、赤い光が放たれた。
遊園内、原始の森地点。
「早速始めやがったなぁ、チラシとニギリっ」
耳を立てながら、遠くの方から聞こえてくる水音を捉え、そっとその口元を緩める金八。原始の森に囲まれた広場の中央には、大きな岩があり、その上にイクラが腰掛け、イクラの傍に金八とシャコが並んで立っていた。
「あいつら、ちゃんと獲物残しといてくれっかなぁ~」
「ふぅ…」
「んあっ?」
金八が心配するように言っていると、シャコが金八の横から歩を進め、広場の出口へと歩き出した。そんなシャコに、金八が首を傾げる。
「何だ、もう行くのかぁ?シャコっ」
「うん…あんたらと居ても、つまらないし、空気悪い…」
「泣くぞぉ!?俺っつーか、神が泣くぞぉ!?シャコっ!」
相変わらず、小声で毒を吐くシャコに、金八が今にも泣きそうな表情で喚く。
「じゃあ行って来る…神」
「ああ…」
喚く金八を無視し、イクラへと軽く声を掛けるシャコ。ゆっくりと頷くイクラの姿を確認すると、シャコはそっと目を細め、そのまま原始の森の広場から去っていった。
「さぁ~てっ」
泣きそうな顔を見せていた金八が、不意に鋭い笑みを作り、上空のドームを見上げる。
「こっからサバイバル開始だぜぇ?安団っ」




