表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あノ神ハキミ。  作者: はるかわちかぜ
55/347

Word.14 新たなル試練 〈4〉

「ふぅ~っ」

 五人がいなくなり、ホッとしたように一息つくアヒル。

「ああ、何か疲れっ…」

「何を勝手なことばかりしているっ!?」

「うわっ!」

 ホッとしていたところに、至近距離から放たれる怒声に、アヒルが驚き、思わず胸を押さえる。

「な、何っ…」

「神試験などっ、まだ言葉もロクにない、熟語イディオムも使えないあなたが受けて、受かるはずがないだろうっ!?」

「うっ…」

 責め立てるように怒鳴る篭也に、アヒルが少し顔をしかめる。

「そ、そんなのやってみなけりゃ、わかんねぇーだろっ!?」

「やってみてからでは遅いから、言っているんだ!」

 負けじと言い返すアヒルに、篭也がさらに怒声を浴びせる。

「まぁまぁ、二人ともぉ~っ」

『引っ込んでろ!』

「うぅ~っ」

 止めようとした為介であったが、二人に睨みつけられ、あっさりと挫折する。

「雅くぅ~んっ」

「情けない声、出さないで下さい。吐き気がします」

「がぁ~んっ!」

「旧世代の神の名が泣くわね…フフフっ…」

体を丸め、落ち込んでいる為介を、冷たい言葉を投げかけ、さらに落ち込ませる雅。二人の様子を横から見つめ、囁がそっと微笑む。

「まぁまぁ二人とも…」

 為介と同じように、今度は囁が二人を止めに入る。

『だから引っ込んでっ…!』

「黙らないと…すんごい手を使って、黙らせるわよ…?」

『…………』

 不気味に呟く囁のその言葉に、あっという間に静かになるアヒルと篭也。

「おおぅ、止まったぁっ」

「フフフっ…」

 感心するように言う為介に、囁が得意げに微笑む。

「す、すんごい手って…知りたいような、知りたくないような…」

 囁の言葉の意味を考えながら、アヒルが複雑そうな表情を浮かべる。

「もう試験は受けることになっちゃったんだし…今更グダグダと言い争っても仕方ないでしょう…?」

「それはそうだがっ…」

 宥めるように言う囁に、篭也があまり納得のいっていない様子で俯く。

「だが、それにしたって…」

 篭也が表情を険しくし、先程のイクラの言葉を思い出す。


―――まぁ、成り損ないのお前が附いているような神、試験などしなくても、実力も知れるがなぁ―――


「あんな安い挑発でっ…」

「あそこでアヒるんが、挑発に乗って銃ぶっ放さなくても…試験は受けることになってたと思うわ…」

「えっ…?」

 囁の言葉に、篭也が戸惑うように顔を上げる。

「私が挑発に乗って、以の神をぶん殴ってただろうからっ…」

「……っ」

 そっと微笑む囁に、篭也が驚くように、大きく目を見開く。

「だろぉ?やっぱムカついたよなぁ?あのイクラちゃんっ」

「ええ…食べ物のイクラも嫌いになりそうなほどに、イラっとしたわ…」

「…………」

 深々と頷き合っているアヒルと囁を見ながら、どこか浮かぬ表情のまま唇を噛み締め、両拳を握り締める篭也。

「まぁ色々言ってたって仕方ないってぇ!前向きに行こうよぉっ、前向きにぃ~!」

「あ、居たんだっけ?」

「雅くぅ~ん!」

「僕の名前、呼ばないで下さい。吐き気がします」

「がびぃ~んっ!」

 皆に明るく声を掛けようとした為介であったが、アヒルに存在すら忘れられており落ち込み、雅の言葉でさらに落ち込みを深くする。

「そういや扇子野郎、あんた、あの以の神と知り合いでっ…」

「まぁ、今考えるべきは、三日後の神試験だよねぇ~」

「へっ?」

 アヒルの言葉を遮るように、すぐさま落ち込みから立ち直った為介が、話題を変える。

「どういう試験内容かは知らないけど、今の朝比奈クンの実力を考えるとっ…」

「えっ…?」

 為介が真剣な表情で、まっすぐにアヒルを見つめる。

「まぁ、まず無理だろうねぇ~っ」

「そうですね。百パー、無理です」

「うっせぇ!んなに思いっきり言い切るんじゃねぇっ!」

 あっさりと言い放つ為介と、為介の言葉に何度も頷く雅に、アヒルが思わず怒鳴りあげた。

「ま、まだ三日あるんだ!三日間、みっちり辞書読んで、言葉探せば何とかっ…!」

「そうねぇ…それもいいけれど…」

「その前に、まずはメンバー集めだろう」

「へっ?」

 耳に入る篭也の言葉に、目を丸くするアヒル。

「三日で二人を見つけるのか…厳しいな」

「試験は団単位って言ってたものねぇ…やっぱり揃ってないと、失格かしら…?」

「えっ…?」

 さらに続く二人の会話に、さらにアヒルが間の抜けた表情となっていく。

「も、もしかして安団のメンバーって、全員揃ってねぇのっ!?」

「ええ…今居るのは、ここに居るこの三人だけよ…」

「つまり、太守と奈守は誰かもわからない上に、五十音の力にも目醒めていない可能性があるということだ」

「ま、まじっ…?」

 二人の言葉を聞き、引きつった表情となるアヒル。

「お、俺…てっきり、もう居るもんだとっ…」

「だからやめろと言ったんだ」

「まぁまぁ…もう仕方のないことなんだから…フフっ…」

 がっくりと肩を落とすアヒルに、強い口調で投げかける篭也。そんな篭也を宥めるように、囁がそっと笑う。

「三日で二人か…確かに厳し過ぎかもっ…」

「そう悲観することもないよぉ~」

「へっ?」

 落ち込むように呟いていたアヒルが、横から聞こえてくる暢気な声に、顔を上げる。

「二人くらい、すぅ~ぐ見つかるってぇ」

 大きな笑顔を見せた為介が、軽い口調でアヒルへと言い放つ。

「また適当なことをっ…」

「ホントだよぉ。その証拠にほらっ」

 呆れたように呟く篭也にもう一度、言い放ち、為介がゆっくりと空き地の入口の方を振り返る。

「“太守”クンなら、もうそこに居るしぃ~っ」

『えっ…?』

 為介の指差した方向を、一斉に振り向くアヒルたち。

「えぇっ!?」

『あっ…』

 空き地を囲う柵の裏から姿を見せているのは、指を差され、ひどく慌てた様子の保であった。

「た、保っ!?」

「あらあら…フフっ…」

 驚くアヒルの横で、囁が不敵な笑みを浮かべる。

「保が何だって、ここにっ…」

「ひえぇ~!一人じゃ道も聞けない俺なんかが、一丁前に皆さんを追って来ちゃってすみませぇ~んっ!」

「はぁ…」

 こちらへとやって来ながら、いつものように叫び散らす保に、アヒルが深々と溜息をつく。

「僕は付いてくるなと言ったはずだが…?」

「いやぁ~、そう言われると、付いて来たくなっちゃうのが人間の心理といいますかっ…」

 冷たい視線を向ける篭也に、保が両手の人差し指を合わせながら、ひっそりと呟く。

「はぁ…?」

「ひえぇ~!そもそも人間として“どうなの?”って感じの俺が、心理とか語っちゃってすみませぇ~ん!」

 ひどく怒っている様子の篭也に睨みつけられ、いつもよりも必死に謝る保。

「まぁまぁ、篭也…」

「それにぃ…この玉のことっ…」

「……っ?」

 囁が篭也を宥めていると、保が急に真面目な口調となり、制服のポケットへと手を入れる。

『あっ…!』

「皆さんが同じ玉を持ってるの見て、何となく気になっちゃってっ…」

 そう言って保がポケットから取り出したのは、赤色の言玉であった。

「こ、言玉っ…?」

「あっ…」

 篭也と囁が驚きの表情を見せる中、前に一度、保がその言玉を落としたところを見ていたアヒルは、あの時のことを思い出し、ハッとした表情を見せる。

「赤い言玉…確かに、ア段の五十音士しか持っていないものだけど…」

「だが、こいつのは、波城灰示のものじゃないのか…?」

 保に聞こえないよう、小声で為介へと問いかける篭也。

「じゃあちょっと、試してみるぅ~?」

「試す?」

「そこの君ぃ~っ」

「は、はいっ!」

 首を傾げるアヒルの横を通り抜け、為介が保へと呼びかける。保は少し怯えるように肩を震わせながらも、大きな返事でそれに答えた。

「名前、なんていうのぉ?」

「た、高市保です!」

「そっかぁ~、高市クンっ」

 聞いたばかりの保の名を呼びながら、閉じていた扇子を広げる為介。

「ちょっと、その玉を握り締めた状態で、朝比奈クンへ向けて、“高い高い”って言ってみてくれるぅ~?」

「へっ?」

「あ、は、はい!」

 アヒルが目を丸くする中、為介の言葉に、とても素直に頷く保。

「ちょ…!ちょっと待っ…!」

「“たかい高い”!」

 アヒルが止める間もなく、右手に握り締めた言玉をアヒルへと向けた保が、大きな声で、その言葉を放つ。すると、保の右手の中の言玉が、強い赤色の光を放った。

「だああああああっ!」

 言玉から放たれた赤い光に包まれたアヒルが、勢いよく空へと上昇していく。

「ぎゃああああああ!」

「ふわぁ…アヒルさんて、空も飛べるんですねぇ」

 空中で叫びあげるアヒルを、不思議に思うこともなく、感心した様子で見上げる保。

「間違いなく“太守”だ…安団、安附の一人」

「でしょぉ?」

 保の言葉が発動したことを確認し、さらに驚いた表情となる篭也に、為介が何やら得意げに笑顔を向ける。

「内に潜む波城は“波守”なのに…不思議ね…」

「彼の両親は共に五十音士で、父親が“太守”、母親が“波守”であったそうです」

 戸惑う囁に答えるように、雅が話し始める。

「太守と波守の力は、血によって受け継がれます。ですから彼には、“た”と“は”、両方の力があるはずなのですが…」

「忌である波城灰示が入り込んだことで、力が二人に分割されちゃったのね…フフっ…」

「んっ?」

 保に聞こえないよう、小声で話す囁と雅に、保が大きく首を傾げている。

「っつーか、とっとと下ろせぇっ!!」

「と、朝比奈君が叫んでいますが、為介さん、下ろす言葉、考えてあるんですか?」

「あっ」

 雅の問いかけに、いかにも、うっかりとした声をあげる為介。

「み、雅くぅ~んっ!」

「僕は知りません」

「いっやぁ~!見捨てないでぇ~!」

「はぁっ…」

 情けない声をあげている為介を見て、篭也が深々と溜息をつく。

「囁」

「ええ…」

 篭也の呼びかけに頷き、囁が右手に持っていた横笛を構える。

「“がれ”…」

 囁の言葉の後に、美しい音色が空き地に響く。

「ふぃ~っ…」

 赤い光に包まれながら、やっと遥か上空から帰還するアヒル。

「助かった…」

「景色はどうだったぁ~?朝比奈クンっ」

「お前、いつかブン殴ってやるっ…」

 陽気に問いかけてくる為介に、アヒルが拳を握り締め、怒りを燃えたぎらせる。

「まぁこれで太守まで揃ったしぃ、良かったじゃなぁ~いっ」

「全然良くねぇーよっ!」

「なんでぇ?」

「なんでってだなぁっ…!……っ」

 アヒルが保を気にするように少し振り返り、為介のすぐ前まで寄っていって、保に聞こえないよう、耳元に口を近づける。

「あいつは親が五十音士だったことも、自分の中に波城灰示がいることも知らないんだぞっ!?」

 必死の口調で、訴えるアヒル。

「第一、 安附として試験に参加させたりなんかしてっ、その最中に波城灰示が出てきでもしたらっ…!」

「頼もしい限りじゃなぁ~いっ、朝比奈クンよりよっぽど、頼りになりそうだよぉ~?彼ぇ~」

「なるかぁっ!」

 暢気に答える為介に、アヒルが勢いよく怒鳴りあげる。

「あいつが出てきた時点で、安団で内輪モメになって終わりだろぉ!?どう考えても!」

「それは言えてるわね…フフっ…」

「だが…」

 微笑む囁に横から、篭也がゆっくりと口を挟む。

「太守があいつである以上…あいつを参加させないと、試験を放棄することになる…」

「うっ…」

 厳しい表情で言い放つ篭也に、思わず顔をしかめるアヒル。

「あ、あいつの他に太守って…!」

「“た”の力は血によって受け継がれるんだよぉ~?高市クンは、天涯孤独っ」

「転校生クンに、急いで子作りさせても…とても三日じゃ間に合わないわねぇ…フフっ…」

「うっ…」

 為介と囁の言葉に、アヒルは反論する力すら失くす。

「はぁ…」

「な、何かよくわかんないけど、俺、頑張りますよっ!アヒルさん!」

 落ち込むように肩を落とすアヒルに、保が必死に明るい笑みを浮かべ、何とか励まそうと声を掛ける。

「ああ!こんなピーマン食べれない俺なんかが、アヒルさんの心配しちゃってすみませぇ~んっ!」

「はぁっ…」

 相変わらずの保の姿に、先が思いやられ、アヒルはさらに深々と溜息をついた。

「とはいえ…転校生クンが太守だったから、見つけるのは後一人ね…」

「ああ。三日で後一人なら、まぁ可能性はなくもない」

 薄く笑みを浮かべる囁に、篭也が冷静に言い放つ。

「後一人、“奈守”か…」

「奈守…」

「朝比奈クンっ」

「へっ?」

 篭也の言った“奈守”という言葉を繰り返していたアヒルが、為介に名を呼ばれ、振り向く。

「周りをよぉ~く見てみることだよっ」

「えっ…?」

 為介の言葉に、アヒルが眉をひそめる。

「附き人は、自然と神のもとに集まるものだ。最後の一人は、もう君の傍にいるかも知れないよっ?」

「もう、俺の…傍にっ…?」




 その頃。言ノ葉高校、一年D組。

「お前が遅刻なんて、珍しいなぁ、小泉っ」

「はぁ…」

 恵の立つ教壇のその前で、浮かない表情を見せているのは、紺平であった。

「どうした?何かあったか?」

「それがぁ…よく覚えてないんですよねぇ。大波に襲われる夢見たと思ったら、道のど真ん中に寝てて…」

「はっ?」

 紺平のよくわからない言葉に、恵が強く顔をしかめる。

「んでぇ?今日は、朝比奈はどうしたぁ?」

「さぁっ…?一緒に登校してたような気もするんですけど…起きたらいなかったし、夢だったのかも…」

「はぁっ?」

 曖昧なことばかり言う紺平に、さらに顔をしかめる恵。

「まぁいい。お前はとっとと座れ。じゃあ出席取んぞぉ!」

「はい」

 浮かぬ表情で返事をすると、紺平が自分の席へと歩いていく。

「相沢!」

「はい」

「朝比奈!は、いないっと…」

 返事が返ってくるはずもなく、恵が出席簿に印をつける。

「これで八日連続…あのクソガキっ、今日という今日は絞め上げてやるっ…」

『ひぃっ!』

 そう言って、右手のペンをへし折る恵に、クラス中の生徒たちが、思わず震え上がる。

「次!磯野!」

「はい!」

 へし折ったペンの教壇に置き、引き続き出席を取っていく恵。

「ガァの奴、まぁ~た遅刻かぁ。懲りないわねぇっ」

 教室の後方の席で、アヒルの幼馴染み、想子が、呆れた表情を見せる。

「うんっ…」

 想子の前の席で、どこか考えるような表情を見せ、そっと頷く、想子の友人、奈々瀬。

「でも、今日は神月クンと真田さんもいないし…お家で何かあったとかかも…」

「そういえば、あのうるさい転校生もいないわねぇ~」

 空席の目立つ教室内を見回し、言葉を交わす想子と奈々瀬。

「奈々瀬!」

「うぅ~ん…」

「んっ?」

 出席を取る恵が、続いて奈々瀬の名を呼ぶが、考え込むように首を捻っている奈々瀬は、それに気づかない。返って来ない返事に、恵が出席簿から視線を上げる。

「奈々ななせ七架ななか!いないのかっ!?」

「あ、は、はいっ!」

 恵がもう一度、大きな声で名を呼ぶと、奈々瀬はやっと気付いた様子で、少し慌てながら返事をした。

「ふぅっ…」

「アハハっ」

「えっ?」

 ホッと一息ついていた奈々瀬が、後ろから聞こえてくる笑い声に、少し振り返る。

「もうっ、笑わないでよ、想子ちゃん」

「ごめんごめんっ」

 口を尖らせる奈々瀬に、想子が軽く笑みを向ける。

「けど、ナナの名前って、フルネームで改めて聞くと、ホント“な”ばっかだよねぇっ」

「何それ、今更っ」

「アハハっ、確かに今更かっ」

 顔をしかめる奈々瀬に、想子がまた笑みを浮かべる。

「もうっ…」

 少し呆れるように前を向き、再び視線を、空いているアヒルの席へと移す奈々瀬。

「どうしたのかなぁ…朝比奈クン…」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ